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シリーズ「持続可能な循環型社会」
  実例で検討するリサイクル 
  06.27.2015
   その2 資源へのアクセスを阻害する人的要素        




 前回の記事は、対象として金属資源を取り上げ、「枯渇」するとはどのようなことなのかを話題の中心に据えて、「枯渇≒入手が難しくなること」の要因を探ってみました。最近の技術の進化によって、大抵のことはなんとでもなるのですが、大原則は曲げることができません。すなわち、「コスト的に見合わない場合には、その技術は採用されません」。したがって、入手が困難になった資源が、どのぐらい本当に必要なものなのか、が判断されて、代替品に移行したり、もしも本当に必要だとなれば、コストの上昇をある程度無視して、新規な方法によって供給がされるということになります。

 しかし、常に、新しい問題が発生しているのも、資源供給の常です。最近、水銀の毒性を問題にする水銀条約ができて、蛍光灯がLEDに置換される方向が明確になったと思われますが、現時点でLEDに使われる希少元素はGaガリウムで、地殻存在量が18ppm程度しかありません。といっても、鉛だとたった14ppmぐらいしかないのに、硫化物として存在することが多い性質であるために、人類はかなり昔から鉛を実用材料にしてきました。それよりも存在量が多いGaですが、酸化物として存在すると、やはり地球は大きいと言えるのでしょう。「濃い資源」ができにくいのです。

 Gaが資源的に大丈夫かどうか、現時点では確実な情報はありません。そもそも、ガリウムには単独のHSコード(輸出入品目コード)が無いため、輸入量の統計データも、ガリウム、ハフニウム、ニオブ、レニウムの合計値です。輸出量に至っては、ケルマニウム、バナジウム、ガリウム、ハフニウム、インジウム、ニオブ、レニウムの合計値なのです。もっとも、業界には、輸入データがあるようですが。

 しかし、枯渇するかどうかの推測はある程度可能なのです。Gaの性質は、アルミと似ています。そのため、アルミニウム精錬の過程で、ガリウムが生産されています。となると、余り心配しないで良いものなのではないか、と思われます。

 資源枯渇に対する究極の解決法は、地殻構成元素のうち、500ppmぐらいは存在している元素だけで、すべての機能を発揮させることでしょう。そんなことが完全にできるかどうか、それはかなり疑問ですが、必要は発明の母なので、まあ、なんとかなれば良いということかもしれません。以上、前回のまとめを別の例で記述してみました。

 今回の話題は、人間的要因で供給が阻害される例というものを取り上げてみたいと思います。前回取り上げた重希土類の一つ、ジスプロシウムに対する中国の輸出制限もその例の一つでしたが、今は、問題解決済みです。しかし、逆に、需給が緩みすぎて価格が低迷し、米国のモリコープが破産処理を行うことになったようです。この話は、もう一度取り上げる必要があるかもしれません。。

 今回の話題は、これまでも名称だけは何回か出てきていますが、紛争鉱物です。こちらはアフリカの話です。



C先生:「紛争鉱物=コンフリクトミネラル」は、このサイトではまともに取り上げたことはまだ無いのではないだろうか。言葉だけはすでに出てきているが。

A君:この話は、米国によるテロリストへの資金供給対策といった重要政策政策の一つ。そもそもテロ集団が居るのは、コンゴ民主共和国。アフリカ大陸では、その中央部にあるが、面積のランキングではアルジェリアに続いて第二位。コンゴという名称の国(コンゴ共和国)がもう一つあって、互いに隣接しているので、地図上では、DR Congo=Democratic Republic of the Congoと書かれることも多い。

B君:その東側の国境はアフリカの大地溝帯なのだけれど、そのあたりには、各種レアメタルを産出する鉱山があって、テロ集団の資金源になっている。産出する金属は、3TGと呼ばれる。Tungsten, Tantalum, Tin, Gold(タングステン、タンタル、スズ、金)

A君:そして、紛争鉱物とは、これらの金属の鉱石で、「コロンバイト‐タンタライト(コルタン)、錫石、金、鉄マンガン重石、またはこれらの派生物」、という定義になります。勿論、拡張された緩い定義もあって、「コンゴ民主共和国周辺で、紛争の資金源になっていると国務長官が判断したその他の鉱物またはその派生物を含む」、となっています。

B君:コロンバイト−タンタライトだが、鉄、マンガン、タンタル、ニオブの鉱石で、ニオブが多い場合には、コロンバイト、タンタルが多い場合にはタンタライトと呼ぶ。コルタンと総称されることが多い。

A君:鉄マンガン重石という鉱物は、鉄とタングステンの酸化物が鉄重石、マンガンとタングステンの酸化物がマンガン重石で、これらは任意の割合で完全に交じり合うので、総称として鉄マンガン重石と呼ばれます。

B君:世界でのこれらの金属の主要産地が、DRコンゴなので、供給に不安がある。という話ではないのだ。例えば、タンタルの産地はオーストラリアとブラジルで75%ぐらい。この地域の産出は10%以下。

A君:タングステンの産地は中国が圧倒的。アフリカは、かなり少ない。

B君:同じことがスズについても言える。中国が最大の産地で、アフリカはマイナーな産出国。金でも同様に、この地域が主要産地ではないのです。

C先生:ということだ、「資源的限界が心配だ」、とそれだけ考えれば、このような規制はあり得ない。米国の最大の関心事の一つであるテロ対策という位置づけになる。しかし、事業者にしてみれば、結構面倒なことが強いられるのだ。

A君:米国の金融規制改革法が2010年7月に成立して、その第1502条には、このようなことを規定しています。
 「米国に上場している企業であって、製品の機能または製造にコンゴ民主共和国(DRC)及び周辺国産の紛争鉱物(3TG等)を必要とする者に対し、紛争鉱物の使用についてSEC(米証券取引委員会)へ報告することを義務化する」、となっています。

B君:世界のメジャーな産地ではないアフリカのある国が、自社が使用するこれらの金属の産出・流通に関わっているか、ということをしっかり把握することはかなり難しいことなのだ。

A君:具体的に行うことが求められているか、と言えば、3つのステップで、情報を集め、開示することが求められています。

(ステップ1)自社が、紛争鉱物を必要とする企業かどうか。そうでないなら、OKなので終了。もしYesなら、次の(ステップ2)へ。

(ステップ2)「合理的な原産国調査」を行い、次のいずれかを判断し、公開する。
@鉱物が「DRCまたは周辺国産ではない。あるいは、再生利用品およびスクラップ起源である」→ 情報公開で終わり。
A鉱物が「DRCまたは周辺国産である。あるいは、再生利用品およびスクラップ起源ではない。」もし、Aなら(ステップ3)へ。

(ステップ3)「これらの鉱物の起源と加工・流通過程に関するデュー・ディリジェンスを行い、添付書類として、紛争鉱物報告書を提出しなければならない。かつ、自社HP上で公表する。」
 デュー・ディリジェンスの方法は、OECDデュー・ディリジェンス・ガイダンスのような国内・国際的に認められた枠組みに準拠のこと。


B君:ということは、利用する金属が再生利用品、あるいは、スクラップ起源なら情報公開をして終わりとすることができる。

A君:となると、3TGに関しては、スクラップのニーズが高まることになる。もともと、DRC産の可能性は低いのですが、再生品もしくはスクラップ起源だということで、クリアーなのですから、当然なんですけど。

B君:もしもステップ3が必要な場合であると、デュー・ディリジェンスという行為が必要になる。これが結構面倒。

A君:これはしばしばデューデリと呼ばれるのですが、日本語が無いもので、その実態を本当に理解している人は少ないのです。

B君:英語だと、due diligenceなんだけど。diligenceを辞書で引くと”勤勉”といった訳で、dueは”原因”といった訳が出て来る。due diligenceで引くと、”適切な注意”といった意味がでて来るので、良く分からない訳語だということになる。

A君:そうなると英英辞書のお世話になるべきでしょう。Web辞書だと、Longmanだと見つからないという返事のみが帰ってきます。そこで、Cambridge Dictionary (American)にしてみると、こんな説明がでて来ます。

the action that is considered reasonable for people to take in order to keep themselves or others and their property safe:

用例として出ているのは、
People have to exercise due diligence and watch what's being bought on their credit cards.

B君:このクレジットカードの例は、確かに適切な注意を払うべしということなのかもしれない。

A君:さらに会計用語の用例として、
The buyout group's due diligence is expected to run till late March.

B君:これは企業買収をするときの用例だろう。企業そのものの体質とその経理情報をしっかり調べろ

A君:そうですね。「しっかり調べろ」。これで日本語訳ができたように思いますが、もう一つぐらい例を見ますか。これは、船舶のオーナーに対する警告文のようなものです。

The owner must exercise due diligence to provide a seaworthy ship at the commencement of the voyage.

B君:”Seaworthy”という言葉の訳も見たい。

A君:はいはい。
(of a ship) in a condition that is good enough to travel safely on the sea

B君:そうなると、「船舶のオーナーは、航海にでるとき安全な航海ができる船を提供できているか、しっかり調べろ」、という訳になる。

A君:”しっかり調べろ”がdue diligenceの日本語訳として良いことが、かなり確実ということにしますか。

B君:OECDにはガイドラインがあるようだけど、そのガイドラインは、どのような場合のデューディリにも使えるのだろうか。

A君:いえいえ。OECDのガイドラインは、実は、紛争鉱物専用の文書です。だから、これを読めば、紛争鉱物用のデューディリについては完璧。
http://www.oecd.org/corporate/mne/GuidanceEdition2.pdf
からダウンロードできます。

B君:ちょっと見ると、p7から始まる文書が、国際機関の行う国際会議の合意文書の形式なので、「やっぱり、非常に妙な文章だ」、という感じを持たれるかもしれない。

A君:しかし、中身は割合とコンパクトで、p7からの文書も読み飛ばして良いし、p12からのGuidance文書も中身があるわけではない。もっとも肝心なことは、p17から書かれているAnnexTなので、これを読めばOK。となると、2ページ半しかない。

B君:それだけでは不十分だと思ったら、別のところも読めば良い、ということかな。

A君:この手の文書は、極めてよく内容が練られているので、作るのは極めて大変なのでしょうね。書く側に回ったときには、単語一つ一つを精査しつつ書かなければ、誤解される、あるいは、意図的に隙を突かれるという心配をしながらなのでしょう。しかし、もし読む側に立てばかなり気楽だし、誤解をして困る可能性も低いです。

B君:分かった。それでは、AnnexTだけ、ちょっと見よう。

Step1:企業の強力な管理システムを構築せよ。それには、
A)本ガイドラインに基づいて紛争鉱物に対する企業のポリシーを作れ。
B)サプライチェーンをしっかり調べるために、内部管理システムをきちんと作れ。
C)サプライチェーン上流の保護監督と透明性維持を怠らない。
D)サプライヤーとの関係を強化せよ。
E)リスクを早期に知るために、不正監視メカニズムを構築せよ。


Step2:リスクの同定と評価を行え
A)リスクの同定は、推薦する方法に基づいて行え。
B)サプライチェーンに対する企業の基準を適用して、リスクの評価をせよ。


Step3:同定されたリスクに対応して、戦略を作り実行せよ
A)サプライチェーンのリスク評価の結果を企業内の上級の管理者に報告せよ。
B)リスク管理の計画を作り、適用せよ。
例えば、どんな場合に、取引を継続するか、どんなときに止めるか、などなど。
C)リスク管理計画を実行し、様々な組織の協力を得て、リスク低減の努力の効果を検証せよ。
D)追加の事実、追加のリスクアセス必要があるかどうか判断せよ。


Step4:独立の第三者機関による監査を実行せよ。

Step5:サプライチェーンのデューディリのポリシーと実施状況を公開せよ。CSRや環境報告書などと連携して行っても良い。

A君:確かに、実際にどう実行するかとなると、大変なのは良く分かりますが、文章化するとそれほどの分量ではないことが分かりますね。

B君:いわゆる環境管理の場合と似たような状況だな。実際にやるとなると、無限の仕事にもなりうる。しかし、文章化すると、それほどのことはない。

A君:その後にAnnexUがあって、そこでは、サプライチェーンポリシーのモデルが記述されています。それがp24まで続いて、その後、様々なものが記述されていて、総ページ数は120と分厚い報告書になっています。

B君:しっかり読むのは大変だろうけれど、具体的に企業のポリシーなどを作ろうと思ったら、確かに、親切な記述が多いから、極めて有用な文書だと言えるだろう。

A君:様々な記述には、スズ、タングステン、タンタルの場合と金の場合に分けた追加的な記述などがあるので、助かるでしょうね。

B君:OECDは先進国だけの国際機関だけど、この文書の作成には、アフリカの地溝帯地域から11ヶ国の国も参加しているし、国連のエクスパートも参加したようだ。

A君:国際機関が作る文章については、こんな丁寧な作業を行っていることを知ってか知らずか、放射線超危険派は国連やOECDの作る文書は信頼できないというのですが、もしも、国連やOECDの文書が信頼できないなら、この例のように立場の違った、場合によっては、利害関係まで違った多くの人々の合議に基づいて作成された文書なのですから、他の文書など、一切信用できないということになります。

B君:国連が軍事的な紛争などに無力であるということと、少なくとも、合理的・科学的で、かつ、信頼性の高い文書の作成能力があることは、無関係なんだけどね。

A君:ネット上に出ている本名を明らかにしない人の文章を信じることは、多くの場合、不運な結末が起きる、と主張したいですね。

C先生:そろそろ終わりかな。今回の話の筋は、リサイクル話だとすれば、極めて変だったと思う。題名が、”資源へのアクセスを阻害する人的要素”だったのだが、実は、人的要素のために、リサイクルした材料への信頼性が高まっているという話になった。まあ、こんな変な例もあるということでご理解いただきたい。
 それにしても、最後の指摘である国連の限界は、このところかなり明らかだ。地球上に他の方法論が存在しないことは、かなり明らかなので、国連を潰す訳には行かない。その現状は、地球市民にとって、きわめて残念なことだ。
 それにしても、以前のSG(事務総長:国連で一番偉い人は、事務総長。すなわち、事務方の親分)と比較しても、最近は小物感が漂うのはなぜだろう。
 それにしても、国連の文書に限らないが、国際機関の文書は、一定のパターンがあって、一旦それになじむと、大変、分かりやすい。むしろ、誤解をすることができないような文章だとも言える。しかし、なじまないと、本当に変な文章なのだ。
 繰り返しになるが、多くの場合、合議制に基づいて作られているために、世界でもっとも信頼がおける文章の一つなので、是非とも、慣れてもらいたいと思う次第。是非、お奨めしたい。
 それにしても(4発連続)、最後に、A君の発言にあった、「ネット上の無記名のブログなどにある記述を信じるな」は、絶対的な真理だと思う。それを信じてしまうと、何かを失うことになる。「何か」とは何かというと、多くの場合、その人が本来巡り合うべき「運」を失うのではないかな。失うものが少なければ良いのだけれど、しばしば、かなり重大なものを失ってしまうという可能性もある。福島での放射線関係では、インチキ情報を信じた人がかなり多いので、その人々の将来が極めて心配だ。いや、将来ではなく、もう現在になっているかもしれない。