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 2020年東京五輪・パラリンピックの主会場となる新国立競技場について、下村博文文部科学相は29日、屋根を支える2本のアーチを維持し、総工費2520億円で、当初予定より2カ月遅れの19年5月に完成させる計画を、東京都の舛添要一知事らに示した。

 国際コンペでデザインを公募した3年前の1300億円、その後の試算で3千億円と二転三転した総工費は、昨年春の基本設計時の1625億円から、資材や人件費の上昇などで約900億円増えた。下村文科相はこの日、「都に(負担してもらう)上限を上げるお願いをするつもりはない」と述べ、都に対しては引き続き、500億円程度の費用負担を求めていく方針だ。また、「できるだけ国費を増やさない工夫をしたい」とも話し、競技場の命名権売却や寄付などで民間から200億円を集めるほか、スポーツ振興くじ(toto)の売り上げを充てて財源を確保したい考えを示した。

 関係者によると、文科省は現時点で、都に加え、国からも500億円の調達を見込む。そのうえで民間から目標額の200億円を確保したとしても、総工費の半分強にあたる残り1320億円をくじの収益に頼ることになる。

 この日、大会組織委員会の幹部らで構成する調整会議が都内で開かれ、下村文科相と舛添知事も出席。会議の場では都の費用負担の話は出なかったが、下村文科相はその後、記者団に「今後、都知事の理解をいただき協議を進めていきたい」と説明。一方の舛添知事は「(今日は)話を聞いただけ」と語った。(阿久津篤史)

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 総工費が2520億円に膨らんだ新国立競技場の建設計画が29日、正式に文部科学相から東京都知事らに伝えられた。2020年東京五輪・パラリンピックの開催まで5年。財源をどうひねり出すのか。約900億円増えてなお、計画を維持する理由は何なのか。不透明さは残る。

■命名権の売却や寄付は

 東京・虎ノ門の大会組織委員会の会議室。非公開の場で下村博文・文部科学相から説明を受けた森喜朗・大会組織委会長は会議後、「大変苦労して努力してよくまとめられた」と評価した。舛添要一・都知事は「べらぼうに高くなった。国の責任で金額にふさわしいものを造っていただければいい」と淡々と語った。

 関係者によると、総工費が1625億円とされていた時点で、文科省は国と都がそれぞれおおむね500億円を負担し、スポーツ振興くじ(toto)の収益からほぼ同額を充てるとの算段だった。

 ところが総工費が膨らんだ。資金集めの新たな枠組みとして浮上したのが、命名権の売却や寄付など民間からの協力で約200億円を調達する案だった。「(競技場の壁面などに)れんがとかネームプレートとかの形で、国民の多くの皆さんから協力していただく工夫を考える」。下村文科相は説明した。

 ただ、実現可能性は見通せない。命名権の売却の年間契約金額はたとえば「味の素スタジアム」(東京都調布市)で2億円、「日産スタジアム」(横浜市)で1億5千万円、プロ野球千葉ロッテマリーンズの本拠地「QVCマリンフィールド」(千葉市)で2億7500万円にすぎない。

 文科省は都に500億円の負担を求める姿勢を崩していないが、舛添知事は「都民が納得できる説明がないといけない」と釘を刺す。1千兆円の借金を抱える国も一枚岩とはいえない。財務省幹部は「財源を見つけてくるのは、ずさんな状況を放置していた文科省だ」と突き放す。

 近年の夏季五輪の主会場の総工費は北京が約430億円、ロンドンが約650億円(いずれも当時の為替レートで換算)。今回の2520億円には、五輪・パラリンピック後に設置を先送りした開閉式屋根の整備費は含まれていない。最終的な費用はさらに膨らむ見込みだ。下村文科相は「ぎりぎりのなかの額。この範囲内で(事業主体には)収めてもらうように努力してもらいたい」と述べた。