■父が死んだ
長らく一人暮らしの父が死んだ。
アパートの隣人が、数日間顔を見せない父を不審に思い、
住み込みの大家さんにドアを開けてもらったところ、
風呂場で倒れている父を見つけたそうだ。
連絡を受け急ぎかけつけたが、父は遺体保管場所にいた。
なんでも腹部に多数の切り傷があったため、検死を行うらしい。
確認のために写真を見せられたが、確かに腹部の切り傷があり
リストカットを繰り返した手首のように傷が盛り上がっていた。
まだあたらしい傷もあった。原因は思い当たらなかった。
検死は1週間もかかったが、わかったことといえば
死因は腹部の傷とは関係なく、心臓発作ということだった。
結局、おびただしい傷の原因はわからなかった。
そんな父の遺品整理を先週末にしていたところ、
机の引き出しに入っていたデジカメに生前の父が写っていた。
写真の父は軍服を着て腹にはサラシをまき正座をしていた。
そして短刀で腹を切っていた。
データを確認すると何枚も何枚も腹を切っている父が写っていた。
父は苦しそうな、それでいて悦んでいるような複雑な顔をしていた。
別の写真では若い女性も腹を切っていた。
わたしの父は切腹マニアだった。
遺品整理も終わり、大家さんにお礼を言いに管理室へ訪れた。
大家さんは父が介錯している女性だった。
