クラブで働く女性と夫が不倫しても、商売で性交渉に応じたにすぎない。夫婦の平穏な暮らしを害する不法行為ではない。

 そう判断した東京地裁判決が注目を集めている。

 妻が夫の7年来の不倫相手として、東京・銀座のクラブのママに慰謝料を求めた裁判だ。

 判決は、よい顧客を確保するために営業活動として性交渉する人が少なからずいるといい、「枕営業」と呼んで、「公知の事実」だと認定した。この営業への対価はクラブに払われる代金に含まれているとして、売春と同様に扱っている。

 専門家からは「社会通念とずれている」などの批判が出た。

 欧米メディアでも報じられた。接客の女性と性関係をもつことに対する裁判所の寛容さへの驚きからのようだ。確かに大きな問題をはらむ判決だ。

 他方、不倫相手への慰謝料請求がほぼ認められている現状をどう考えるかは、目を向けるべき論点だろう。

 夫や妻に不倫された人が不倫相手から慰謝料をとれる、との判例は明治時代からあった。

 1979年の最高裁判決は、既婚者だと知って関係をもった場合は「どちらが誘惑したかなどにかかわらず、慰謝料を払う義務が不倫相手にはある」と明言している。

 96年には結婚が破綻(はたん)した後の不倫には責任はないとする最高裁判決もあったが、一般的に不倫相手は慰謝料を免れないとする判断が重ねられてきた。

 配偶者が不倫相手との生活を選び、残された人が二人に慰謝料を求めたいという気持ちは自然なものかもしれない。

 だが現実には、不倫発覚後も結婚生活は続き、不倫相手だけが訴えられることが少なくない。婚外交渉をしない義務は配偶者間のものなのだから、一義的な責任は配偶者にある。

 そんな中、夫が妻以外の女性に言い寄って強引に関係したようなケースでも、その相手の女性が慰謝料を払わざるをえないなど、実情に見合わないケースの指摘が出ていた。

 研究者や実務家からは不倫相手への慰謝料請求は、夫を奪って妻を困らせる意図があったときなど、限定的に認めるべきだといった反対意見が出ている。

 結婚が続いている限り、慰謝料は認めるべきでないとの意見もある。たしかに第三者を責めるよりまず夫と妻が向き合って解決すべき問題とはいえよう。

 司法は、不倫相手の責任を一律に認めるのではなく、不倫の経緯や夫婦関係を個別丁寧にみて判断することが求められる。