北朝鮮が、日本人拉致被害者の再調査などにあたる特別調査委員会を発足させてから、1年の歳月が流れた。

 昨年秋、北朝鮮は調査の報告を「1年程度を目標」にすると明らかにした。だが、今月2日になって「しばらく時間がかかる」と伝えてきた。

 北朝鮮が誠実に調査にあたっているとは到底思えない。拉致は絶対に許すことができない人権侵害であり、強い憤りを禁じ得ない。

 北朝鮮は、説得力がある報告を速やかに出すこと以外、日本との関係改善は望めないことを悟るべきである。

 一方でこの1年を振り返ると不可解なことが多かった。

 昨年5月、国交正常化に向かうための日朝合意が発表された後、菅官房長官は調査の最初の通報が「(昨年の)夏の終わりから秋の初めごろ」にあるとの認識を北朝鮮と共有している、と述べた。

 だが通報はなく、あったのは「調査はまだ初期段階」という先送りの連絡のみだった。

 さらに安倍首相は3日、「日朝間に合意された具体的な期間があるわけではない」と述べ、回答期限を北朝鮮と詰め切れていなかったことを認めた。

 拉致問題は解決済みとする北朝鮮が再調査に踏み切ったとして、安倍首相は「重い扉をこじ開けた」と強調してきた。

 だが調査開始から1年が過ぎたいま、本当に重い扉は開いたといえるのか。

 現状の最大の責任が、北朝鮮の誠意なき対応にあることは言うに及ばない。

 だが北朝鮮との対話再開にあたり、安倍政権はどんな成算を抱いたのか。なぜこれほどまでに成果がないのか。少なくとも被害者の帰国を待ちわびる家族たちには、それを丁寧に説明する必要がある。

 再調査の開始を、家族らは期待と不安まじりのまなざしで見つめてきた。横田めぐみさんの母、早紀江さんは、この1年を「一番しんどく、つらい期間だった」と話す。政治はこの思いに応えられていない。

 報告がなかったことを受け、北朝鮮制裁を強化すべきだとの声が自民党などから出始めた。だが北朝鮮に態度を硬化させる口実を与えるだけで、対話の芽を摘んでしまいかねない。

 何よりもまず大事なのは、被害者たちの奪還である。

 今回の日朝協議を「最後のチャンス」と見る家族もいる。感情や功名心にはやらず、北朝鮮の実情を冷徹に見極めて、結果を出す交渉にあたるべき時だ。