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マスメディア最大のタブー『電波利権』に触れていた百田発言〜「報道の自由」=自分たちが触れられたくないタブーは「報道しない自由」だ

さて、今回の百田発言で実はマスメディアがまったく問題視していない(事実上無視し続けている)重要な個所があります。

 当該部分を東京新聞記事より(太線は当ブログ付記)。

 議員A マスコミを懲らしめるには、広告料収入をなくせばいい。われわれ政治家、まして安倍首相は言えないことだ。文化人、あるいは民間の方々がマスコミに広告料を払うなんてとんでもないと経団連に働きかけてほしい。

 議員B 広告料収入とテレビの提供スポンサーにならないということがマスコミには一番こたえるだろう。

 百田氏 本当に難しい。広告を止めると一般企業も困るところがある。僕は新聞の影響は本当はすごくないと思っている。それよりもテレビ。広告料ではなく、地上波の既得権をなくしてもらいたい。自由競争なしに五十年も六十年も続いている。自由競争にすれば、テレビ局の状況はかなり変わる。ここを総務省にしっかりやってほしい。
(参考記事)
マスコミ懲らしめるには広告収入なくせばいい 自民勉強会 議員らの発言要旨
2015年6月27日 朝刊
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2015062702000162.html?ref=daily

 池田信夫氏は、この発言を取り上げて「彼の主要な批判対象は『広告料ではなく地上波の既得権』なのだ」と指摘しています。

(参考記事)
百田尚樹氏の批判した電波利権
池田 信夫
http://agora-web.jp/archives/1646604.html
 当該部分を失礼して抜粋。

彼の主要な批判対象は「広告料ではなく地上波の既得権」なのだ。UHF帯だけで30チャンネル以上とれる周波数で実質的に7局の寡占体制が続いている。この帯域をBS局や通信業者に開放すれば、数十チャンネルが競争するので(アメリカのように)放送法の「政治的中立」という規定なんか必要なくなるのだ。

ところが百田氏の雑談に大騒ぎするテレビも新聞も、この問題にはふれない。それどころか、これを批判すると出入り禁止になる。おかげで私は『電波利権』という本を出してから、「朝まで生テレビ」と「そこまで言って委員会」以外の地上波の番組には出演できなくなった。

 「大騒ぎするテレビも新聞も、この問題にはふれない」とは、うむ、これは興味深い論点です。

 当ブログではマスメディアの『電波利権』について、その決して報道されない閉鎖性、著しく法の下での平等に反した不平等性、許認可制のもとに全く競争がない特権性に関して再三取り上げてまいりました。

(参考エントリー)
2011-08-22 私利私欲行為の宣伝に電波が安価に利用されているという事実
■[メディア]「放送外収入」を増やすという私利私欲行為の宣伝に電波が安価に利用されているという事実
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20110822

2012-06-28 マスメディアが課税ゼロを主張するなら異常なその利権をまず放棄せよ
■[メディア]マスメディア「知識への課税はゼロ」を主張するなら、その異常に守られてきた出版利権と電波利権を放棄せよ
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20120628

2014-12-01 自民党の「報道圧力」に在京キー局が沈黙を守る理由
■[メディア]自民党の「報道圧力」に在京キー局が沈黙を守る理由~その本質部分の問題点を触れようとしない朝日社説
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20141201

 テレビ局が、国から周波数を割り当てられて行っている許認可事業であることはご存知のことでしょう。

 しかし、放送局が国に対して「電波利用料」を支払っているということを知っている人は、ほとんどいません。

 総務省は13年2月末、このテレビ局ごとの電波利用料を発表しました(詳細は後述)が、それまでは2008年に一部公開して以来未公開だったからです。

 自民党の河野太郎衆議院議員は総務省に「テレビ局ごとの電波利用料の負担金額を出してほしい」と要求したところ、総務省の担当課長は「個別の負担金額は開示しておりません」と答えています。

 さらに河野氏が「どうして出さないのか」と尋ねると、その課長は「テレビ局のプライバシー」だと答えたのです。

 そして、自民党が総務省に強く要請し公開が決まったその内容は、マスメディアがテレビ局を通じて独占的にボロ儲けしている驚くべき実態であります。

 例えば、日本テレビが支払う電波利用料は年間わずか3億7600万円なのに対して、売上高はその738倍の2777億円。TBS、テレビ朝日、フジテレビなど他のキー局も電波を格安で仕入れ、その数百倍の収益をあげているわけです。まさに「濡れ手で粟」の商売であります。
【NHK】
電波利用料(A):14億8700万円
事業収入(B):6644億円
Bに占めるAの割合:0.22%

【日本テレビ】
電波利用料(A):3億7600万円
事業収入(B):2777億円
Bに占めるAの割合:0.14%

【テレビ朝日】
電波利用料(A):3億7000万円
事業収入(B):2209億円
Bに占めるAの割合:0.17%

【TBS】
電波利用料(A):3億8500万円
事業収入(B):2727億円
Bに占めるAの割合:0.14%

【テレビ東京】
電波利用料(A):3億6000万円
事業収入(B):1075億円
Bに占めるAの割合:0.33%

【フジテレビ】
電波利用料(A):3億5400万円
事業収入(B):1717億円
Bに占めるAの割合:0.21%

【その他、地方局計】
電波利用料(A):9億1251万円
事業収入(B):1兆2525億円
Bに占めるAの割合:0.07%

【全国128局計】
電波利用料(A):42億4641万円
事業収入(B):2兆9676億円
Bに占めるAの割合:0.14%

 テレビ局全体の電波利用料負担は、総計で42億4641万円にしかならないのに対し、営業収益は2兆9676億円もあります、電波の“仕入れコスト”は、営業収益のわずか0.14%ということになります。

 許認可事業という保護された無競争の周波数独占状態の中で暴利をむさぼるメディアの構図です。

 この歪んだ実態がまったく報道されないのは、日本のマスメディアの悪しきクロスオーナーシップのせいです。

 商業メディアがスポンサーに甘いのは万国共通の情けない問題ではありますが、特に日本のメディアがたちが悪いのは、日本のTVやラジオと新聞がグループ化してしまっている「クロスオーナーシップ」の悪弊のために、ある種の問題が、TV局もラジオ局も大新聞もみなが沈黙してしまうというマスメディア全体がチキン(臆病)になってしまっている点です。

 欧米の先進国の多くでは、言論の多様性やメディアの相互チェックを確保するために、新聞社と放送局が系列化する「クロスオーナーシップ」を制限・禁止する制度や法律が設けられていますが、日本でも、総務省令(放送局に係る表現の自由享有基準)にクロスオーナーシップを制限する規定があるにはあるのですが、これは一つの地域でテレビ・ラジオ・新聞のすべてを独占的に保有するという「実際にはありえないケース」(岩崎貞明・メディア総合研究所事務局長)を禁止しているにすぎません。

 その結果、読売新聞と日本テレビ、朝日新聞とテレビ朝日、産経新聞とフジテレビ、毎日新聞とTBSといった新聞とテレビ・ラジオの系列化が進み、新聞がテレビ局の悪質な電波利権の問題を一切取り上げない、テレビが新聞の再販問題を一切報じないことなどに見られるようにメディア相互のチェック機能がまったく働かず、新聞もテレビも互いをいたわりあう、互いの利権にかかわる報道をしないという弊害が生じているのです。

 ですから百田氏の発言でテレビ局の電波利権に関する部分は、ネット以外の既存メディアはすべて沈黙しているわけです。

 そもそも、この電波利権の問題は、決して報道されない閉鎖性、著しく法の下での平等に反した不平等性、許認可制のもとに全く競争がない特権性、非常に多くの問題を含んでいますが、特にこの電波利用料は著しく法の下での平等に反した不平等性を有しています。

 12年度の電波利用料収入は約715億円で、内訳は携帯電話事業者が72.3%なのに対し、放送事業者はたったの7.2%であります。

 さらに、NHKは電波利用料を受信料に転嫁しているし、民放は企業が支払うCM料に転嫁しているわけです。

 つまり、電波利用料のほとんどは、携帯電話を使っている消費者・国民が負担しているといってよいのです。

 テレビ局の10倍の利用料を国民が負担しているのです。

 なぜこのような歪みが出てしまうのか、TV局の電波使用料が著しく低く抑えられているからです。

 例えば、全国でもっとも電波利用料が低いのはU局の「テレビ埼玉」で年間119万円です。

 月々約10万円というワンルームマンションの家賃程度で、売り上げ約40億円を荒稼ぎしているのです。

 不当とも言っていいでしょう。

 では、この電波利用料を、国は具体的に何に使っているのか?

 主な内訳は、次のようになっています。
 ・地上デジタル放送総合対策:45.0%
 ・研究開発:18.0%
 ・総合無線局管理システム:9.8%
 ・電波監視:8.3%
テレビ局の電波利用料負担、携帯会社のわずか10分の1? テレビ局と総務省の利権か より
http://biz-journal.jp/2013/05/post_2051_2.html

 支出の半分近くを占める地デジ対策費は、実質的には放送局などへの補助金であり、とくに地デジ化の資金繰りに苦しむ地方テレビ局を救済するかたちになっています。

 つまり、国民が携帯電話を利用することで支払っている電波利用料で、テレビ局を支えている構図なのであります。

 そのテレビ局はといえば、社員の給料が高いのは誰でも知っており、民法キー局の平均年収は軒並み1000万円以上であります。

■テレビ局社員平均年収(2011年1月時点)(※単位:万円)

局名 年収
フジ 1457
TBS 1357
日テレ 1262
TV朝日 1213
TV東京 1050
<データソース>
テレビ局の年収をグラフ化してみる(2011年1月版)
http://blog.livedoor.jp/booq/archives/1379335.html

 公共放送たるNHKの平均年収も1185万円であることも添えておきます。

 ・・・

 今回の百田氏の発言を「報道の自由への弾圧」と批判を強めるマスメディアなのであります。

 彼らの主張する「報道の自由」には、自分たちが触れられたくないタブーは「報道しない自由」も含まれているわけです。

 ふう。

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