音楽で伝わる等身大の私　渡辺真知子

　「迷い道」「かもめが翔（と）んだ日」などで一世を風靡（ふうび）したシンガー・ソングライター渡辺真知子。デビューの契機となったコンテスト出場から満四十年を迎えた。自ら「迷い道」に入ったこともある音楽人生。来年の還暦を「第二の人生の新たな出発点」ととらえ、これまでの活動を集大成したアルバムを出した。　（安田信博）

　●現在、過去、未来…。独創的なイントロに続いて、伸びやかで声量のある歌声を響かせて大ヒットした「迷い道」。自ら作詞・作曲し一九七七年にプロデビューを飾ったこの曲が、シンガー・ソングライターとしての原点である。力強く個性的な声に着目したレコード会社のディレクターが「個性を生かすには、音域も知っている自分で作った曲を歌うのが一番」と勧めてくれた。

　だが、そのディレクターから容赦ないだめ出しが続いた。「サビは一番前に」「もっと盛り上がれ」…。渡辺は「口がヘの字になりましたよ」と苦笑交じりに振り返る。冒頭のフレーズはトランプの恋占いをしている際に思い付き、「まるで喜劇じゃないの」の一節はピエロが描かれた電車のつり広告からひらめいたという。計十六回の書き直しを命じられた経験が「大きな財産」となった。

　第二弾は、横須賀出身の渡辺をイメージしたプロの詞に曲をつけた「かもめが翔んだ日」。詞を見た瞬間、すらすらとメロディーが浮かんできた。ディレクターは高く評価しながらも「何かが足りないな」。冒頭部分に、「ハーバーライトが朝日に変わる　その時…」の詞を付け加え、渡辺が作った別の曲のメロディーを充てて完成した。

　その後も「ブルー」「たとえば…たとえば」「唇よ、熱く君を語れ」とヒット曲を連発、二年先までスケジュールがいっぱいという忙しさが続いた。「車で移動中に取材を受け、眠ってしまったこともありました」

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　昭和の終わりが近づくころから流れが変わる。テレビの音楽番組が姿を消し始め、世はバンドブーム。「迷い道」のような水準の高い曲を要求され続ける重圧に悩んだ。歌っている最中にメロディーが分からなくなり、円形脱毛症にもなって人生の「迷い道」に入り込む。「もう一度自分をふるいにかけて見つめ直そう」と決断し、いとこの住む米アリゾナ州に飛んだ。

　メキシコ国境に近い街トゥーソンで、明るさの中に哀（かな）しみも秘めたラテン音楽の魅力を体感。英会話学校のパーティーで「かもめが翔んだ日」を歌うと、言葉の壁を越えて大喝采を浴びた。「大好きな歌で、等身大のエネルギーが伝えられればそれで十分」。目からウロコが落ちた。「ライバルであり、足かせにもなっていた過去の自分」と決別し、半年で日本へ戻った。

　九五年に始まった日本テレビの音楽バラエティー番組「ＴＨＥ夜もヒッパレ」では、抜群の歌唱力と、底抜けに明るいキャラクターで存在感を示した。ラテンに加え、ジャズへの関心も高めキューバ、ブラジル、ロシアなど海外で歌う機会が増えた。「君みたいな日本人は初めて」と、よく言われるという。音合わせの段階から「私の音楽はこれなのよと、どんどん歌い込んで主張していく姿が珍しいのかもしれません」。

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　今月二十四日に出した、アルバム「いのちのゆくえ〜Ｍｙ　Ｌｏｖｅｌｙ　Ｓｅｌｅｃｔｉｏｎｓ〜」（三枚組み）は、アマチュア時代に出場したコンテストを含めた過去の全足跡がたどれる内容。大親友の岩崎宏美に提供した「あなたにだから」のセルフカバーや、自身のヒット曲「たかが恋」はピアノ一本で新録した。斬新さが際立つライブ音源も数多く、「かもめが翔んだ日」は三拍子にしたり、スペイン語を交えたりして思いっきりはじけている。「私にとっては一曲一曲が子どものようなもの。この子たちをしっかり見守ってほしい、との思いをタイトルに込めました」

　生後六カ月で童謡のメロディーをハミングしたという“天性の歌姫”。その成長を温かく見守った両親は二〇〇六、〇七年に相次いで亡くなった。横須賀市の実家から見渡せる京浜急行堀ノ内駅では、〇八年十一月から、列車の到着の際に「かもめが翔んだ日」のメロディーが流されている。

　<わたなべ・まちこ>　１９５６年１０月２３日生まれ。７５年に第９回ヤマハポピュラーソングコンテストで「オルゴールの恋唄」が特別賞。洗足学園短大音楽科卒業後の７７年、「迷い道」でデビュー。７８年「かもめが翔んだ日」で日本レコード大賞最優秀新人賞。２０１１年４月から、全国コミュニティーＦＭラジオ約８０局ネットの生番組「アフタヌーンパラダイス」（制作・エフエム世田谷）の火曜レギュラーパーソナリティーを務めている。