しばし日本で翼を休めたスイスの太陽電池飛行機が、米ハワイに向けて愛知県営名古屋空港から飛び立った。目指すは化石燃料を使わない世界一周飛行。夢も意義もある大冒険の成功を祈りたい。
太陽エネルギーだけで飛ぶ「ソーラー・インパルス2」=写真=は今年三月、アラブ首長国連邦のアブダビを出発し、インドなどを経て中国・南京からハワイに向かう途中の今月一日夜、太平洋上の悪天候を避けるために予定外の名古屋空港に舞い降りた。
機体の一部不具合を修理し、天候の回復を待ち、昨日未明、ほぼ一カ月ぶりに離陸した。
翼の端から端まではジャンボ機より長い七十二メートルもあり、約一万七千枚のソーラーパネルを装着。昼間に太陽エネルギーを蓄え、夜間も四基のプロペラを回す。機体の重さは二・三トン。徹底した軽量化が図られている。
スイス人冒険家、ベルトラン・ピカール氏(57)らのグループがこのプロジェクトに乗りだしたのは二〇〇三年。企業やスイス政府の支援を得て機体を開発し、化石燃料を使わぬ世界一周という前人未到の冒険の準備を進めてきた。
ピカール氏とアンドレ・ボルシュベルグ氏(62)の二人が交代で操縦し、計三万五千キロを飛ぶ。
ピカール氏の父ジャック・ピカールは一九六〇年、最も深い海、マリアナ海溝チャレンジャー海淵(かいえん)に人類で初めて到達した。祖父オーギュスト・ピカールは三一年、水素気球で初めて成層圏に到達した。冒険一家の三代目である。
ボルシュベルグ氏は元スイス空軍のパイロット。今回の世界一周で最も過酷な太平洋上、名古屋−ハワイ間の飛行を担当し、一回二十分、一日合計二〜六時間程度の仮眠を繰り返しながら、窮屈な操縦席で五昼夜連続の操縦に挑んでいる。
不時着と長期間の待機は、実用化への道がまだ険しいことを物語る。でも、これは、困難に挑戦するばかりの冒険ではない。再生可能エネルギーの新時代を切り開こうという冒険は、夢は大きく、その意義はさらに大きい。
図らずも日本の空に迷い込んできた不思議な飛行機に、わたしたちの胸は躍った。その挑戦が大きく実を結ぶことを期待したい。
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