放送アーカイブ:国会図書館で全番組保存 超党派が法案化
毎日新聞 2015年06月29日 21時52分(最終更新 06月29日 23時06分)
◇放送業界は「事後検閲につながる」と警戒
国立国会図書館がテレビやラジオ番組を録画・録音して保管する「放送アーカイブ」構想の実現に向け、国会の議論が加速している。今年5月には超党派の議連が発足したが、議論を主導する自民党内には、テレビの報道への不満から、事後検証にアーカイブを活用しようとする意見もあり、放送業界は「事後検閲につながる」と警戒を強めている。
構想は、放送番組を文化的資産として保存しようと、12年3月から衆参両院の議院運営委員会で議論され、骨子案も公表された。「放送アーカイブ議連」(会長、野田聖子自民党衆院議員)は今年5月、自民、民主、公明、共産などの27人が呼びかけ人となって発足。議連はこの骨子案を継承している。
骨子案によると、国会図書館で受信できるNHKや在京民放5局、BS放送7局、首都圏のAM・FMラジオの全番組を保存。コピーは認めず、保存後に一定期間を置いて視聴できるようにする。
これに対して放送業界は「公権力によるメディア監視につながりかねない」と反発し、国会議員と距離の近い国会図書館以外での実施を求めている。また、図書館での保存、閲覧は放送の目的外使用に当たるため著作権者から改めて許諾を得る必要があるという課題も指摘されている。
議連は、議論がまとまり次第、国立国会図書館法や著作権法改正案を国会に提出する方針。【丸山進】
◇自民党議員「どう報道したか調査するのは大事」
今年3月、放送アーカイブ構想を議論した参院自民党の政策審議会で、島尻安伊子参院議員(沖縄選挙区)は「地元のメディアがかなり偏っていたりする。あの時あの問題をどう報道したかをサーベイ(調査)するのは大事なこと」と述べ、アーカイブ構想に賛意を示した。
島尻議員は毎日新聞の取材に「検閲や規制の意味で発言したわけではない」と釈明したが、自民党がメディア監視を強めていることに、放送各局は警戒感を募らせている。今年4月には自民党がテレビ朝日とNHKの幹部を党本部に呼び、番組内容について事情を聴いた。
研究者や視聴者が放送を研究や批評の対象とすることはその質の向上に資する。そのための番組の保管は必要だろう。しかし、メディアのチェックを受ける権力の側が放送法第4条が定める「政治的に公平であること」をたてにメディアを監視し、圧力をかけるためにアーカイブが利用されることは避けなければならない。
アーカイブをどこが運営するのか、どのような番組を保存するのかなど、制度設計には慎重な議論が求められる。【丸山進】