「問題発言」を繰り返すのは、安倍政権の高度な世論操作プロレスだと考えてみる

藤代裕之 | ジャーナリスト

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自民党の大西英男衆院議員が、安全保障関連法案に批判的な報道について「懲らしめる」と発言したと報じられています。大西議員は文化芸術懇話会でも「マスコミを懲らしめるには広告料収入がなくなることが一番。経団連に働き掛けてほしい」と述べ、党執行部から厳重注意を受けたばかりです。それも、谷垣幹事長が引き締めを図った直後で、党の面目丸潰れのはずですが厳しい処分が行われる気配はありません。

政府・与党は、報道圧力問題が安保法案審議に悪影響を与えることを警戒している。自民党の谷垣禎一幹事長は30日の党代議士会で「国会はますます緊張した局面に入る」と述べ、引き締めを図った。大西氏の発言は、この直後に飛び出した。

出典:安保批判報道「懲らしめる」=自民・大西氏が再び問題発言-与党幹部が不快感(時事通信)

大西議員は、昨年「子供を産まないとダメだぞ」というセクハラヤジで謝罪に追い込まれています。何度も「問題発言」を繰り返しているわけです。これは、作家でNHKの元経営委員でもある百田尚樹氏も同じで、文化芸術懇話会では沖縄の新聞(沖縄タイムス・琉球新報)を潰すと発言し、冗談だったと言いながら、その後に朝日新聞、毎日新聞、東京新聞も潰れてほしい、とツイートしています。

この問題発言に対して与党は一応諌める姿勢を見せています。文化芸術懇話会については、会を主宰した木原稔青年局長を「役職停止1年間」にし、「言いたい放題を言っていい、というものではない」(二階俊博総務会長)などとマスメディアに語るわけですが、下記記事を見ると批判そのものは容認している様子が伺えます。言葉では問題とは言い、軽い処分はするが、厳しい処分は行われないのです。

谷垣禎一幹事長は26日の記者会見で「クールマインドでやっていただきたい」と述べ、メディアへの批判が「報道規制」とならないよう党内に自制を要請。一方で「メディアに対しこの表現はどうかと思う時には批判、反論は当然あってもいい。ただ、主張の仕方には品位が必要だ」と語り、党内のマスコミ批判の声にも一定の配慮を示した。

出典:クローズアップ2015:自民勉強会発言 安保国会、新たな火種(毎日新聞)

安全保障関連法案や沖縄問題、歴史問題など重要案件で

問題発言を行う → マスメディアや野党が批判 → 自民党の幹部が諌める → また問題発言を行う

の無限ループが起きているわけです。以前なら、マスメディアや野党の批判が高まれば、議員辞職などで「終結」して結果が出たわけですが、議員らはソーシャルメディアを使い、謝る・言い訳する・開き直るなどと同時にマスメディア批判を展開し、メディア内からも下記のような記事が出てくるので勢いは削がれます。

問題発言のループにより、多くの人が「またか」と面倒になって問題そのものに無関心になったり、追求しているマスメディアや野党が「無力」であると感じたり、自民党幹部は諌めているのだからいいじゃないかと容認する空気が生まれたり、といった変化が起きているように思います。

西田亮介さんは、朝まで生テレビに自民・公明の議員が参加しなかったことについて下記のように述べています。

政治の側が、よりメディアを短期的な視点で、かつ積極的に、自らのプロモーションに活用しようとしているように見える。言い換えるなら、共存・協調関係から、対立・コントロール関係へと舵を切っている。

出典:『朝まで生テレビ!』の与党議員の出演拒否に見るメディアと政治のパワーゲームの変容

問題発言をもぐらたたきのように目の前に繰り出すことで、安全保障関連法案そのものの議論が忘れさられたり、深く議論されなくなったり、しているのではないでしょうか。通常であればリスクが高い問題発言を、あえて「泳がせ」それに対して遺憾の意を表明することで、まともなポジションを取るという安倍政権の高度な世論操作プロレスなのではないか、というのは考えすぎでしょうか。

安倍政権は第一期の失敗から学び、メディア・コントロール、ソーシャルメディアと世論調査を掛けあわせた反応確認、ダメージコントロールなどが進化しています。マスメディアが従来通りの批判報道を繰り返しているだけでは、メディアゲームに敗北することになるでしょう。

藤代裕之

ジャーナリスト

広島大学卒。徳島新聞社で記者として、司法・警察、地方自治などを取材。NTTレゾナントで新サービス立ち上げや研究開発支援担当を経て、法政大学社会学部准教授。関西大学総合情報学部特任教授。教育、研究活動を行う傍らジャーナリスト活動を行う。日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)代表運営委員

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