2015年 07月 04日
◆7月4日16時現在。 弊社にとって2001年12月7日の鈴木書店の倒産は衝撃でした。第一作出版後の三ヶ月めで、創業一周年の佳き日でした。負債額は今回の栗田で想定されるものより上でした。鈴木書店は専門書取次で、人文書版元の依存度は高かったのです。同業の知人から「良く生き残ったよね」と言われました。 あれから十数年。取次第3位の大阪屋は昨秋、楽天、DNP、音羽(講談社)、一ツ橋(小学館、集英社)、角川の援助を受けて踏みとどまり、取次第5位の太洋社は危機を回避すべく昨夏に本社を移転して、先月からは新刊配本を王子日販に業務委託しました。それからわずか一ヶ月も立たない先週金曜日に第4位の栗田が民事再生法適用の申請です。ここしばらく、新たな重大案件が持ちあがるサイクルが確実に短くなっています。 大阪屋が栗田を倒産前に合併することは無理だったわけです。たとえ1,000社以上の版元が膨大な債権を放棄して栗田が生まれ変われるとしても、そして大阪屋と栗田が合併しうるとしても、その過程では一定数の出版社や書店が倒産したり廃業したりする可能性は残ります。そのことに、栗田や大阪屋としてできることはほとんどないでしょう。それでもなお栗田や大阪屋を出版界は信任できるのか。膨大な借金を踏み倒された相手に協力するなどという話があるのか。 出荷停止と入帳停止をしている版元、あるいはどうしようか迷っている版元に対して一方的に非難するような声(リンクは張りません)があるならば、それはとんでもない悲劇です。すでに借金を踏み倒された相手に対してさらに金を無心されろというのか。自分が死にそうでもなお何がしかをふところから奪われればいいというのか。そんなことは絶対にしません、とはまだ一言も明言していないのです、相手は。何故なのか。信用などあったものではありません。私が何を言わんとしているのか、お察しいただける方に感謝します。 危機の回転速度がこの先ゆるやかになるなどとは誰も信じることができず、大阪屋をいつまで大株主が支えるのかもわからないなか、将来的に大阪屋が再び危機を迎えた時に栗田の前例を踏襲させないことが版元にとって死活問題です。6日の債権者集会ではそこを見極める必要があります。 ある版元さん曰く、「今回の栗田民事再生のプランは何回考えても腑に落ちない。委託販売システムの負の側面が一気に表面化したようです。大阪屋との合併は予測できてもこんなやり方になると予想できた版元ってないんじゃないか。株主出版社は別として」(19:42 - 2015年7月2日)。 同様に感じておられる版元さんは多いのではないでしょうか。債権分が凍結されず返品されてしまう件(債権と買取のダブルパンチ)、これを前例として認めてしまうと、大阪屋が万が一危なくなった時には栗田規模の悪夢では済まないのです。それともその手の方々はすべて分かっていた上で前例を作りたいのでしょうか。民事再生とはいえ、いったん倒産した以上、債権がほとんど回収できないことは分かっています。時すでに遅し。しかしそのあとのケジメが付いていません。「物流を止めないために」などといういかにもそれらしい理由をつけた上に、25日以前の納品分からの返品と26日以降の納品分からの返品を「区別できず」、売上も立っていない納品分の返品を買い上げろ、というのはどう考えても都合が良すぎます。 そちらが区別できないというのならば、出版社ができることは、25日以前の既刊書の補充出荷を26日以降は行わないということです。そうすれば、26日以降に戻ってきた返品の中で25日以前のものとそうでないものが版元には区別できます。むろん、このほかにも版元が講じている防衛手段は色々とあります。すべて、栗田と大阪屋の不明朗な再建方針が引き起こしていることで、こうした事態が書店さんをも直撃することは事前に充分想定できたはずではありませんか。私たち版元は知っています、あなたがたは馬鹿じゃない。無知でもない。それなのになぜこんな無理を通そうとするんですか。版元と書店の双方に犠牲が出ることを承知の上での「再建」なのですよね? それともあなたがたではなく、あなたがたに命令する人たちがいて、その方々のロードマップに従っているに過ぎないのですか? 怒りを感じる一方で、こうも考えます、「もし自分が相手の立場だったら、果たして同じことを無理強いしないと断言できるだろうか」。右の頬を打たれたら左の頬も出す、というわけではありません。やはり容認はできません。しかし、栗田と大阪屋に奉職していらっしゃる方々の立場を思います。版元に対して必死に心の中で頭を下げ続けている方たちもきっとおられることでしょう。もう辞めたいとお考えの方々も。利害関係とは別の思いが版元にもあります。 例のリストをご覧になった方々がすでにtwitterであれこれつぶやかれていますが、こんな声がありました(すみませんが、リンクは張りません)。ウェブ・ディレクターさん曰く、「栗田出版販売の債権者リストの買掛金の数字がとても面白い。 【URL削除】… 「〇〇は前から警戒してたっポイね」とか「△△はー…、あー、パートワークの延勘でこんなにデカいのか」とか」(22:50 - 2015年7月2日)。また、ある版元さんは、「丸善書店での年間売上額の1位と300位は132倍。ジュンクだと97倍。そして今回の栗田への売掛額だと129倍。特段のノブレス・オブリージュが発動された気配は、ネットに流れている売掛額からは見えない。【URL削除】…」(5:19 - 2015年7月3日)。 要するに、見る人が見れば分かるということです。版元がどんな書籍、雑誌、定期刊行物を出しているか、それらの出荷数や条件を推測して考え合わせれば・・・。版元名と数字の羅列からでも読みとれる人は読みとれるということです。 巨大掲示板に張りつくのは嫌だ、という方でも、ノイズを除去したまとめならご覧になりやすいのではないでしょうか。「午後の蒐集」ブログの7月3日付エントリー「ビジネスnews+【出版】取り次ぎ4位の栗田出版が再生法申請、電子書籍の普及などで採算が悪化」では、曖昧な推測で業界を一刀両断にしようという人がいる一方で、現役と思しい方々の冷静な書き込みもあってほっとします。そして、「倒産なう」に6月27日から設置されている栗田専用の掲示板にいまだ何も書き込みがないことにも、ある種の安堵を覚えます。なにせ「IPアドレス開示の命令には必ず従っております」っていうんですから。 +++ ◆7月4日19時現在。 一方にとっての「再建」は、他方にとっての「崩壊」でありうる。 あなたの再建はあなたのものであって、わたしのではない。 そこに「わたしたち」はいない。まだ、いない。 当たり前のことを言わねばならないと感じます。 一方にとっての「再建」は、他方にとっての「崩壊」でありうる。 ただ、一方が「再建」できなくても、他方には「崩壊」がありうる。 さて、どちらの選択肢がより被害が少ないか。 被害とは何か。誰の被害か。 この被害に「公共性」はあるか。 個別の犠牲と個別の死あるいは生き残りには、 いかなる名誉も与えられていません。 選択の時が近づいています。 +++ ■
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