ろくがつ
あっつーい…窓閉めるとあっつ~い…
今回は今と同じくらいの季節、11章手前くらいのちょっとした話を。
近日中にもう一つ対になる話を上げるつもりです
【夏空】
日照時間が最も長くなる時節を夏と呼ぶ。
正にその通り、屋外へ踏み出せば太陽の光が髪を焦がさんばかりに照りつけてきた。
今日も暑くなりそうだなと、慰め程度に髪を撫でつけたディーノの足元を小さな黒い影が走る。
猫だ。そのまま、前方の大きい木の向こうへと回っていった。
「…うわ…。お前、抜け毛がひどいな…」
猫を追跡したディーノは顔をしかめた。関わりたくない人物が猫の体をこすっていた。
「…やれやれ」
苦々しげに呟いたディーノの声に気付いたようで、そいつは顔を上げた。
「何だ、ディーノじゃないか。この猫、あんたのか?」
「違う。大方、迷い猫だろう」
伝承が事実を産んだのではと勘ぐりたくはなるが、昔からマギの騎士が集うウルガルド魔法騎士学院には魔女の友たる猫が侵入する案件が多い。
「じゃあ、後でハイネに引き渡すか」
木陰のため余計に精彩を欠いた金髪を揺らし、そいつはのんびりと言った。
「…ついでにお前も風紀委員に突き出されたらどうだ。どうせサボっていたのだろう?」
「…残念だったな、これでも補習するとこなんだよ。こう暑いと、図書室にこもりたくないだろ?」
ディーノが皮肉を投じると、傍らを示しながら嫌味が投げ返されてきた。そちらにはディーノにも見覚えのある教本とノートが何冊か散らばっている。
「…それこそサボりにしか見えない理由だろうが。お前に自主学習が可能だと思えん」
「悪かったな! 他の連中は飲み物とか資料とか取りに行ってんだよ!」
怒号の下で猫が煩わしげに顔を擦った。
「やれやれ、それが事実であるのなら失礼したな」
「ったく。つーか、あんたは制服着てるのに勉強しないのかよ」
「服などどうでもいいだろう。ここに戻るまでに習得すべきは既に済ませている。でなければ意味が無い」
全てを失って5年余り、必死で突き進んできた。失われてしまったものを少しでも補う事が出来るのならばと。
「ああ…それもそうか。俺もここに来る前は魔力の鍛錬をしていた…」
「…そうか、お前は瞳狩りの生き残りだったな」
何故だか亡くした『あの方』を想起させ苛立つため認識することを忘れていたが、どちらかと言えばグレンやこの男の境遇はディーノに近しい。互いに、フェリシアの瞳狩りによって近親者を喪失した身だ。
「…ああ…って話がそれてるじゃねーか。アシュレイとも勉強しないのかって聞きたいんだよ」
「い、いや…! お、俺ごときが必要とは…御学友らとなさっているからな…」
猫と人と。二対の目に見上げられ、ディーノは急に鈍くなった舌に焦りながら回答を紡いだ。
「…それはもったいないぜ」
「意外だな。お前がそれ程に俺を評価しているとは」
驚きとともに、ディーノは目の前のマギの騎士をまじまじと見つめた。
「そりゃあ…あんたは誰よりも先輩だから、この内容ももう勉強しているんだろ?」
レフィが教本を持ち上げて言った。
「…悪かったな、先輩で…」
まったく、この男は。ディーノは苦虫を噛み潰した。
おわり
今回は今と同じくらいの季節、11章手前くらいのちょっとした話を。
近日中にもう一つ対になる話を上げるつもりです
【夏空】
日照時間が最も長くなる時節を夏と呼ぶ。
正にその通り、屋外へ踏み出せば太陽の光が髪を焦がさんばかりに照りつけてきた。
今日も暑くなりそうだなと、慰め程度に髪を撫でつけたディーノの足元を小さな黒い影が走る。
猫だ。そのまま、前方の大きい木の向こうへと回っていった。
「…うわ…。お前、抜け毛がひどいな…」
猫を追跡したディーノは顔をしかめた。関わりたくない人物が猫の体をこすっていた。
「…やれやれ」
苦々しげに呟いたディーノの声に気付いたようで、そいつは顔を上げた。
「何だ、ディーノじゃないか。この猫、あんたのか?」
「違う。大方、迷い猫だろう」
伝承が事実を産んだのではと勘ぐりたくはなるが、昔からマギの騎士が集うウルガルド魔法騎士学院には魔女の友たる猫が侵入する案件が多い。
「じゃあ、後でハイネに引き渡すか」
木陰のため余計に精彩を欠いた金髪を揺らし、そいつはのんびりと言った。
「…ついでにお前も風紀委員に突き出されたらどうだ。どうせサボっていたのだろう?」
「…残念だったな、これでも補習するとこなんだよ。こう暑いと、図書室にこもりたくないだろ?」
ディーノが皮肉を投じると、傍らを示しながら嫌味が投げ返されてきた。そちらにはディーノにも見覚えのある教本とノートが何冊か散らばっている。
「…それこそサボりにしか見えない理由だろうが。お前に自主学習が可能だと思えん」
「悪かったな! 他の連中は飲み物とか資料とか取りに行ってんだよ!」
怒号の下で猫が煩わしげに顔を擦った。
「やれやれ、それが事実であるのなら失礼したな」
「ったく。つーか、あんたは制服着てるのに勉強しないのかよ」
「服などどうでもいいだろう。ここに戻るまでに習得すべきは既に済ませている。でなければ意味が無い」
全てを失って5年余り、必死で突き進んできた。失われてしまったものを少しでも補う事が出来るのならばと。
「ああ…それもそうか。俺もここに来る前は魔力の鍛錬をしていた…」
「…そうか、お前は瞳狩りの生き残りだったな」
何故だか亡くした『あの方』を想起させ苛立つため認識することを忘れていたが、どちらかと言えばグレンやこの男の境遇はディーノに近しい。互いに、フェリシアの瞳狩りによって近親者を喪失した身だ。
「…ああ…って話がそれてるじゃねーか。アシュレイとも勉強しないのかって聞きたいんだよ」
「い、いや…! お、俺ごときが必要とは…御学友らとなさっているからな…」
猫と人と。二対の目に見上げられ、ディーノは急に鈍くなった舌に焦りながら回答を紡いだ。
「…それはもったいないぜ」
「意外だな。お前がそれ程に俺を評価しているとは」
驚きとともに、ディーノは目の前のマギの騎士をまじまじと見つめた。
「そりゃあ…あんたは誰よりも先輩だから、この内容ももう勉強しているんだろ?」
レフィが教本を持ち上げて言った。
「…悪かったな、先輩で…」
まったく、この男は。ディーノは苦虫を噛み潰した。
おわり
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