作業員だけではなく、工場近くに住む人も命にかかわる病気を患う。そんなアスベスト(石綿)の被害を機械メーカーのクボタが公にしてから10年がたった。この間、各地で新たな患者が次々と明らかになっている。

 原因企業は被害者の救済を、国は実態の把握を続けなければならない。

 石綿被害は兵庫県尼崎市にあったクボタの工場周辺で、石綿の粉じんを吸うことで発症するがんの一種、中皮腫や肺がん患者が見つかり、問題化した。

 クボタの救済金の受給者は、10年間で277人に達した。

 石綿は建材やブレーキなどに広く使われてきた。

 大阪南部にあった石綿加工工場の元労働者や遺族らが国に損害賠償を求めた訴訟で、最高裁は昨年、国が石綿被害の深刻さを知りながら71年まで十分な対策を取らなかったと認定した。

 国は06年に石綿健康被害救済法を制定し、医療費や療養手当を払う救済制度を作った。これまでに住民と元労働者、計約1万人が給付を受けた。

 だが、それでも救済が一段落したとはいえない。中皮腫は潜伏期が数十年と長いからだ。

 石綿は70~90年代に大量に輸入され、発症のピークは2030~35年という予測もある。

 環境省は早期発見や治療法の開発につなげようと、中皮腫のデータベース化を進める。一般のがんに比べて症例が少ないため、情報を医療現場に示すまでには至っていない。

 石綿被害は欧米やアジアでも報告されている。ここは海外の事例に詳しい専門医の知恵も借り、蓄積を早期発見と治療に結びつける必要がある。

 もう一つ懸念されるのが、建物解体に伴う飛散だ。

 国の推計では、石綿が使われた可能性のある民間建物は280万棟ある。老朽化による解体は30年ごろがピークという。

 解体時にはシートで密閉し、作業員は防塵(ぼうじん)マスクを着けることなどが大気汚染防止法等で義務づけられている。だが今年だけでも名古屋市や東京都で対策を取らずに工事していた例が発覚し、業者が指導を受けた。

 作業員だけでなく周辺住民も被害を受ける石綿の怖さを、業者は認識すべきだ。石綿を使った建物を解体する場合は、都道府県や市への届け出が必要だ。尼崎市では年間約600件の解体工事すべてに職員を派遣して監視している。他の自治体も工事の手順に目を光らせ、検査を怠りなくしてほしい。

 これ以上、新たな犠牲者を生むわけにはいかない。