「相手右サイドへの誘導とCBへのプレス」準決勝の分析から見えたアメリカの攻略法

小澤一郎 | サッカージャーナリスト

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連覇をかけたアメリカとの女子W杯決勝が7月6日朝(日本時間8時キックオフ)に迫る中、スペインでサッカー監督として活躍する尾崎剛士氏にドイツと対戦した準決勝のアメリカを分析してもらった。

尾崎氏が「すごく整ったチーム」と語る通り、今大会のアメリカも強国らしく試合を重ねる毎に調子を上げ、準決勝はFIFAランキング1位の強豪ドイツを2-0で下した。穴、弱点が見当たらないアメリカ相手に、なでしこジャパンはどう戦えばいいのか?ドイツとの準決勝から見えたアメリカの攻守の特徴をおさえながら、決勝における日本の勝機を探る。

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――準決勝ドイツ戦でのアメリカをチームとしてどのように分析しましたか?

すごく整ったチームというイメージを受けました。準決勝でのアメリカのシステムは4-4-2ですが、厳密にはロイド(10番)が少し中盤に下りる4-4-1-1となり、セカンドボールを拾うイメージが強い戦い方でした。おそらく、システムに関してはドイツの4-2-3-1に対応させていたと思います。

攻撃の形から言うと、センターバックから前線のモーガン(13番)、ロイドを狙い、左サイドハーフのラピノー(15番)を絡めていくというのが基本的な攻撃のプレーモデルです。サイドに関しては右よりも左サイドから崩していくのが得意な形です。「ボールを奪ってモーガン」、「モーガンがダメならロイド」という狙いと優先順位が徹底されていて、前線でボールが収まれば左のラピノーが積極的に上がって行きます。

――そこまで弱点のないチームに映りましたか?

狙いどころはありますが、基本的には教科書通りのいいチームだなと。守備に関しては4-4-2で綺麗に3ラインを作ってスライドをして、という教科書にある守り方です。逆に言うと、準決勝でのアメリカは攻撃、守備ともにシステムのバリエーションはほとんどなく、ロイドのポジショニングによって4-4-2になるか4-4-1-1になるかの違いでした。

――攻撃のプレーモデルにおいてバリエーションはないようですが、前線につけるボールの精度が高く、ドイツの激しいプレッシングを回避するパスワークもスピーディーでした。

パススピードが速いのに加えて、コンビネーションが出来上がっているので攻撃時に判断が入ってない、自動化された攻撃が多くみられました。

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前半9分、左センターバック(4番)がボールを持った場面ですが、ロイドとラピノーが同じように中盤に下がってきたのですが、ラピノーが空けたスペースを察知したロイドは180度方向転換をしてサポートの動きを入れました。そのタイミングでCBからモーガンにロングパスが入り、モーガンが頭で落としてロイドが前向き、フリーな状態でボールを受けました。

このコンビネーションは型として完全にトレーニングされている印象を受けました。なぜなら、選手たちは頭で判断するよりも先に動いていたからです。

――ドイツは序盤からハイプレスをかけようとしましたが、アメリカは上手くそのプレスをはがしていました。

そうですね。ワンタッチではがして縦に行く、前線に当てて落として前に抜けていくという攻撃です。それが準決勝では本当にはまっていました。ビルドアップのプレーモデルにおいて、長いボールを配球するのはほぼセンターバックの二人のみ。長いボールをセンターバックから入れる時にはターゲットはモーガンかロイド。そういう型がありますね。

――では、アメリカのビルドアップと攻撃のプレーモデルに対して日本はどのような対応が求められますか?

おそらく、日本は阪口夢穂と宇津木瑠美のボランチのポジションが低くなると思いますが、センターバックと連係をして中をきっちりと閉める守備が必要になります。まずは中をケアした上でサイドにボールを追い出すような守備をしないとドイツのようにやられてしまうと思います。

ドイツは中のスペースを消すのではなくボールを追いかける守備をしてアメリカに上手く攻略されました。スペースを消すゾーンディフェンスをやらなければ、アメリカの選手は動き直しが上手くピンチを招くことになると思います。

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実際、アメリカがPKを奪った67分のシーンはモーガンが中盤に下りたのに対してドイツの守備陣が彼女をフリーにしてしまい、前を向かれてスピードに乗ったドリブル突破を仕掛けられました。そういうシーンは避けたいですね。

――日本の前線2トップのプレッシングに関してもサイドに誘導した方がいいのでしょうか?

サイドに持っていった方がいいと思います。しかも、誘導すべきサイドは相手の右サイドです。アメリカの左サイドはSBクリンゲンバーグ(22番)とSHラピノー(15番)のコンビネーションが確立していますし、二人のポジションの入れ替わりも何度か見られたので、左から攻められると怖いですね。

逆に右サイドは、SBクリーガー(11番)とSHヒース(17番)が単発で深い位置に入って行くだけで、そこから結局後ろに戻して作り直す攻撃が3、4回あったのでそこまで怖くない印象です。

基本的に、日本の2トップはアメリカのCBがボールを持った時にしっかりとプレスをかけていった方がいいです。なぜなら、相手のビルドアップは最終ラインで2人か3人で回す形が多く、こちらは2トップなので2人で回す形になった時には数的同数を作れます。

CBのボールの持ち方の質がそこまで高くないので、ボールを受けてから蹴るまでの時間が結構長くあります。そこに大儀見優季、大野忍がアプローチスピードを上げてプレッシャーをかけていけば、そこまでいいボールを蹴れないと思いますし、致命的なミスも出ると思います。

だからこそ、相手にボールを持たれた時にどの高さにラインを設定するのかというのは日本にとって非常に重要なテーマとなります。私自身は、高い位置に設定して前からプレッシングに行った方がいいような印象は受けました。

――そのためには、準決勝イングランド戦のようにロングボールを恐れて早く、深くDFラインを下げることで全体が引いてしまう展開は避けたいところです。

そうなるとかなり厳しいですね。ドイツが後半に盛り返したのはラインを高く持って行ったことがかなり影響していると思います。2失点しましたが、内容としては前半よりも後半の方が良かったです。

――アメリカの守備のプレーモデルについてもう少し詳しく教えてもらえますか?

基本的に相手がボールをきっちりと保持、コントロールしたタイミングで、センターサークルの中まで2トップが落ちます。つまり、自陣にリトリート(後退)した上でプレスをかける守備のやり方を採っているのですが、準決勝は意外とそれが上手く機能していませんでした。

2トップの片方、特にモーガンが無理に飛び出たり、センターバックのドリブルでの持ち出しに引きつけられ、中盤のライン間に入られてパスを出されるようなシーンが目立ちました。3ラインを上手く設定しているものの、その部分のオーガナイズはされているようでされていないように見えます。

結局、個人の判断でボールホルダーに飛び込んでしまって、後ろにスペース、ギャップができてそこを使われてしまう。ただ、準決勝ではドイツの判断ミスで2、3回パスが入らなかったですけど、突けるスペースは必ず生まれてくると思います。

――そうなると日本としてはボールを支配する展開に持ち込みたいですね。

日本の攻撃に関しては、ボール保持を選択すべきでしょう。ロングボールよりもボールを持ちながら相手を引きつけて、引き出して前進していく方が効果的だと思います。

相手のダブルボランチについても前に対する守備は強いですが、横や背後のケアができない傾向が少しあるのでライン間のスペースは空いています。そこに大儀見が入って行ってボールを受け、日本のボランチが前向きでボールを持てるような局面打開ができるとチャンスは生まれると思います。

ある意味で、日本にとってアメリカはやりやすい相手だと思います。スライドに関しても、準決勝に関しては選手間の幅が広かったので、狙えると思います。素早くサイドチェンジを入れると数的優位ができやすくなります。そこで局面打開ができると中に決定的なパスを挿し込みやすくもなります。それはドイツも上手く狙っていました。相手がサイドでボールを保持した際、同サイドに寄せ過ぎる場面が多かったので、なおさらサイドチェンジは有効になってくると思います。

――警戒すべき選手は?

やはりモーガンとロイドでしょう。モーガンに関しては個人の能力だけでやられてしまいます。ロイドはスペースを見つけるのが非常に上手く、そこにすっと効果的なタイミングで入って来ます。個人的にはロイドが一番怖い選手だと思います。

――今大会の日本はスピードのあるFWに背後を取られることを警戒し過ぎる余り、早いタイミングでラインを下げてバイタルエリアを開けてしまう傾向があります。アメリカの2トップに対するDFラインのコントロールはどのようにすればいいでしょう?

ロイドを中盤に下げた4-4-1-1で来てくれた方が対応しやすいと思います。逆に4-4-2で前線が横並びになるとややこしくなってきます。ただ、そうした時に岩清水梓、熊谷紗希のセンターバックのみならず、サイドバックの選手がきっちりと中に絞ってカバーリングのポジションを取れるか、CBがスライドした際にボランチがカバーリングに入れるか、その2点もDFラインのコントロールにおいてはキーポイントになります。

――最後に、アメリカのセットプレーの特徴は?

攻撃のセットプレー(コーナーキック)は、いくつかパターンがあってドイツ戦では3つのパターンを使い分けていました。3つ共にファーサイドをポイントにしたものです。

1人がニアに飛び込むふりを見せて、ペナルティスポットあたりに選手を残してファーサイドを狙い、そこに人数をかけるセットプレーのパターンでしたので、ファーポストを注意すべきでしょう。

守備については1人がストーン、4人がゾーン、4人がマンマーク、1人がクリア(こぼれ球)を拾う役割でしたので、全員がエリアに戻っていました。日本戦で同じ守り方をしてくるかはわかりませんが、そうなるとカウンターもないので日本は攻撃のコーナーからカウンターを受ける危険性はそこまでないと思います。

ドイツ戦でもファーサイドが結構空いていたので、日本もファー勝負で行った方がいいかもしれません。

<了>

【プロフィール】尾崎剛士(おさき・つよし)

1983年4月3日生まれ、愛媛県出身。筑波大学蹴球部所属時代から少年サッカー指導者としての活動をスタート。選手を引退後は大学院に進学、その後大手企業に就職し、サッカーの現場から2年離れるも、2010年から町田高ヶ坂SCにて指導を再開。脱サラ後の2011年秋にバレンシアに渡り、地元の名門街クラブの一つアルボラヤUDで第2監督として指導を始める。2014-2015シーズンはU18の第2監督とU10の監督を兼任した。スペインサッカー協会公認中級ライセンス(レベル2)保有。

小澤一郎

サッカージャーナリスト

1977年、京都府生まれ。早稲田大学教育学部卒。スペイン在住5年を経て2010年に帰国。日本とスペインで育成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論やインタビューを得意とする。多数媒体に執筆する傍ら、サッカー関連のイベントやラジオ、テレビ番組への出演も。主な著書に『アギーレ 言葉の魔術師』(ぱる出版)、『サッカー日本代表の育て方』(朝日新聞出版)、『サッカー選手の正しい売り方』(カンゼン)、『スペインサッカーの神髄』(ガイドワークス)、訳書に『ネイマール 若き英雄』(著|ルーカ・カイオーリ/実業之日本社)など。株式会社アレナトーレ所属

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