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油断禁物

 悪化の一途をたどっていた日韓関係が、国交正常化50周年の節目に改善の兆しが見えてきました。約4年ぶりに実現した日韓外相会談において、世界文化遺産登録における協力が確認できたことなどは一定の前進でした。しかし、油断は禁物です。というのも、日韓関係が急速に冷え込んだターニング・ポイントは、私が総理大臣の時だったからです。

 2011年12月17日、当時の李明博大統領を京都迎賓館に迎え、私は歓迎晩さん会を開きました。翌々日が李大統領の誕生日であり結婚記念日でもあったので、食事の後にサプライズでバースデーケーキによるおもてなしもしました。大統領は終始上機嫌でした。とてもとても和やかなムードでした。

 ところが、翌18日の首脳会談は空気が一変し、険悪な対決色になってしまいました。大統領が相当な時間を費やして慰安婦問題の解決を迫ってきたからです。韓国の憲法裁判所が慰安婦問題に関する韓国政府の不作為は違憲とする判決を下したことは承知していました。したがって、この問題について大統領が全く言及しないことはないだろうと予想していました。が、大統領は予想をはるかに超えて執拗でした。

 私は、慰安婦問題は1965年の日韓請求権協定によって法的には完全に決着し、解決済みという立場で、彼の要求を突っぱね続けました。そして、ソウルの在韓日本大使館の前に慰安婦を象徴する少女の像が設置されたことに触れ、それを撤去するよう要請したところ、相手はより一層感情的になってしまいました。

 この一連のやり取りを李前大統領は回顧録で「野田は大変驚いているようであった」と記述しているそうです。率直に言って驚きました。それには伏線がありました。

 京都の首脳会談の2か月前、2011年10月18日~19日、私は総理に就任して最初の外遊先として韓国を訪問し韓国重視の姿勢を示しました。この時の日韓首脳会談は好感触でした。李大統領は「歴代の韓国大統領は任期後半になると反日カードを使いながら支持率を上げようとする繰り返しだった。私はそういうことはしたくない」と、きっぱりと語りました。私は、「この人は尊敬できるリーダーだな」と、この時は思いました。

 ソウル会談の2か月後の京都会談で私が大変驚いたのは、大統領の豹変ぶりでした。2012年6月、日韓両政府は幅広い防衛秘密を共有する軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の締結を決めましたが、その署名の数時間前に突如韓国側から延期の通報がありました。韓国の国会の反発を恐れてのことだったようですが、国会承認のいらない行政協定が突絶反古になるとはこれまた驚きました。

 浮き沈みの激しい日韓関係です。好転の兆しは良いことですが、重ねて申し上げますが油断禁物です。

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