男性が純粋に女装してるんだって誇示するためには、もう全部脱ぐしかないかなって。
大島 ネットに引退文を出して「これから芸能活動をやって行きます」って宣言した時に、「有名になるためのステップアップにAVを使ったんだろう」というような批判をネットで目にしました。
けど、決してそういうことではなくて、AVへの出演は「大島薫」というアイコンを表現するために自然なアプローチだったと思っています。
女装するきっかけになった漫画とか同人イラストの2次元の「男の娘」が、そもそも「エロ」方面だったこともあり、「可愛い顔立ちにオチンチンがついてる」というそのギャップに魅力を感じました。
けれど、3次元で探してもそんな人はいないし、必然的に「じゃあ自分でやろう!」と、ニューハーフでもなく、紛れもない「男の娘」として表現したくてAV業界に入りました。
テレビでニューハーフタレントの方が「そんなこと言っても実は男なんでしょ〜?」とかって、もう完全に工事が済んでる人でもそういうイジられ方をする。このまま知名度をあげても、そういうイジられ方をするのならば、男性そのものが純粋に女装をしているんだって誇示するためには、もう全部脱ぐしかないかなって。
ネットの評価だと僕がパイオニアみたいに書かれてますけど、「男の娘」という言葉すらない時からもう「ニューハーフもの」というジャンルはありましたし、そういった創作物もたくさんありました。だから僕が一番最初っていうことでもないんですけどね。
──ただ、大島さんの登場で、「女装男子」というジャンルの知名度が上がって、よりポップで身近なものになりましたよね。
大島 唯一、僕が切り開いたことがあるとしたら、大手のAVメーカーさんと専属契約を結んだ「男性」というのは史上初だったこと。ニューハーフの専属女優さんはいらっしゃったんですけど。
「AV女優」と「AV男優」という職業にははっきり区別がついていて、事務所に所属して作品にもメイン出演者として映って、ギャラ的にも一定のものをもらってる人が「女優」というのは業界の共通認識としてあるので、僕が女性の引き立て役としての「男優」を名乗るのも違いましたし。
自分のAVでヌいたことがないんです
大島 アイコン化に関しては全然まだです。それはAV業界でちょっと有名になったところで達成されるものではないので、正直やり残したことはすごくあります。
2次元の男の娘をリアルに再現する「理想の男の娘の実現」とか……。正直言うと僕、自分のAVでヌいたことがないんです(笑)。
──ほぉ!
大島 理想とする存在になれてない証拠だと思うんです、それが。
──理想とする存在になれていたら、自分のAVでヌけるものなんですか?
大島 そうだと思います。じゃないと自分がやってきたことが間違ってたってことになると思うんで。少なくとも僕には再現できないものだったんだな〜っていうのが1つの答えです。
もともと「ニューハーフ」や「女装男子」のようなマニアックなジャンルっていうのは、売れないジャンルでした。制作費も抑えられて、それこそ女性の女優さんが出てる単体作品に比べると何分の1っていうお金しかかけてもらえなかったんですね。
そうやって経費を削減した作品は、当然クオリティが下がるじゃないですか? 一部のマニアは、それしかないから、それを買うことになるんです。一応ある一定の需要はあるから一定数は売れるため、作品もつくられ続ける。でもそんなに売れもしないから制作費が削られるっていう悪循環ができあがっちゃってて。
あとは、出てる側のニューハーフさんや女装男子も、意識が低い人が多い。僕がすごく意識が高いというわけではないんですけど、見る側からの意見としてそうでした。
ニューハーフさんって最終的には女性になりたい人が多いんですよね。つまり、男性器をとってしまう。だから胸もあって男性器も付いてる姿って本人にとっては完成品じゃなく通過点にしか過ぎない。風俗店に勤めてる人も多いので、その宣伝だったり、手術費用を稼ぐためのバイト感覚の方もいて。
女装男子もそこは一緒で、女性になりたい人もいれば、男性に戻っていく人も多いわけで、どっちにしても女装している姿は通過点なんですよね。有名になりたいって子もあまりいないから、普通のAV女優さんに比べるとどうしても意識が低くなるのかなって。
──女装が目的であった大島さんだからこそ、その完成度を追求されていたのですね。ちなみに「大島薫」というのは芸名ですか?
大島 芸名です。ゲイビデオに出ていた時は、名前もなくて。最初の撮影で、とりあえず名前がなきゃいけないから「薫」って監督さんがパッとつけてくれて。次に学園モノを撮った時に先生に呼び出されるシチュエーションで、先生と生徒だから苗字を呼ばなきゃいけなかったので、「じゃあ大島で」って言われて……で、「大島薫」が誕生しました(笑)。
美術部の先生からもらった言葉
──ファンの方から「大島さんを見て好きな服を着ていいんだと思った」と言われたエピソードをブログで書かれていた通り、大島さんに救わている方は多いと思います。では、大島さんご自身が誰かに救われたというエピソードはありますか?大島 救われたとはちょっと違うかもしれませんが、人生の中で印象的な言葉っていうのがあって、僕は高校時代、美術部に所属していて、芸大を目指して日本画をやってたんですね。そこでお世話になった顧問の先生から言われたことです。
コンクールに出展するからには賞を獲りたかったので、何か壮大なテーマの絵は描けないかと自分なりに考えて、その時は「滝から川が流れていて、そこに白い着物を着た女性がバーンって立ってて、その女性から血が流れている」という絵を描いたんです。
それを先生に見せに行ったら、「これは何の絵だ?」って聞かれて、「滝が流れているのが時間で、この流れている血が環境破壊をあらわしてるんです!」みたいなことを自慢げに答えたら、「もういい!もういい!」と呆れられて(笑)。
「お前がどんなに壮大なテーマを掲げても、お前の手を離れた時点で、作品は観る人のものだから、その作品の意味をいくら考えても観る人が思ったことが正解なんだ」と言われたんです。その時はよく理解できなかったんですが、その言葉がずっと心に残ってて、それから作品をつくっていく時は、そういう意識が常にありました。
ブログの引退文にも書いた「僕を見て、様々なことを思う方がいます。良いことも、悪いことも。大切なのは、僕が正しく理解されることではなく、僕を見て、誰かが何かを考えるというプロセスです。」というのもそういうことですね。先生からいただいた言葉が何かしら自分の生き方のヒントになっています。
不思議なものですけど、AV女優時代、年配の記者さんに取材を受けたことがありまして。普通だいたい記者さんっていろいろ調べてくるんですけど、その方は「そもそも君は何なんだね?」っていう感じから入って、最初は「大丈夫かなこの人」と思ってたんですが、その記者さんは僕の半生を全部聞いてから「君はいま自分の人生を使って作品づくりをしてるんだね」とおっしゃって。そういうことかもしれないなと思いましたね。
「男の娘AV女優」という肩書きを甘んじて受け止めてた
大島 AVで「ニューハーフ」と言えば胸もオチンチンもある人なので、区別しなきゃいけなかったんです。だから、「男の娘AV女優」という肩書きを甘んじて受け止めてたっていう部分は多少あります。
最初は「男の娘」に憧れてはじめたことですけど、今は、「本来の自分」という意味で、「男」とか「女」ではなく「大島薫」になれてるかなっていう気はしてます。
──AVに出演して得たものと、失ったものはありますか?
大島 得たものという表現に当てはまるかわからないですけど、もっと欲が出てきました。
AVでの表現も、もっとやりたいことがたくさんありましたし……自分の脚本で作品をつくったりしたことはあったんですけど、監督として、他の男の娘を自分が撮るっていうこともやってみたかったです。
技術的なことを言えば、それなりにプロとしてやってきたつもりではありますが、長年トップを張ってきた人に比べれば「女優力」もなければ、逆に女性と絡む時もトップ男優さんのようにうまく男性役をこなすっていうこともできてないし、もっともっとやりたいことはあったんですけど……。
でも、「大島薫のアイコン化」というのが最大の目的なので、それと天秤にかけた時に、AVは辞めざるを得なかったというのはあります。
そういう欲も、AVをやってみないと生まれなかったものです。「AVってこんな感じだろう」と語ってるうちは絶対に得られなかったものだし、今後の自分の糧になるんじゃないかなって思ってます。
失ったものは……特にないですね(笑)。友達にも普通に言ってますしね。
この記事が気に入ったら
いいね!しよう
KAI-YOU.net の最新情報をお届けします
この記事へのコメント