SARVH [社団法人 私的録画補償金管理協会]



私的録画補償金制度のすべて

I. 私的録画補償金制度の趣旨

1. 著作権者等の権利

著作権法で定められている著作者の権利のなかで、最も重要な権利は複製権であろう。著作権審議会第10小委員会報告書(平成3年(1991年)12月)は、「昭和45年(1970年)に制定された現行法では、制定当時には複写機器、録音機器等がかなり発達、普及しつつあったために、録音機器等を利用して私的な使用のために著作物を複製することに著作権者等の許諾を要することとするのは、実情に即さないとの認識のもとに、複製手段は限定されないこと(注:すなわち自由)になった。」と昭和45年制定当時の議論を紹介している。

つまり、私的録音録画はだれの許可も受けずに、したがって自由に、無償で行なってよいことが法律上明確になり、著作権者等の複製権は私的使用目的の場合に限っては、行使できる根拠はなくなったのである。以来、平成4年(1992年)の法改正まで20年以上にわたり、著作権者等が最も重要とする複製権の行使は制限されたまま、私的使用目的の複製は「自由かつ無償」の状態が続いた。

同時に上記第10小委員会報告書は、「現行法制定のために設置された著作権制度審議会の報告書(昭和41年(1966年)4月)では、複製手段を限定しないことと併せて、私的使用目的の複製について複製手段を問わず自由利用を認めることは、今後における複製手段の発達、普及のいかんによっては、著作権者等の利益を著しく害するにいたることも考えられ、将来において再検討の要があろう、との指摘もなされている。」と述べているが、これは技術の進歩に伴って著作権者等の利益が損なわれることを同審議会が当時(昭和41年)から予測していたことであり、また第10小委員会もこの部分を指摘することによって、著作権者等の利益保護の重要性を認識していたものである。そして、時代はまさにそのように進んだ。

平成3年(1991年)12月以降に行なわれていた権利保護に関する関係者の協議においては、それまでの論議を踏まえ、また国際的な流れなどから、デジタル方式に対する私的録音録画補償金制度が導入されることになった。これにより、アナログ方式の録音録画機器と記録媒体による私的使用目的の複製はこれまでどおり「自由かつ無償」ではあるものの、デジタル方式の録音録画機器、記録媒体を使っての私的使用目的の複製に関しては「自由かつ有償」とする制度が平成4年(1992年)12月の著作権法一部改正により定められた。また補償金を受ける権利者は、著作権者と著作隣接権者を対象とすることも規定された。

「自由かつ有償」とは、デジタル方式の録音録画機器、記録媒体を使用しても個人が私的録画使用目的で録音録画することを自由とすることにより、権利者が権利を制限され、行使できなくなることに対する代償として補償金を受けられるというものである。「補償金」という表現は、権利者が著作権法によって保障された権利が、同じ著作権法の中に定められた権利制限規定によって権利行使ができなくなるという不利益をこうむるため、この不利益を補い償うためのものであることから使われている(著作権法第30条第1項第2項)。

もともと権利者にとっては、アナログ方式とデジタル方式とは権利上異なるところがあるわけではないにもかかわらず、アナログに対しては権利者が一方的に「がまん」せざるを得ないアンバランスなものであったが、デジタルに関してはその機能、性能の特性により権利者の保護が図られることになった。技術の進歩に合わせて著作権との関係を調和させ、解決した一つのケースではある。

一般的にいえば、利用者が録音・録画する場合、誰の許諾も受けずに、好きなときに自由にできるという仕組みは利用者にとっては便利であろう。補償金制度は一方で利用者の便宜を図り、他方で権利者への補償金支払いという両者の利益を両立させた制度である。

利用者が補償金を支払うこととは、音楽にしても映像にしても、その作品は著作者が創作したものであり、著作者(権利者)にとっては財産であるとともに財産の権利を持つ。他人の財産(著作物)を利用する以上、相応の対価の支払いが必要になるということである。

それでは、権利者が権利の行使を制限されたとはいえ、私的使用を目的とする範囲内で私的録音録画を認めるのはなぜか。権利者はどう考えるか。

創作した著作物が、一般に広く受け容れられ、評価されることは著作者にとって望むところであり、また喜びでもある。作品を生み出すまでの努力、何度も作り変え、作り直し、神経をすり減らしながら出来上がったものが、多くに人に支えられ、愛され、喜んでもらえること、それが人々の生活の中で気持ちを豊かに、また活力を生み出す力にもなる、これこそがまさに文化ではないかと考えるからだ。創り出された様々な作品が積み重ねられ、その歴史の中で人々とともに文化を育んできたというのも著作者の誇りである。この補償金制度が存在することによって、人々に著作物を楽しんでもらい、同時に権利者にとっては文化を育てる使命を果たすことができるとの効果を生んでいる。

映像や音楽の著作物には、権利保護のためにデジタル技術を使った保護措置が講ぜられることは可能だし、厳しい保護措置をとり、利用に応じて使用料を徴収することも可能だが以上のように考えると、私的使用目的の範囲内での録音録画が自由にできるのは文化の発展に役立っていることになり、補償金制度がその文化発展の仕組みを支えているといえよう。そう考えることによって権利者は私的録音・録画を認め、補償金制度を受け入れているのである。

なお、著作権法第30条1項により私的録画複製が認められるのは権利者の権利行使が制限されているだけであって、権利そのものが否定されているわけではない。したがって、私的複製の範囲を超えれば著作権侵害になることを付け加えておきたい。

<参考>
(私的使用のための複製)

著作権法第30条第1項

著作権の目的となっている著作物は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とするときは、(中略)その使用する者が複製することができる

著作権法第30条第2項

私的使用を目的として、デジタル方式の録音又は録画の機能を有する機器(中略)であって政令で定めるものにより、当該機器によるデジタル方式の録音又は録画の用に供される記録媒体であって政令で定めるものに録音又は録画を行う者は、相当な額の補償金を著作権者に支払わなければならない。

(以下本文中の条文は著作権法)

文化庁は、「私的録音録画補償金制度の制定趣旨」について以下の見解を示している。

「私的録音録画補償金制度は、録音録画機器を用いた私的録音録画の実状を踏まえ、それまでの私的録音録画は「自由かつ無償」という秩序を見直し、著作者、実演家およびレコード製作者に対する補償の制度を創設したものである。この制度は、利用者の補償金の支払いに関して録音録画機器または記録媒体の製造業者等の協力が不可欠であるという点で従来の補償金制度とは異なるが、その制度の基本は、権利制限に対する補償措置として、利用者に補償金の支払いを求めるものであり、現行法における教科書補償金の制度(著作権法第33条)などの趣旨と同様である。」

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