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■就活する君へ

 「働く」とはどういうことでしょうか。こんな素朴な疑問を、会社で働き方を考え、採用の責任者でもある現役の人事部長にぶつけてみました。第一生命保険の武富正夫さん(51)が取材に応じてくれました。

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 ――「働くこと」とはどういうことですか。

 「わたしの言葉で言えば、『自分自身の面積を大きくする』ことです。人としての価値を大きくする。経験を積むだけでも面積は大きくなりますが、持っている能力をどう発揮させるかで、さらに大きく成長させることができるし、逆に小さくしてしまうこともある。修羅場をくぐり抜けて、経験としてしっかり生かしていけるかどうか、挫折を味わってなお乗り越えようとするかどうか。こうしたことで、面積は大きくかわるものです」

 「ずっと同じ面積だった人が、急に大きくなってびっくりすることがよくあります。言葉を選ばずに言えば、『化けた』ということでもあります。会社にとっては、あれっ? この人いつの間にか大きく化けちゃった、となれば成功です。仕事やトレーニング、まわりの上司も、人の面積を大きくするためには重要な要素です。化けてもらうために、適性をみきわめて能力とやる気を引き出したいと思っています」

 ――キャリアだけがすべてではないはずです。

 「我々の世代はがむしゃらに働けばよかったという点で、ある意味、楽だった。今にして思えば、家族や地域社会への貢献、自分のための勉強時間をもっと大切にしておけばよかったと思います。しかし、徐々にかわってきています。物理的に長時間労働はできない仕組みですし、若い世代は男女ともに家事や育児を積極的にシェアしたいと思っています。会社にすべてを捧げる時代ではないにしろ、それでも会社の理念に共鳴してくれます。我々の世代は、退職後の時間割を心配しますが、若い世代はうまくやっていくのではないでしょうか」

 ――その若い世代はどうでしょうか?

 「仲間を大切にする意識は強いと思います。チームワークを大切にします。一方で、競争心という面はマイルドです。当社は社員育成にあたって、『プロフェッショナル&チームワーク』というテーマをもうけています。社員個人が、課題や変革にチャレンジして、人としての面積を広げていく働き方のなかには、仲間の多様な価値観や個性を受け入れて、チームとして成果をあげることも含みます。社員はお互いに共感し、共振共鳴しあって、一人ひとりの面積を大きくしていって欲しいと思います。若い世代は、十分にその素養があります」

 「採用に関しても、そうした可能性を持つ人たちを採用したいのです。優秀な人だけ、とんがった人だけ、まじめな人だけというわけではないのです。だから、採用選考に関しても若い社員の感性を大事にしています。若い社員が話を聞いて、一緒に仕事をしてみたい、おもしろそうだという意見を尊重し、採用活動を実質的に担ってもらっています」

 ――就活生にアドバイスするなら、どう言いますか。

 「面接などで、身の丈以上のものを出そうとしても無理です。うそを言ってもわかってしまう。いかに自分自身をしっかりだすか、です。すごく基本的なことです。自分の経験や考え方、志望する会社への共感を、自分の言葉で話すこと。それができれば後は、運であり、縁です。その会社と感性が合って、自分の人としての面積を大きくする可能性があるのなら、飛び込めばいい」

 ――「自分を出す」というのが最も難しいのでは。

 「こう考えるのはどうでしょうか。わたしは『準備万端』と『棚卸し』という言葉を使うのですが、就職活動は自分を見つめ直し、自分の活動を振り返る『棚卸し』ができるいい機会です。そして、いろんな会社や人に出会えるチャンスでもある。そこは、今まで知らなかった外の世界の領域です。『準備万端』でのぞみ、自分を出す努力をして、失敗してももう一度、なぜうまくいかなかったかを振り返り、棚卸しして乗り越えていこうと。さらに準備万端整えて再チャレンジする。それを積み上げていくことだと思います。この経験は、これからの人生でも生きてくるはずです」

 「学生たちは、いい会社、大きな会社、親が喜んでくれそうな会社に入りたいと思うかもしれない。しかし、自分の感性と価値観が合う会社に入るのが一番いい。私個人の経験でも、人事部長としてもそう確信しています。うまく話せなくても、引っ込み思案でも、自分なりに頭を整理して、自分を出せるように練習する。そうすれば、結果がかわってくるはずです。そして自分の可能性を、見てくれる人は必ずいます」

 ――自身の就活の経験はどうでしたか。

 「出身は兵庫県です。実は、小さいころから恥ずかしがり屋で、人と接することが苦手だった。授業では発表ができない。小学生の卒業文集での将来の夢は『サラリーマン』。就活時も、うまく自分を表現できない。グループ面接は苦手で、ほかの人たちに気おされ、しゃべられなくなる。勉強もできた方でなく、英語もできず、体育会系でもない。これといった取りえのない学生でした」

 「当時、関西の生命保険会社では、なんといっても日本生命と住友生命。志望した会社には落ちました。第一生命は当時、関西では知名度が低かったから、正直、自分のなかではそれほど行きたい会社ではなかった。でも、第一生命のリクルーターには、『準備万端』でのぞみ、うまくいかなくても自分を、もう一回『棚卸し』し、自分をこう変えようと思っている、と伝えたのを覚えています。その先輩は、自分のことをとてもよく理解してくれ、自分の感性、価値観に共感をもってくれた。就活の途中から、自分自身を変えたい気持ちも強くなって、なじみのない東京で仕事がしたいとも思い始め、ここに決めました。後に上司から、『関西での採用活動を強化したから、ひっかかった』と聞かされました。『なんや、それ!』です」

 ――30年ほどたって、人事部長となっています。

 「実は自分には、華々しいプロジェクトでの成功体験も、修羅場での悪戦苦闘の経験もありません。希望の仕事で大活躍というケースも、それほどありません。それでも、やっぱり目の前の仕事に対しては『準備万端』でのぞみ、常に『棚卸し』してきました。大きな仕事に携わらなかったゆえに、かえって自分を鍛えてきたのかもしれません。先ごろ会った小学校時代の恩師はびっくりしていました。自分も少しは化けられたのかもしれません」(海東英雄)

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 たけとみ・まさお 1963年生まれ、兵庫県出身。関西学院大経済卒、86年に第一生命保険に入り、契約医務部長などをへて、13年に執行役員人事部長。いまは常務執行役員人事部長。

■記者のひとこと

 現役の人事部長ってどんな人なのか。一分の隙もないエリートサラリーマンかと思いきや、武富さんはこれまでのサラリーマン人生で「華やかな活躍は少ない」という意外な言葉を口にしました。「これといった取りえのない学生だった」と言い、若い時には、劣等感もあったそうです。

 ただし、彼の人生のキーワードは「棚卸し」と「準備万端(整える)」です。1日、1週間、1年を振り返り、失敗に学び、次に備える。一発逆転はできなくとも、こんな積み重ねが、「自信」につながるそうです。人は大きな成功や実績を求めがちですが、こつこつ型でも、大きく成長できるということです。就活生にも参考になるのでは?