社説:箱根山噴火 正確な情報を速やかに

毎日新聞 2015年07月01日 02時30分

 箱根山の大涌谷周辺でごく小規模な噴火が発生した。気象庁は噴火警戒レベルを、火口周辺規制の2から入山規制の3に引き上げ、地元の神奈川県箱根町は火口から半径約1キロの住民らに避難指示を出した。

 箱根山の噴火は12世紀後半から13世紀の水蒸気噴火以来で、噴火を科学的に観測したのは初めてだ。今後の活動を見通すことは難しい。

 箱根は年間2000万人が訪れる観光地で、噴火活動が長期化すれば、経済的にも影響が大きい。気象庁など関係機関は監視体制を一層強化し、正確で分かりやすい情報の速やかな提供に努めてもらいたい。

 箱根山では4月下旬から火山活動が高まり、気象庁は5月6日に火口周辺情報を出して、警戒レベルを1(活火山であることに留意)から2に引き上げていた。小規模な噴火は予想された事態で、今後も大涌谷周辺の約1キロの範囲では、噴火に伴う大きな噴石の飛散を警戒する必要がある。地殻変動の観測データによれば、深い部分でマグマが供給されている可能性もある。警戒レベルの引き上げは、妥当な判断だろう。

 気象庁はレベル引き上げ前日の6月29日に、大涌谷で新たな噴気孔や火山灰のような降下物を確認していた。噴火の判断はより詳細な現地調査を実施し、降灰などを確認した30日になった。もっと迅速な判断ができなかったのか、検証すべきだ。

 心配なのは風評被害の拡大だ。

 気象庁は、大涌谷の1キロ圏外では警戒は必要ないとしている。観光に制限はなく、住民の暮らしにも変わりはない。警戒レベルが上がるような場合、箱根町は防災行政無線や携帯電話向けの緊急速報などを使って周知する。

 それでも、今年5月の箱根町内の観光案内所利用者数は前年同月比で約15%低下した。神奈川県によれば、地元の中小企業から金融機関への資金繰りの相談も出始めている。県はそうした企業への緊急支援融資制度を創設した。今後も状況に応じ、対策を検討してほしい。

 日本には110の活火山があり、世界の活火山の約7%を占める。にもかかわらず、火山の監視や調査を担う国立機関がなく、研究者の数も他の火山国に比べて少ない。近年は大きな被害を出す噴火が少なかったことが影響している。だが、東日本大震災後、御嶽山や口永良部島、浅間山など列島各地で火山の噴火が相次いでいる。こうした状態の方が、むしろ自然なのだと考えるべきだ。

 火山は美しい景観や温泉など多くの恵みを私たちにもたらす一方、噴火という牙をむく時がある。火山との共生を担う人材育成に、政府は注力してもらいたい。

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