【2020年五輪へ、新・東京物語】下村文科相「巨大アーチで収支破綻」認めた
下村博文文部科学相(61)は30日の会見で、2020年東京五輪・パラリンピックのメイン会場となる新国立競技場の管理・運営を大会後に民間委託する方向で検討すると明らかにした。事業主体となる日本スポーツ振興センター(JSC)が立てた収支計画が破綻していることを認め、29日に表明したネーミングライツ(命名権売買)を含め、民間を生かす方針に大きく舵(かじ)を切った。
下村文科相は会見で、新国立の整備費が約900億膨張し2520億円となったことを受け、五輪後の収支計画が破綻したことを明らかにした。
JSCでは昨年、年間約3億3000万円の黒字になると試算した。だが、下村文科相はこの日、大規模修繕費用の積み立て分を含めると赤字になると指摘。修繕費は完成後50年間で656億円。政府関係者によると、五輪後に設置する開閉式屋根についても「300億円以上」が必要という。下村文科相は「国民に負担をかけないためには民間の発想を取り入れる必要がある」とし、「修繕費積み立ての負担を考えると(トータルでの)黒字は難しい。税金投入を減らす努力が必要だ」と話した。
これまで、文科省やJSCは「新国立を民間に委託することは、世論が許さない」と否定してきたが、突然の方針転換となった。本体に多額の費用が必要なだけでなく、完成後の維持・管理も赤字の恐れがあると認めたことで、さらなる批判は必至だ。
また、下村文科相は整備費の膨張が、新国立の巨大なアーチ構造が原因となっていることを初めて明かした。新国立は女性建築家のザハ・ハディド氏をデザイン監修者とした。複数の専門家は、このデザインの特徴となるアーチ構造が整備費の膨張と工期の遅れにつながると指摘してきたが、下村文科相はそれを認める形で「この案を選んだことが、結果的に予算オーバーとなった」と話した。
文科省が否定してきた新国立のネーミングライツや民間委託の導入が突然、表明され、方針は二転三転している。こうした動きを受け、政府・与党内からは、新国立を使う予定の19年秋のラグビーW杯日本大会の会場変更を求める声が上がっている。新国立は10月着工、当初より2か月遅れの19年5月に完成するとしている。だが、政府関係者によると、現段階でその時期に新国立が完成する見通しは立っていないという。ある自民党幹部は「足かせとなっているラグビーを諦めれば、設計をゼロから見直すことができる。整備費も1000億円以下、工期の問題もなくなる」と指摘した。
文科省は今後、有識者会議を設置。民間企業が空港運営に参入している事例なども参考に、委託のあり方を検討する。