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【社説】

長官選改革否決 香港の民主は死なず

 香港行政長官選挙の政府改革案が否決された。立法会は中国当局の干渉を受ける「普通選挙」にノーを突きつけたといえる。真の民主選挙を求める道は長く険しいが、ひるまずに歩を進めてほしい。

 昨年秋から香港を揺るがせてきたのは、二〇一七年の行政長官選挙の改革をめぐる争いだった。

 中国の国会にあたる全国人民代表大会の常務委員会が昨夏、普通選挙案を決め、その内容を踏まえて香港政府が議会にあたる立法会に選挙改革案を提出した。

 中国は、香港の有権者が一人一票を行使できる「普通選挙」と宣伝した。だが、親中派が多い業界代表でつくる「指名委員会」で過半数の支持がなければ候補になれず、その候補も二人ないし三人に限定する仕組みであった。

 中国当局が望ましくないと考える候補を事前に排除できるやり方である。これでは民主派は選挙のスタートラインにも立てない。

 立法会の議論で、親中派議員は「一票を手にすることは、ないよりも良い」と主張した。これに対し民主派議員は「民主派を排除する偽の普通選挙だ」と反論した。

 中国当局のコントロール下にある名ばかりの普通選挙案であるというのが実態で、立法会が否決したのは健全な判断であろう。

 採決で形勢不利とみた多くの親中派議員が定足数割れによる流会などを意図して退出した。住民から託された投票権を放棄したのは強く責められても仕方がない。

 だが、否決は民主を求める戦いの再起動にしかすぎない。一七年長官選では、経済界代表などでつくる千二百人の「選挙委員会」で選出する従来の間接選挙が続く。

 香港基本法で、行政長官と立法会議員の選出は将来、住民の直接選挙に移行すると定められている。まずは、来年の立法会選で民主派が勢力を伸ばすことが、二二年の長官選に向けて真の普通選挙を実現する第一歩となろう。

 中国は全人代が基本法の解釈権を持つことをたてに、「法治」の形を借りて中央の意思を強行しようとした。香港住民はそこに一国二制度が骨抜きにされる危険性を感じ取り、昨年秋には「占拠」という抗議行動を起こしたといえる。

 立法会の前で一人の老人が「子や孫のため真の普通選挙を」と書いたプラカードを掲げていた。

 立法会は香港の民主が死んではいないことを示したが、正念場はこれからだ。平和的手段での息の長い戦いがさらに求められる。

 

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