財政破綻(はたん)の瀬戸際にあるギリシャの問題が欧州連合(EU)と世界経済を揺さぶっている。世界の金融市場では投資家らの不安心理が広がって株価急落の連鎖が地球を1周した。グローバル経済のもとで、一つの国、一つの企業の破綻がまたたく間に世界の金融危機を引き起こしかねない時代である。ギリシャ問題もまた、そういう火だねとして警戒しなければならない。

 不安の芽をつむため、ギリシャとEUは一刻も早く、支援交渉を再開すべきだ。日米も含めた主要国は連携して危機の拡散を防ぐことに努めてほしい。

 不安を広げたのはギリシャのチプラス政権の対応だった。先週末、EUとの交渉を突然打ち切り、緊縮策の是非について国民投票にかけると表明した。破綻回避のため支援交渉を続けていたEUや国際通貨基金(IMF)の努力を台無しにしてしまった。

 チプラス政権はEUの緊縮策への反対を掲げて今年1月に発足した。5日の国民投票は事実上、その信任投票となろう。緊縮策反対が多数なら、ユーロ離脱の可能性が高まってくる。

 ただ、ギリシャ国民の7割はEU残留を望んでいるという世論調査結果もある。賛成が多数になれば、ギリシャ政府は年金削減や増税という厳しい改革案の受け入れも辞さず、ただちにEUと再協議に入るべきだ。

 EU側も、ギリシャとの協議を通じて、妥協の道を探る努力が必要だろう。

 この問題をどう処理するのかは統合深化をめざすEUにとって大切な試金石だ。万が一ギリシャがユーロ離脱に追いこまれれば圏内で次に財政が弱い国が標的となるからだ。実際、週明けの海外市場では、イタリアやスペイン、ポルトガルでの株価急落が目立った。それが高じれば、市場のエネルギーがユーロ分断へと一気に高まっていきかねない怖さがある。

 EUにとって悩ましいのは、ギリシャに過度に柔軟さを示すと、改革努力を続ける他の加盟国に悪影響を与えかねないことだ。年内にはポルトガルやスペインで総選挙が予定されており、改革に批判的な政治勢力を勢いづけることは避けたいところだ。

 ギリシャなど弱い経済の国々をユーロ圏にとどまらせつつ、債務危機を防ぐ。そのためにはユーロが抱える構造的欠陥の修正にいずれ手をつけざるをえない。域内の豊かな国、貧しい国の間の再分配を強化する、といった制度的な改革にも段階的に取り組んでいく必要がある。