第6回創元SF短編賞受賞、本格的アクションSF!
その男は北京の空高く浮かび、ステップを踏んだ。力強く、優美な、狂気を秘めた舞い。そのたびに戦闘機は墜とされ、地上には深々と炎が刻印される。かくしてユーラシアは滅び去ろうとしていた。――西暦2030年、砂に埋もれ廃墟と化した紫禁城へ、米軍の戦争サイボーグ部隊の精鋭12名が突入した。この神のごとき超人、エフゲニー・ウルマノフを倒すために。応募総数510作から大森望・日下三蔵・恩田陸が全員一致で受賞作に選出した本格的アクションSF。
カバーイラスト=加藤直之
※以下、多少のネタバレを含む
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以前、高島 雄哉「ランドスケープと夏の定理」の感想も書いたのだけれど同じくこちらも創元SF短編賞の受賞作「神々の歩法」
※↓過去記事azanaerunawano5to4.hatenablog.com
砂塵に埋まる天安門に降りたつ米軍の戦闘サイボーグ部隊。
部隊が紫禁城に進むとそこには独り踊るロシア人の姿がある。
エフゲニー・ウルマノフ。
元ロシアの農夫、現在は北京を一瞬で壊滅させた超人。
で、ここから“狂える神”エフゲニー・ウルマノフvsアメリカサイボーグ部隊の熾烈な戦闘が始まる、のだけれど戦いの様相は、
怪獣vsウルトラマン+科学特捜隊
こんな感じの図式になっていく。
つまり怪獣相手に壊滅させられそうな科学特捜隊の前にウルトラマンが乱入する。
超人の力の秘訣は踊り。
他次元の力を三次元に現出させるべく肉体を動かすと踊りに見える。
これ、ビジュアル化すると広い空間を踊りながらお互いに攻撃を加え合う、命をかけたダンスバトルという非常にエンタメっぽい絵面になって面白そう。
乱入するウルトラマン……それが超能力少女なんですが、この辺「アメリカ人がそんな不条理をあっさり受け入れんのか?」と思ったら本文に
幻覚か? まずオブライエンはそれを疑った。少女の姿が、あまりにもこの戦場にそぐわなかったからだ。まるでアニメから抜け出してきたかのようだった。オブライエンを始め、彼らは、こういう少女たちのじゃれ合うアニメをよく見ていた。そうしたアニメは抗ストレスかでの鎮静効果が高いため、各国で兵士のメンタルケアに使われているのだ。過酷な任務から帰ると、架空のアイドルたちの活躍を見て、兵士たちは涙を流す。日本の商業アニメは生産体制の崩壊でほぼ全滅したが、今ではハリウッドと台湾から大量に供給されていた。
彼らはこういう少女たちがじゃれ合うアニメをよく見ているのだそうで。
……お、おぅ。
少女たちがじゃれ合う……なんだろう。
アイマスとか?
ごついサイボーグ同士で「やっぱ、はるるんがさぁ」「お姫ちん☆」とか話すんだろうか……。
普段からこの超少女REIKO的な世界観に馴染みがあるから受け入れるのにも抵抗がない。
なんか納得してしまった。
しかも
日本の商業アニメは生産体制の崩壊でほぼ全滅
……あぁ、この未来は当たりそうな近未来の気配。
もう兆しがすでに……。
連続シリーズの一話目を読んでいるような印象。
このシリーズが続くならなかなか面白そう。
中国を舞台にロシアとアメリカが戦うなんてなかなか。
ただ「神」という定義がちょっと曖昧な印象かもしれない。
「超人」であってもなぜ「神」であるのか?
「神」なら「神」であるなにかしらとか、「神」相当の存在であると呼称してしまった方がいいんじゃないのかなー、と。
リーダビリティが高く、短編とはいえ眠いのに朝だけで読み終えた。
SFとラノベの境界はあいまいだけれど、今作はこれまでラノベをガッツリやってきたプロ作家の宮澤 伊織氏がハードさを盛り込んで自身の技術で書きあげた印象。
技術的にはすでに商業作家としての積みあげを感じるし、文章はこなれて、速度感もある。
THE MANZAIで博多華丸・大吉が優勝したのを思い出した。
こういう作家さんには是非、野尻 抱介氏みたいにSF畑でも活躍して欲しい。
ラノベの方が売れるのかもしれないけれどもね。
ちなみに過去作はこんな感じ↓