東京五輪・パラリンピックの主会場となる新国立競技場は、公共事業として失格だ。

 総工費2500億円余り。3年前のロンドン五輪の主会場の4倍近いという、その巨額ぶりだけが問題なのではない。

 事前の丁寧な説明と合意づくり、完成後もにらんだ長期の手堅い収支計画など、現代の公共事業に求められる基本がまったく尽くされていない。

 日本は高度成長期を中心に道路や橋、上下水道などのインフラ、体育館や公民館といった施設を次々と造ってきた。それらが今、一斉に更新期を迎えている。少子高齢化と財政難のなかで国や自治体は集約しつつ維持しようと必死だが、財源確保に苦しんでいるのが実情だ。

 そこから学んだ教訓は何だったか。

 計画段階から情報を公開し、市民とともに議論する。費用対効果、受益と負担を厳しく見積もって投資の是非を判断する。将来の大規模改修費を織り込むことも当然欠かせない……。

 ところが新競技場は、「失敗する公共事業」そのものだ。

 巨大な2本のアーチを組み込むデザインを根本から見直し、一般的な競技場と同じ構造に改めると、工期や総工費はどう変わるのか。国際コンペで採用した著名建築家との契約を破棄すれば、違約金など追加負担はいくらになるのか。国民が知りたい情報は伏せられたままだ。

 事業主体の独立行政法人、日本スポーツ振興センターが立てた収支計画は、すでに破綻(はたん)している。様々な事業や経費を積み上げて年に3億円の黒字と皮算用するが、これには将来の大規模改修費が含まれていない。

 センター自身がはじいた改修の必要額は、50年間で約650億円。単純にならせば年13億円で、これだけで赤字転落である。年700万円のVIPルームを約50室販売し、大規模コンサートを年12回開くという計画にも、楽観的すぎるとの指摘が絶えない。

 そもそも総工費の見積もり自体が迷走を重ね、開閉式の屋根を後回しにしてもなお、コンペ時点からほぼ倍増した。資材などの高騰で今後もさらに膨らむのは必至だ。

 国の借金が1千兆円を超える財政難と向き合うには、歳出の絞り込みと負担増という、痛みを伴う改革が避けられない。こんなずさんな事業を許すようでは、国民は納得どころか反発するばかりだ。

 政府に危機感はないのか。現行の計画は白紙に戻し、一からやり直すしかない。