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【社説】

新幹線火災 引き出すべき教訓は

 よりによってなぜ新幹線だったのか。JR東海道新幹線のぞみ225号であった火災は、乗客の男が図った焼身自殺が原因だったようだ。動機の解明を急ぎ、安全管理の在り方を再検証しなくては。

 東海道新幹線が一九六四年十月に開業して以来、車内で起きた事件としては最悪の事態という。車両の不具合が引き金ではなかったにしても、二十人を上回る死傷者が出てしまったのは残念だ。

 火災が発生したのは六月三十日正午前。東京発新大阪行き下り列車は、神奈川県の新横浜−小田原間を走行中だった。

 先頭の一号車に乗っていた男がポリタンクに入った油のようなものをまき、自らかぶってライターで着火したという。白煙が充満し、巻き添えを食ったらしい女性の乗客一人が息を引き取った。

 気密性が高く、逃げ場のない車内で火を放つとは、およそ想像もつかない事件だ。多くの無関係の乗客が巻き込まれ、四十本余りの上下線が運休を強いられた。教訓を引き出すためにも、警察当局には徹底捜査を求めたい。

 運転士は列車を緊急停止して火を消し止め、乗客は後ろの車両に避難、車掌は駆け付けた。被害は最小限に食い止められたかもしれない。それでも、負傷者が相次いだ。事後の措置や、高齢者や子どもへの配慮は行き届いていたか。

 灯油やガソリンのような危険物の車内への持ち込みをどう防ぐのかも課題ではある。鉄道会社は持ち込むことができる手回り品を規則で制限しているが、手荷物検査は実施していない。

 来年の伊勢志摩サミット(主要国首脳会議)や五年後の東京五輪を控え、警察当局にとって大量輸送の公共交通機関のテロ対策は欠かせない。欧州諸国の国際鉄道などで手掛けているような手荷物検査の必要性を説く声もある。

 しかし、一日の乗客が約四十二万人に上る東海道新幹線で実施するのはやはり非現実的でもある。航空機のように厳しい検査を課しては高密なダイヤは乱れ、乗客の負担は過大になる。

 駅構内の監視カメラの運用や警察官の車内巡回を強化し、不審者の発見や危険物、凶器の持ち込みを極力排除してほしい。車内の消火設備を充実させたり、乗務員の訓練を重ねたりすることも大事だ。

 日本の鉄道の安全確保は、乗客のモラルと信用に委ねられてきた面が強い。もし、その場に居合わせたらどうすべきか。私たちにも問い掛けはあるだろう。

 

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