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【コラム】

筆洗

 古いギリシャ映画の「日曜はダメよ」(一九六〇年)にこんな場面があった。ギリシャ人の娼婦イリヤ(メリナ・メルクーリ)がギリシャ悲劇の粗筋を米国男性に語ってみせる▼ところが、この説明がおかしい。彼女は悲劇をすべてハッピーエンドに変えてしまう。子殺しの「王女メディア」も、父殺しの「オイディプス王」もイリヤにかかると、誰も殺されず、最後はみんな仲良く「それで浜辺へ行きましたとさ」となる▼イリヤほどではないにせよ、陽気で楽観的な国民性のギリシャの方々がこの「悲劇」をどう乗り切るのかと気をもむ。欧州連合(EU)との金融支援策をめぐる協議が決裂し、債務不履行(デフォルト)の現実味が強まっている▼チプラス首相は二十九日から銀行の営業を停止すると発表した。銀行は日曜日どころか平日もダメよとなったが、そんな軽口も叩(たた)いていられぬ深刻な状況である。世界経済全体への影響も心配である▼焦点はEUの財政再建策を受け入れるかどうかの国民投票となる。これが否決されると先行きはいよいよ見えなくなる▼「最後はギリシャもEUもみんなで浜辺へ行きましたとさ」。良き結末を期待するが、アポロン神殿の入り口に刻まれていたという古代ギリシャの格言が役に立つか。EUに対しては「度を越してはならぬ」。そして、ギリシャには「汝(なんじ)自身を知れ」である。

 

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