日本の財政は、借金漬けだ。国の借金残高は今年3月で1053兆円、国内総生産(GDP)の2倍と先進国の中で最悪の水準であり、債務危機にあえぐギリシャをも上回る。借金の8割強は、国債である。

 今年度予算では、財源不足を補うための36兆円余の新たな国債や、満期を迎えた分の借り換えなどで、総額170兆円の国債を発行する。

 こんなに借金を重ねて大丈夫なのか。発行後に国債が売買される市場で国債価格が急落(金利が急上昇)しないのか。

■市場に潜む危うさ

 国債の大半は、国内の資金、もとをたどれば国民の貯蓄でまかなわれている。逃げ足の速い海外マネーに頼っているわけではないから、大丈夫。こう説明されることが多い。

 おカネの流れを見れば、その通りだ。ただ、この流れに潜む構図を見落としてはならない。

 「異次元」とも称される、日本銀行による大胆な金融緩和策である。

 この政策の柱として、日銀は大量に国債を買っている。昨年秋の緩和策第2弾を経て、そのペースは、政府が市場で発行する分の最大9割に及ぶ。

 日銀が政府から国債を直接買う「引き受け」は、法律で禁じられている。かつて政府の戦費調達などに日銀が手を貸し、激しいインフレを招いた反省からだ。現状は金融機関を経て購入しているとはいえ、引き受けも同然と言える。

 何が起きるか分からないのが、市場だ。「日本の国債だけは価格が暴落しない」というわけにはいかない。投機筋などによる売り浴びせをきっかけに混乱が広がれば、企業の借り入れや住宅ローンの金利が急上昇し、景気の悪化に伴って税収が減る一方、国債の利払いは増える。ギリシャの惨状は遠い外国の話ではなくなる。

 そんな事態を避けるには、政府が「借金を返していく」という姿勢を示し続け、「すき」を見せないことだ。今は日銀が国債の大量購入で波乱の芽を封じ込めている格好だが、日銀の黒田総裁自身が政府に財政再建の大切さを説いていることがそれを物語る。

■成長頼みは禁じ手

 20年度の基礎的財政収支の黒字化を目指す政府の財政再建策は、借金を返していく意思を問う試金石だ。

 ところが、である。

 毎年名目で3%台という、実現が難しい成長を前提として、税収も伸びていくと見込む。増税については、1回延期した消費税率の10%への引き上げこそ織り込むものの、それ以上は封印。歳出の抑制・削減策も、メニューこそ並べたが、具体案や実行への道筋は先送りした。

 経済成長に伴う税収増を目指すのは当然としても、それに頼ることは「期待」頼みの財政再建であり、禁じ手だ。確実な手段は、歳出の削減と増税の二つ。ともに痛みを伴う。

 まずは歳出の抑制・削減だ。あらゆる分野にメスを入れる必要があるが、焦点は国の一般会計の3分の1を占める社会保障分野だ。高齢化に伴い、放っておけば毎年1兆円近いペースで増え続ける。

 医療や介護、年金など、社会保障は「世代」を軸に制度が作られ、現役世代が高齢者を支えるのが基本的な仕組みだ。しかし、同じ世代の中で資産や所得の格差が開いていることを考えれば「持てる人から持たざる人へ」という軸を加え、制度を改めていくことが不可欠だ。

 財政難の深刻さを考えれば、歳出の抑制・削減だけでは間に合わず、増税も視野に入れるべきだ。

 柱になるのは消費税の増税である。景気にかかわらず増えていく社会保障をまかなうには、税収が景気に左右されにくく、国民全体で「薄く広く」負担する消費税が適している。3年前に政府が決めた「社会保障と税の一体改革」は、そうした考え方を根本にすえる。

 安倍政権は10%を超える増税を否定するが、それではとても足りない。欧州の多くの国が付加価値税(日本の消費税に相当)の税率を20%前後としていることからも明らかだ。

 所得や資産に課税する所得税や相続税も、豊かな層に応分の負担をしてもらう方向で見直す。そんな税制を目指したい。

■避けられない痛み

 いずれも痛みを伴う改革だ。しかし、社会保障を持続可能にし、将来世代へのつけ回しをやめるには、避けて通れない。

 財政の再建から逃げ、放置すれば、いずれ破綻(はたん)しかねない。いったんそうなれば、国民の生活がもっと大きな痛みを強いられる。

 選挙で選んだ代表を通じ、法律を改正して制度の再設計や負担増を受け入れるのか。金利急騰といった市場の圧力に追いたてられて取り組むのか。

 民主主義の手続きに基づく負担の分かち合いを選びたい。