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2015-07-03

就寝1時間前、どうやってネット断ちして過ごすか

 

 深夜のインターネットは「こころの回復」に適していない - シロクマの屑籠

 

 昨日の記事にはアクセスが集中し、皆さんの睡眠に対する関心の高さを改めて実感しました。そうしたなか、「どうやって1時間ネット断ちすれば良いのか?」的な質問も頂きました。

 

 そうですね。私自身の体験から言っても、ネットを就寝1時間前にやめるのは大変です。自分自身が精神的に追い詰められている時・寂しいと感じている時など、早く寝たほうが良いコンディションの時にかぎって深夜にネットをやりたくなってしまうのもわかります。

 

 昔から、ネットユーザーの間では「健康なネットライフを実現する最良の方法は、オフラインの生活を充実させることだ」と言われてきましたが、たぶん本当です。日常生活が不遇なほどネットライフも不健康になりやすく、セルフコントロールも利きにくくなるのは臨床側からみてもオンライン側からみてもまず間違いないでしょう。ネット依存についての報告でも、ネット依存のリスクファクターとして、抑うつ・低い自尊心・寂しい境遇・ストレス・貧困などがしばしば挙げられますし。

 

 インターネットのこうした性質を眺めていると、私は「アルコールに似ているなぁ」と思います。十分健康で判断力が曇っていない時のアルコールは、そんなに危険ではないかもしれない。しかし、一定レベルを超えて不健康だったり不遇だったりするとアルコールはコントロールが難しくなり、その危険な側面をみせはじめます。アルコール依存は物質関連の嗜癖でネット依存は行動上の嗜癖なのでバイオケミカルな次元では異なりますが、共通点もあるように思います。

 

 だから最近の私は、「皆さん、もっとインターネットを怖がったほうが良いのでは?」と思っています。18歳未満には禁止にする……とまではいかなくても、午後9時には未成年向け全端末をシャットダウンするぐらいの勢いで規制しても、バチは当たらないんじゃないかと考えるようになったんですよ。

 

 昔はテレホーダイという時間的制約があり、大きなPCを使わなければならなかったので、深夜とはいえネットに深入りできる程度は限られていました。なによりユーザーの絶対数が少なかったので、ネット依存になる人がいるとしても全人口のなかでは“たかがしれて”いました。

 

 しかし現在では常時接続が行き渡り、旅行先にも寝室にもインターネットが(スマホのようなかたちで)闖入してくるようになりました。ユーザー数も爆発的に増え、中高生のほとんどがSNSやLINEをたしなむ時代です。ここまでインターネットが間近になり、未成年のネット依存者の推計が51万人と発表される状況ができあがった以上、ユーザーがネットに呑まれにくいような枠組みが必要だと私は思います――もちろん業界は反対するでしょう。だとしても、深夜の自動販売機でアルコールを売らないのと似たような“配慮”がそろそろインターネットにも必要だと思うんです。ネット依存の研究蓄積が足りないので今すぐは難しいかもしれませんが。

 

 他の依存症と同じで、枠組みをどうしようとも啓蒙活動をやろうとも依存しちゃう人は出てくるもので、それはどうしようもないし、まさにそのような人には医療の手が必要でしょう。しかし医療の手を借りる人が少なくて済むような枠組みや制度は必要ですし、個々のネットユーザーにおいては、依存症と背中合わせな自覚やリテラシーが必要だとも思うんです。

 

 

就寝前のひとときをどのように過ごすべきか

 

 まえがきが長くなりましたが本題です。

 

 就寝前のインターネットは睡眠を妨げがちですが、まさにその就寝前にネットをやめるのが難しい……というご指摘をしばしば頂きます。じゃあ、どう過ごせば良いのか?すべての人に有効ではないかもしれませんが、あるていど参考にできる方法はあります。

 

 手元にある『カプラン精神医学 第二版』の原発不眠症のページからちょっと抜粋してみましょう。ここには不眠対策として

 

 ・筋肉の緊張が目立つ場合はリラクゼーションのための音楽・超越瞑想・リラクゼーションの実践・バイオフィードバックなどが有効

 ・精神療法(カウンセリング)はあまり役立たない

 ・性行為による満足感は女性より男性において睡眠効果が高い

 

 と書かれています。ストレッチや“賢者タイム”は案外有効ってことですね。同書には睡眠障害を改善する睡眠衛生として

 

 1.毎日同じ時間に起きる

 2.毎日の就床時間を、睡眠障害になる前の通常の時間に決める

 3.中枢神経活性物質を止める(コーヒー、ニコチン、アルコール、刺激薬)

 4.昼寝を避ける(睡眠表が昼寝をとったほうがよいことを示す場合を除く)

 5.段階的なプログラムの実践を通して活発な身体運動を早朝行う習慣を確立する

 6.夕方の刺激を避ける(テレビの代わりにラジオや落ち着いた読書にする)

 7.体温が上昇するように就床間近に熱い風呂に20分ほど浸かる

 8.毎日同じ時間に食事をとる。入眠間近の大食を避ける

 9.筋肉弛緩や瞑想のような、リラクゼーションを夕方規則的に行う

 10.心地よい睡眠状態を維持する

 

 も挙げられています。ただし、「これらを一度にやろうと頑張り過ぎると失敗しやすい」「指導はあまり厳格すぎない程度が良い」とも。

 

 睡眠は生活習慣やライフスタイルと密接に関わっていますから、【睡眠を改善させる=ライフスタイルを軌道修正する】なわけで、そうそう簡単に変わるものじゃありません。だからゆっくり取り組むべきだし、ひとつの改善点だけで睡眠問題がすべて片付くと考えるべきでもないでしょう。睡眠を助けてくれるファクターを少しずつ増やし、睡眠を妨げそうなファクターを少しずつ減らす――そういう地道な積み重ねによって睡眠は促進されやすくなり、ひいては生活の質も向上するのではないでしょうか。

 

 もちろんこれは精神疾患の随伴症状としての不眠を前提にした話ではありません。精神疾患によっては(向精神薬も含めた)医療的介入が必要な場合もあるでしょう。ともあれ、睡眠を改善させるためには就寝に備えて神経のスイッチをだんだん落としていくような生活習慣が大切で、その生活習慣なるものは、一週間やそこらでできあがるようなものではありません。

 

 

私の「就寝1時間前のネット断ち」

 

 ちなみに私もきちんとした睡眠習慣を数年前から作ろうとしていますが、まだまだの状態です。問題の一端は病院の当直業務のせいもあるでしょう。しかしそれだけでなく、テレホーダイ時代に身に付いてしまった深夜のインターネットが足を引っ張っているのも明らかで、「就寝1時間前をどうやってネット断ちするか」に取り組んできました。

 

 それでも取り組み続けた甲斐はあったと思います。

 

 昔は午前1時ぐらいまでネットをやっているのが当たり前でしたが、最近は午後11時までやっているほうが珍しいぐらいです。就寝1時間前にネットをやめる習慣が身に付いてきたと思っています。

 

 私が就寝1時間前にやっているのは、ストレッチだったり、読書だったり、ワインを呑むことだったりします。このうち読書やワインは原理的には睡眠を妨げる可能性がある行為で、おおっぴらにお勧めできるものではありません。特にアルコールは睡眠の質を妨げやすく、それ自体にも依存性があるため、良くない習慣です。

 

 それでもインターネットを遮断できるのは素晴らしい恩恵です。1時間後に寝ると決めたら、私はネット機器の電源を落として回り、室内照明を暗くします。手足を伸ばしたり温かいものを飲んだり、お気に入りの本のお気に入りの一節をなぞったりします。ワインの在庫を思い出して「あのワインはいつ頃が飲み頃だろう?」と思いを巡らせるのも好きです。

 

 私はインターネットにとりつかれているので、神経が休まってくるとブログが書きたくなったりtwitterにワンフレーズ投稿したくなったりします。困ったことに、そういう時に限って面白いアイデアだったりするんですよ。昔はそういったアイデアを全部ブログに直打ちしていましたが、最近はレポート用紙にあらましを殴り書きするようになりました。そのほうがずっと神経に優しく、アイデアを翌日に持ち越せます。

 

 これは一人のブロガーとしての所感ですが、「オフラインに書く」のと「オンラインに書く」のでは、心を落ち着ける効果は絶対に前者のほう上だと思います。思いの丈をオフラインに書けば落ち着く可能性があるけれども、twitterなどに垂れ流すと興奮度が高まってしまうように感じられるのです。たぶん、他人の反応を気にしてしまうからでしょう。何かを吐き出したい・でも眠りは妨げたくない人は、オフラインに、できるだけ簡潔に書き留めておくと良いかもしれません。なにも書かない・吐き出さないと落ち着かない人には、これは良い方法だと思います。個人的な日記帳ライフログも良いかもしれません。

 

 こうした私の実践を支えているのは、「オンライン状態を維持するのは有害」「ダラダラネットにアクセスするのは、オンラインゲームに溺れているのとたいして変わらない」という認識です。インターネットは自分の健康を奪う可能性の高いものと考えるようになってから、インターネットやネット端末に対する考え方が変わりました。とりわけSNSやスマホやタブレットが台頭してからは適切な距離を取りづらいと感じるようになったので、インターネットに対する警戒感が高まりました。個人的には、そういった万人の神経を昂ぶらせやすいソーシャルメディアがなんら規制を蒙ることもなく普及しているのは、本当はとんでもないことではないかと思っていますが、普及してしまったからには仕方ありません。私は私の身を守るために、インターネットに接続する時間をなるべく管理し、制限しなければなりません。

 

 それともうひとつ、私の内にあるちょっとした儀式性が助けになっているような気がします。インターネットを切断して過ごす1時間を就寝前の儀式とみなすと、意外と続けやすいといいますか。儀式なんて非効率で柔軟性に欠ける発想とうつるかもしれませんが、私は儀式や日課が好きなので「ネットを切断した手持無沙汰なひととき」をありがたがってみたのです。私の自律神経のスイッチは電子機器と違ってoffにするのに時間がかかるので、そういう手持無沙汰な時間で神経を宥めるとちょうど良いようです。

 

 

末永く、健康にインターネットを愛していくために

 

 さきほど挙げた睡眠衛生の十カ条を思い出すと、ここに書いた私のやり方では合格点が貰えないような気がしますし、職業的に推薦できるものではないことは断っておきます。しかし、こうしなければ私は深夜のインターネットを遠ざけられなかったし、こうやって深夜のインターネットを遠ざけて良かったとも思っています。私がまっとうに生活していくためには――いや、ブロガーとして長生きするためにも――深夜のインターネットを駆除したライフスタイルが必要だと確信しています。

 

 個人としての私は、インターネットが今でも大好きです。でも、インターネットを愛し続けてきたからこそ、自分がいつネットに呑まれてもおかしくないと自覚しなければならない。私はこれからも健康に・楽しく・コントローラブルにインターネットと向き合っていきたい。だから深夜のインターネットを減らし、必要な時に必要なだけインターネットに接続するライフスタイルに移行しなければなりません。

 

 これをお読みになったあなたが、本当にインターネットを愛し、末永く・セルフコントロールを利かせながら利用したいと考えているなら、この手の地味な実践を是非お勧めします。地味だからといって簡単ではありませんが、有用性が乏しいわけでもありません。少なくとも私にとって、これがインターネット処世術の最前線(のひとつ)です。

 

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