2015-07-01 出版状況クロニクル86(2015年6月1日〜6月30日)
■[出版状況クロニクル]出版状況クロニクル86(2015年6月1日〜6月30日)
出版状況クロニクル86(2015年6月1日〜6月30日)
15年5月の書籍雑誌の推定販売金額は前年比10.7%マイナスという大幅減。書籍雑誌合わせて二ケタ減はかつてない落ちこみである。
その内訳は書籍が7.3%減、雑誌が13.6%減。雑誌のうちの月刊誌は13.2%減、週刊誌は15.0%減。
返品率は書籍が42.4%、雑誌は47.2%で、月刊誌は48.5%、週刊誌は41.1%と、ついに書籍雑誌の双方が40%を超えてしまった。マイナス幅も返品率も、最悪のところまできている。
そのような出版状況を背景にして、1 の栗田出版販売の民事再生申請が起こされたことになる。
かくして出版危機が臨界点に達した状況の中で、15年前半の終わりを迎えたわけだが、続けて後半にはどのような事件と出来事が待ちかまえているのであろうか。
1.6月26日に栗田出版販売が民事再生を申請。負債は134億9600万円。
同日付で出版社に対し、「民事再生手続き開始の申立て」が出され、「申立てに至った経緯」も記されているので、それを引く。
(前略)近年、出版業界では書籍の販売額の減少が続いていることはご承知の通りです。業界全体の需要縮小は、書店数の減少を加速させ、また販売会社(取次)間の競争激化を招きました。このような環境の下、弊社は“収益の確保による本業での黒字化”をスローガンに掲げ、様々な施策を展開してまいりました。
しかしながら、大幅な減収を経費削減等では補填できず、6期連続で経常赤字という状態に陥りました。
この間、旧本社の売却などの資金圧縮も進めてまいりましたが、傘下の書店子会社の不振等も重なり、前期末には債務超過の状態に陥りました。
今期におきまして更なる人員削減、本社スペースの縮小、支店の統廃合などを実施し、収益の確保を目指して全社一丸となって施策を推進した結果、上期では経常黒字を確保したものの、下期の赤字見込みを吸収できる水準ではなく、債務超過解消の見通しが立たない状況にありました。
加えて、4月以降も売上の減少が続き、主要出版社様から資金支援を受ける状況にありました。
今般、これ以上自力再生に拘っては関係者各位に更なるご迷惑をおかけするものと判断し、民事再生手続開始の申立てを決断するに至りました。(後略)
これに続いて、「当面の取引及び今後の再建の見通し」なども述べられている。こちらは要約してみる。
* 再生手続き間の取引は従来通り栗田が配本、発注し、出版社はそれをOKCに搬入する。その際の請求書は栗田、大阪屋の二社に分け、「頭紙」を大阪屋と明記し、大阪屋に送る。
* 返品も従来通り日販子会社の出版共同流通が担う。
* 6月25日までの出版社の売掛金、つまり栗田の「仕入れに伴う債務(再生債権である買掛金等)」はそのまま凍結され、26日以後の返品との相殺処理はできない。
また同様に、同日付で大阪屋からも出版社に対し、次のような声明が出されている。
(前略)当社と栗田出版販売(株)様とは、2009年の包括的業務提携以来、2010年に共同出資による(株)OKCを設立し、以降、新刊業務において物流協業のパートナー関係にあります。
今回の同社民事再生手続き開始申立てという事態を受け、(1)出版共同流通(株)の支援体制があること、(2)同社との協業、統合が実現した場合、当社事業上の効果が期待できること、(3)出版業界の現況を鑑み混乱を避けるべきことや物流協業先でもあること等の観点に立ち、出版共同流通(株)様と連携し、再生期間における支援を行うとともに、その後の当社との協業、統合への可能性を探り、検討、協議を進めてまいることといたしました。(中略)
具体的には、栗田出版販売(株)再生までの期間、同社の「仕入・返品の代行機能」を当社が担わせていただくことで、同社と出版社様間の取引上の支援をさせていただきます。それにより、栗田出版販売(株)取引書店様への商品の安定供給の実現を支援してまいります。(後略)
なお栗田の債権者と書店向け説明会は、7月6日の午前と午後に中央区ベルサール汐留で開催予定。
[栗田は中小書店をメインとする取次だったが、1990年代に比べ、売上は半減し、取引書店は3分の1まで減少し、6期連続の赤字となっていた。その中で本社売却や大手出版社からの支援を受けてきたが、それも限界に達し、今回の処置に及んだことになる。
総合取次としての倒産は栗田が初めてで、14年売上高329億円、負債が134億円という取次業態の再生は、法に委ねられる事態を迎えたわけである。
そればかりでなく、栗田の倒産は他の取次や出版社や書店にどのような影響を及ぼしていくのか、それが出版業界にとっての焦眉の問題であろう。
栗田帳合の書店に関しては、いち早く「ウラゲツ☆ブログ」が発信しているので、そちらを参照されたい。
本クロニクル81 のリードで「出版業界の地獄の一年の幕開けである」と書いておいたが、栗田の民事再生法申請は始まりにすぎず、様々な連鎖が起きていくことは確実だと思われる]
2.栗田の民事再生法申請に先立つ6月10日に大阪屋友の会連合大会が開かれ、今期決算概況の説明が行なわれた。
それによれば、売上高681億円、前年比11%減。その内訳は書籍407億円、雑誌263億円、教科書などその他11億円で、全体の返品率は40.3%。
営業、経常利益は昨年に引き続いて赤字だが、本社売却益などで最終当期純利益は22億円の見通し。この22億円と昨年の増資37億円により、昨年の56億円の債務超過は解消とされる。
その席で大阪屋の大竹深夫社長は、書店の取引の多様性が出版の自由と多様性につながるもので、大手取次だけになってしまったら、書店や出版社の自由度はどうなるかわからないと述べ、「もし共感いただけるのであれば、大阪屋や栗田といった取次がしっかり継続していけるよう、ご協力をお願いできたら幸いです」と発言している。
[この発言内容は、大阪屋が6月26日付で出した「栗田出版販売(株)民事再生申立にともなう表明」の一節とまったく重なるものである。
それから栗田の民事再生申請代理人が大阪市の弁護士法人の弁護士であることも考えると、今回の栗田の民事再生と大阪屋への統合スキームは、大阪屋とその増資に加わった講談社、小学館、集英社、KADOKAWAによって仕切られたと推測できよう。
栗田の負債は134億円とされるが、大阪屋がそうだったように、厳密に売掛金を査定すれば、さらに増えることは間違いない。大阪屋の債務超過の3倍に及ぶその負債額の大きさからいって、増資による救済は不可能だ。それに大手出版社の支援ももはや限界に達している。といって影響の大きさから考えても、大手出版社してみれば、倒産させることはできない。そこで民事再生が選択され、大阪屋に統合するという落としどころに至ったのであろう。
これも前回既述しているが、両社を合わせれば、1300余の書店網となり、日販、トーハンに続く第三極の取次の地位を確保できるからだ。
しかしこれは大手出版社側から描かれた取次や書店の絵図であり、構造改革に結びつくものではない。取次や書店の危機も歴史構造に起因しているし、現在の正味と委託再販制に基づく出版流通システムの変革なくして再生は難しいことを自覚すべきだ。それは栗田が追いやられた状況、大阪屋の営業、経常利益が今期も赤字のままであることにも表われているからだ]
3.『出版年鑑』による2014年の出版物総売上高が出された。これは出版科学研究所と異なり、実売金額に基づくもので、『出版ニュース』(6/中)に掲載されている。
■書籍・雑誌発行売上推移 年 新刊点数
(万冊)書籍
実売総金額
(万円)書籍
返品率
(%)雑誌
実売総金額
(万円)雑誌
返品率
(%)書籍+雑誌
実売総金額
(万円)前年度比
(%)1996 60,462 109,960,105 35.5% 159,840,697 27.0% 269,800,802 3.6% 1997 62,336 110,624,583 38.6% 157,255,770 29.0% 267,880,353 ▲0.7% 1998 63,023 106,102,706 40.0% 155,620,363 29.0% 261,723,069 ▲2.3% 1999 62,621 104,207,760 39.9% 151,274,576 29.9% 255,482,336 ▲2.4% 2000 65,065 101,521,126 39.2% 149,723,665 29.1% 251,244,791 ▲1.7% 2001 71,073 100,317,446 39.2% 144,126,867 30.3% 244,444,313 ▲2.7% 2002 74,259 101,230,388 37.9% 142,461,848 30.0% 243,692,236 ▲0.3% 2003 75,530 96,648,566 38.9% 135,151,179 32.7% 231,799,715 ▲4.9% 2004 77,031 102,365,866 37.3% 132,453,337 32.6% 234,819,203 1.3% 2005 80,580 98,792,561 39.5% 130,416,503 33.9% 229,209,064 ▲2.4% 2006 80,618 100,945,011 38.5% 125,333,526 34.5% 226,278,537 ▲1.3% 2007 80,595 97,466,435 40.3% 122,368,245 35.3% 219,834,680 ▲2.8% 2008 79,917 95,415,605 40.9% 117,313,584 36.3% 212,729,189 ▲3.2% 2009 80,776 91,379,209 41.1% 112,715,603 36.1% 204,094,812 ▲4.1% 2010 78,354 88,308,170 39.6% 109,193,140 35.4% 197,501,310 ▲3.2% 2011 78,902 88,011,190 38.1% 102,174,950 36.0% 190,186,140 ▲3.7% 2012 82,204 86,143,811 38.2% 97,179,893 37.5% 183,323,704 ▲3.6% 2013 82,589 84,301,459 37.7% 92,808,747 38.7% 177,110,206 ▲3.4% 2014 80,954 80,886,555 38.1% 88,029,751 39.9% 168,916,306 ▲4.6% [本クロニクル81 に示しておいたように、出版科学研究所による取次ルート出回りの2014年売上高は書籍7544億円、雑誌8520億円、合計1兆6064億円、前年比4.5%減である。
こちらの金額と差異はあるけれど、前年比マイナスは4.6%とほぼ同じで、やはり近年最大の落ちこみになっている。とりわけ雑誌だが、危機は加速し、14年には9000億円を割りこむだろうと予測しておいたが、実際にそうなり、1996年に比べて半減してしまったことになる。
返品率もまったく下げ止まらず、このまま進めば、今年は書籍、雑誌ともに40%を超えてしまうかもしれない。その果てに何が起きてくるのか、予断が許されない出版状況に入ってきたように思われる]
4.3の『出版ニュース』には出版社数の推移も掲載されているので、それも引いておく。
■出版社数の推移 年 出版社数 1992 4,284 1993 4,324 1994 4,487 1995 4,561 1996 4,602 1997 4,612 1998 4,454 1999 4,406 2000 4,391 2001 4,424 2002 4,361 2003 4,311 2004 4,260 2005 4,229 2006 4,107 2007 4,055 2008 3,979 2009 3,902 2010 3,817 2011 3,734 2012 3,676 2013 3,588 2014 3,534 [出版社数のピークは1997年の4612社で、それから減り始め、14年に至って1078社の減少を見たことになる。もちろんこの出版社数の推移の中には、この間に創業したところもカウントされているわけだから、消えていった出版社はさらに多いのである。
出版社の減少も書店と同様で、出版物売上のマイナスとパラレルに起きていることを告げている。返品率と同じで、こちらも下げ止まりには至っていない]
5.これも『出版ニュース』の『出版年鑑』の「出版社別新刊書籍発行点数」によるのだが、そのトップはKADOKAWAで、新刊点数は2013年1066点に対し、14年は4456点と4倍になっている。
■出版社別新刊書籍発行点数 順位 出版社 2014年 2013年 1 KADOKAWA 4,456 1,066 2 講談社 1,957 2,117 3 文芸社 1,203 1,301 4 宝島社 1,182 1,129 5 小学館 904 895 6 学研パブリッシング 804 892 7 集英社 766 773 8 新潮社 667 644 9 PHP研究所 647 786 10 河出書房新社 637 598 11 ハーレクイン 612 571 12 岩波書店 576 617 13 双葉社 557 419 14 文藝春秋 551 524 15 ポプラ社 515 497 [この増加はKADOKAWA傘下の9社の出版点数が加わったことによっている。
またこの表から、KADOKAWAの出版点数が急増、突出していることがわかるだろう。
こうした子会社統合による出版点数突出を背景にして、アマゾンとの直取引が始まったのであろうし、それは紀伊國屋書店などにも及んでいくと考えられる。
それに加え、KADOKAWAは所沢市とジョイントし、「クールジャパンフォレスト構想」を発表している。これは旧所沢浄化センター跡地1万1300坪にKADOKAWAの製造物流拠点の他に、図書館、美術館、博物館などを融合した施設を建設するものとされる。事業主体はKADOKAWA100%出資で、企画準備に当たる株式会社ところざわサクラタウン、KADOKAWAの物流部門として設置予定の所沢出版ロジスティクスセンターの2社。
ジェネラルプロデューサーの角川歴彦会長は「広大な跡地に立つと富士山も見えるこの場所に図書館、美術館、博物館の文化施設を展開する。当社は今年創業70年、これまで蓄積してきた事業をここに結集させていく」と発表。完成は3〜5年後とされている。
現在の差し迫った出版危機状況の中にあって、その行方はどうなるのであろうか。
これらのKADOKAWAの動向についてはBusiness Journal も言及している]
6.また続けて『出版ニュース』になってしまうが、大学生協の「第50回学生の消費生活に関する実態調査」が出され、1ヵ月の書籍費がレポートされているので、それも取り上げておく。
■1ヵ月の生活費(下宿生) 年 収入 書籍費 1980 82,330 5,350 1985 101,280 4,460 1990 120,620 3,990 1995 132,510 3,640 2000 137,760 2,910 2005 129,580 2,490 2009 125,580 2,370 2010 122,610 2,250 2011 118,900 2,070 2012 120,640 2,030 2013 121,500 1,820 2014 122,170 1,950 [これは「下宿生」(アパート、マンション、学生会館など)のものだが、1980年に5350円あった書籍費は2014年には1950円となっている。前年より130円アップしているが、新刊平均定価は13年が2178円、14年が2307円であるので、いずれにしても単行本一冊の定価にも満たない。照合してみると、その逆転は書籍費2490円、平均定価2514円という05年から起きていたことがわかる。
1890年代における出版社・取次・書店という近代出版流通システムの成長に伴い、1900年前後から読書界、読書社会、読者社会が形成され始める。それは大学や大学生をコアとしていたのであり、学生街の書店や古本屋の繁栄と密接につながっていたことはいうまでもない。しかしそのような関係は一世紀を経て失墜してしまい、現在の状況を迎えることになったのである。あらためて日本の消費社会と高学歴社会における出版物の行方を直視し、問うしかないところまできている]
7.トーハンは単体売上高4809億円、前年比3.4%減、営業利益は60億円、同0.3%増、当期純利益は21億円、同3.3%減の減収減益決算。
その内訳は雑誌が109億円、書籍が39億円のマイナスだが、MM商品が31億円のプラスになっている。
子会社14社を含めた連結売上高は4951億円、当期純利益15億円、同16.6%減。
[今期は複合売場開発が87店舗に及び、それがMM商品のプラスへと反映されているのだろう。
しかし日販の30%台に比べて目立つのは返品率の高さで、書籍は41.5%、雑誌は45.8%に及んでいる。
トーハンの決算説明の場で、役員から「市場の底が抜けてしまったように感じる」という言葉がもらされたと伝えられている]
8.日販の子会社21社を含めた連結売上高は6611億円、前年比3.1%減、当期純利益は10億円、同53.8%減の減収大幅減益。
その内訳は書籍2464億円、同4.7%減、雑誌2701億円、6.5%減で、双方で310億円のマイナスである。
MPDの売上高は1925億円、同3.4%減で、3期連続のマイナス。取引店舗数は前年比9店増の925店。
[MPD取引の925店はCCC=TSUTAYAの直営店、及びFCと見なしていい。しかし日販から見れば、これらはすべてFCとも考えられる。とすれば、前回日販の取引書店はトータルで4315店であることを記しておいたが、その4分の1近くがFC店となる。
このFCシステムは「プロダクト・フランチャイジング」と「ビジネスフォーマット・フランチャイジング」のふたつがある。前者は車やミシンなどの特約店方式、後者は商品やサービスだけでなく、小売店の店舗そのものをFC化するものである。具体的にいえば、ハンバーガーよりもハンバーガー店をフランチャイズ化することをさしている。
これをCCC=TSUTAYAに当てはめれば、DVD、雑誌、書籍のレンタル販売という「ビジネスフォーマット・フランチャイジング」に相当する。しかもそのFC展開は日販とMPDが多くを担っているはずで、コンビニにたとえれば、ベンダーがFC展開を行ない、金融と流通を支えているといっても過言ではないと思われる。
確かに取次は出版社の「プロダクト・フランチャイジング」を代行する「ビジネスフォーマット・フランチャイジング」の役割を書店に対して果たしてきたといえるが、取引書店の4分の1に及ぶ特命とも呼べるFCシステムが導入されたのは、今世紀になってからである。このような特命FCシステムは成長しているうちは日販にとっても様々にメリットは生じても、売上がマイナス過程に入ってくると、金融と流通、取引書店との関係とバランスなどへ大きな後ろ向きの影響をもたらすはずで、MPDの3期連続マイナスは、いびつなFCシステムの兆候の露出を告げている]
9.地方・小出版流通センターの決算も出されている。これは「同通信」No.466 に語らせよう。
決算の報告をします。2年連続赤字決算で心苦しい限りです。売上げは2010年度の15億8330万円から減少しはじめ、11年度14億9325万円(震災の年)、12年度13億908万円(前年比−12.3%)、13年度11億9745万円(前年比−8.6%)、14年度11億8237万円(前年比−1.27%)とこの3年の落込みは急激で、10年度比では約25%の減少となっています。
要因は全般的な需要減とともに、当社扱い出版社刊行物の主要読者層(戦後生れから団塊世代前後まで)の高齢化による読書離れがあります。それを埋める、新しい世代向けの出版物が少ないことも要因です。これは、現在の出版会全体にも言えることです。
売上減少に伴い、経費の切り詰めに努力していますが、二年連続の赤字決算です。営業損失は前年2460万から1527万と減少させましたが、営業外収入前年1652万円から695万円と繰入額が減り、最終的に661万円の欠損となりました。売上の減少幅は、当期で落ちついたのかどうか判断しかねます。書店減少、図書館予算減少などマイナスの要因の方が多く予想される新年度です。
また7月20日で閉店するリブロ池袋店についての回想とレクイエムの言葉も記されているので、続けてこれも引いておく。
設立当時に、まだ取次店との取引きが始まっていない時点で、西武百貨店池袋店の催事場でのブックフェアー(1976年5月、売上436万円)を企画して大きな反響を呼び、これが当センターが社会的に認知される大きな力となりました。以降数多くの催事を行い、共に新しい本の売り場、流通を作ってきました。
当時の西武ブックセンター池袋店(現在はリブロ池袋店)が7月20日で、閉店になることが決まりました。企業PR誌などの流通に載らない刊行物の発掘、「本の雑誌」「広告批評」「is」(ポーラ化粧品)などの新しいジャンルの雑誌、一人だけの出版社フェアーなどユニークな切り口で、芸術・思想等70年代から80年代の新大衆文化の潮流を体現する売場や棚を読者に提供してきた店です。
当社にとっては1982年2月に催事場で6日間行い、3200万円というとんでもない売上げをあげた「全国ふるさとの本まつり」が記憶に残ります。また同ブックセンターとの直接取引きの窓口として、様々なユニークな新規版元の出版物を流通させてきました。時代が変わったといえ、感謝とともに残念な限りです。
[私事を記せば、地方・小出版流通センター設立とほぼ同時期に出版業界に身を置くことになったので、ここに書かれている実感としての時代の変容が自らにも重なってくる。
なお後半のことに関しては、「出版人に聞く」シリーズ〈4〉の中村文孝『リブロが本屋であったころ』に、エピソードも含めた詳細が語られている。興味のある読者はぜひ読んでほしい。
またリブロ池袋に代わるテナントとして、早くから三省堂が入るとされているが、その正式発表はなされていない]
10.日書連の組合員数が3981となり、ついに4000を割った。
[前回も記しておいたが、1990年には1万2558を数える加盟店があったわけだから、この25年間でその7割近い8577店が消えてしまったことになる。このような消えていった書店状況が、栗田や大阪屋を苦境へと追いやったのである。それは太洋社にしても同様だ。
書店閉店はまだずっと続いていて、北海道のくすみ書房、ジュンク堂 京都朝日会館店も閉店し、それに啓文堂の店舗リストラも伝えられている]
11.集英社の季刊誌『Kotoba』(第20号)が特集「全集 もっとも贅沢な読書」を組んでいる。
[9や10は出版業界のひとつの時代が終わりつつあるニュアンスに包まれているが、それは「全集」の時代もしかりで、この特集は充実したものであるにもかかわらず、そうした「全集」に対するレクイエムのような趣きを感じてしまうのは私だけだろうか。
そういえば、栗田は1918年の創業だが、岩波書店や平凡社などの全集の流通販売を得意として成長したのである。その栗田から出て、戦後に立ち上がった取次の鈴木書店も、人文書版元の全集を多く手がけていた。
だがその鈴木書店も2001年に40億円の負債を抱え、倒産してしまっている。おそらくこの時期に「全集」の時代は終わっていたのであろう。
こちらの事情はやはり「出版人に聞く」シリーズ〈14〉の小泉孝一『鈴木書店の成長と衰退』を参照されたい。これは現在の取次状況の中にあって、必読の一冊といえるだろう]
12.明治古典会第50回記念『七夕古書大入札会』の目録が届いた。
B4判245ページ、そのうちの200ページがカラー写真、目録で、文学、美術・工芸・写真、映画、趣味、近代文献資料、浮世絵・刷物・新版画など1268点が収録されている。
[「最低価格10万円以上の厳選品目録」ということもあって、とても手が出ないけれども、すっかり目の保養をさせてもらった。
その中に1点だけ私が架蔵している春陽堂の『鏡花全集』があったので、高くなったのかと見てみると、限定100部の全冊署名本であることがわかった。
それ以外に全集は出ておらず、書簡、写真、浮世絵、刷物などが多くを占め、以前よりも書物の影が薄くなっているように思われた。
これも日本の出版業界の現在の反映に他ならないだろう]
13.小学館の決算は売上高1024億円、前年比0.1%の微減。当期利益は1億8700万円、同59.6%減。
内訳はコミックスが15.5%減と落ち込んだが、妖怪ウオッチのヒットで雑誌やゲーム攻略本やムックも100万部を超え、雑誌は1.3%、書籍は2.9%の増となった。
[集英社が『ワンピース』、講談社が『進撃の巨人』によって決算を支えたように、小学館も「妖怪ウオッチ」の大ヒットによって、微減の決算となったわけだが、これらの大手の3社にしても、コミックか子ども向け商品の一大ヒットがなければ、微減ではすまない決算状況を迎えたことは確実だ。小学館の雑誌の増収は18年ぶりで、週刊誌は部数で13.9%、金額で13.4%減であり、苦戦は続いているからだ]
14.地図の昭文社の決算は売上高123億9500万円で、前年比10.6%減。
売上高内訳は市販出版物64億7200万円、同12.1%減、電子43億6300万円、同11.4%減。前者の売上明細は地図23億1800万円、同26.8%減、雑誌29億1900万円、同3.2%減、ガイドブック11億7300万円、同3.2%減。
[10の『七夕古書大入札会』には「地図」のセクションがあり、江戸時代のものを中心にして60点ほど出品され、これらの10万円以上の入札価格となるのだろう。
だが昭文社の地図の現在は紙にしても3割近く、電子にしても1割を上回る落ちこみであり、その代わりをスマホが代行している時代になったことを告げているのだろうか。
地図ほどではないにしても、マップルなどの雑誌の旅行書やガイドブックもその影響を受けているにちがいない。
取次の日本地図共販の行方が気にかかる]
15.パッチワーク通信社が自己破産。
同社はパッチワークキルトの専門出版社として1975年に創業し、隔月誌『パッチワーク通信』などの雑誌やムックを発行し、様々なイベント事業も展開していた。
しかし2007年売上高10億円が15年には7億4200万円と減少し、借入金と赤字による累積損失を抱え、負債は7億7800万円に及んでいたとされる。
[これもひとつの時代の終わりではないけれど、出版物を通じてのパッチワークからの離反を示唆しているのだろう。2000年頃には多くの人々がパッチワークを手がけ、それは私の周りにさえ見出すことができるほどだった。
それから付け加えれば、趣味の流れから雑誌の時代が形成されたのであり、そうした趣味の終焉がそのまま雑誌の時代の終わりへとつながっていることを認識すべきだろう]
16.アマゾンが本の買い取りサービスを開始すると発表。和書、洋書100万タイトルが対象で、1冊でも無料で集荷し、買い取りセンターに本が届いてから24時間以内で査定、支払いが完了するとされる。
一方で、アマゾンはダイヤモンド社、インプレス社、廣済堂、主婦の友社、サンクチュアリ出版、翔泳社の6社の110タイトルを定価の2割引で販売。その販売キャンペーンは6月26日から7月31日までで、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』や『クラウド化する世界』などの旧刊書が対象である。
[これを報道した『日経新聞』の記事に対し、主婦の友社が取引先にアマゾンとは時限再販契約を結んでおらず、この記事に抗議するとの声明を出している。主婦の友社はアマゾンのキャンペーンに参加しているが、時限再販契約は事実と異なるとしている。
17.「出版人に聞く」シリーズ〈18〉の野上暁の『小学館の学年誌と児童書』の刊行は、7月にずれこんでしまったことを付記しておく。
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