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 政治家には「飲み会はしご」が必要?――朝日新聞が女性衆院議員に実施した調査をもとに日本の政治土壌について報じたところ、ツイッターなどを中心に多くの反響がありました。さらに取材を重ねました。

■「政策に集中してほしい」

 5月6日の記事では、深夜まで地元支援者との「飲み会はしご」をする自民の宮川典子衆院議員(36)=比例南関東=の日常を記しました。多くの方が記事を読みツイッターに感想を書いてくれました。取材班ではツイッターやフェイスブックを通じて連絡をとり、話を伺いました。

 滋賀県の医師、稲本望さん(48)は「小選挙区は冠婚葬祭の顔出しが必須になるので、中選挙区に戻した方がよい」と書き込みました。知り合いの国会議員の男性たちが、週末に地元のイベントをはしごしているのを見て、政策に集中してほしいと感じます。「小選挙区では選挙区全域の行事に顔を出し、名前を覚えてもらおう、となる。政策本位を目指したのに本末転倒」と指摘しました。

 神奈川県の予備校講師、加藤孝さん(51)は「女性議員の容姿にやたらと言及したり、『花』としての酒席への出席を求めるような有権者自身の意識が改まる必要がある」とツイートしました。「女性の視点で行動する議員はもっと増えるべきです」。東日本大震災後、土壌や食品の放射線量の測定活動を始めた加藤さん。子育て中の女性から不安の声を多く聞きました。「学校給食に使う食材の検査を自治体に求めた母親たちに寄り添い、動いたのは、多くが女性市議だった」と言います。

 東京都のキャリアアドバイザー、岩嶋寿子さん(56)は「女性が増えないことから、議員活動のあり方を考えてほしい」とツイートしました。夜の飲み会や冠婚葬祭に奔走する女性議員の現状に「育児などに手厚いサポートのある人しか議員にはなれない」とがっかりしたそうです。「物事をきめる時に女性がほとんどいないなんて。有権者は何のために政治があるのか考えてほしい」

■地方議員からも多くの声

 政治を職業とする地方議員らからも、多くの声が寄せられました。「政治の現場は日本で一番、女性の進出が遅れている業界」。川崎市議を2011年から1期務めて引退した吉田史子さん(51)は、メールを寄せてくれました。マーケティング会社を経営しながら、小学生の息子を育てるシングルマザー。「女性も暮らしやすい社会にしたい」と市議選に立候補しました。しかし、市議になってみると、夕方から夜間にかけての会合、選挙への応援などに時間をさく必要に迫られました。学校の用事を優先した際には「それなら専業主婦になればいいのに」と他の議員から言われたそうです。

 仕事はやりがいがありましたが、時代遅れと思えるやり方に生活を合わせきれず引退。「飲み会はしご」に代表されるような古い政治土壌を変えるためには「政権交代ではなく世代交代が必要だ」と訴えます。

 大学非常勤講師の石川公彌子(くみこ)さん(39)は「低投票率では選挙期間前の組織、支持者固め集会や飲み会が結果を決めると実感。投票率を上げ、選挙期間中の政策論争を盛り上げることが必要」とツイッターにつづりました。

 一部の区民の声しか届かない現状に危機感を覚え、4月の東京都世田谷区議選(定数50)に立候補。子を持つ親の立場から待機児童問題解消などを訴えてきましたが、落選しました。選挙戦を通じて感じたのは、選挙前に集会や飲み会などに出席し、いかに自分の顔を売るかの勝負になっていることだったと言います。候補者同士が選挙戦で政策を競い合う場になっていないとも感じ、「組織票を固めた候補者が当選しやすい状況では、出産、育児のある女性の進出は厳しい」。

 男性議員からも意見が寄せられました。東京都杉並区議の堀部康さん(44)は「よくも悪くも政治家は有権者の鏡。今でも土日や夜間に御用聞きをして回っているのが、少なくない議員の実態でしょう」とツイートしました。

 自身は酒席への出席は仕事ではないとの考えから「基本的には遠慮させていただいている」。男性だけではなく女性にも求められる飲み会文化の是非について、堀部さんは「無理のない範囲で参加されればいいと思います」。

 杉並区議の定数は48で、女性は16人。3割を超える女性の割合は決して低くはありませんが、「社会構造が変わり人材不足が顕著化する中、議会だけではなく様々な分野で女性が増えないことには、将来の担い手が確保できなくなる」と危機感を募らせます。

 飲み会がつらいのは「男性も同じ」と自らのサイトに書き込んだのは長野市議の市川和彦さん(60)。11年に立候補し初当選。飲み会をはしごすることもあり「体にこたえた」と言います。体力的、また出産や育児との両立の問題を抱えた女性の夜の活動は、男性より大変だと感じています。「女性の社会進出をさらに促すためには制度より、働きやすい社会環境を整えることが先決」と話します。(榊原一生)

■宮川さん「やっぱり飲み会は必要」

 宮川さんは、記事を読んだ女性から「若い女の子が夜遅くまで、はしたない」と言われました。男性国会議員からは「女の子が飲み歩いていい身分だね」。「男性は『飲むのも仕事』なのに女性は『女のくせに』と言われる」と感じました。一方で「俺とは飲んでないよね」と不満を漏らす人も。飲み会への批判はあっても、酒席を共にしたいと思ってくれる支援者は大切。「やっぱり飲み会は必要」。確信したそうです。

     ◇

 飲み会はしごだけでなく、女性衆院議員への調査では、国会議員であることが結婚のハードルになり、女性であるがゆえに外見などに興味本位の視線が注がれるという意見もありました。5月に衆院議員同士の結婚を発表した自民の金子恵美衆院議員(新潟4区)は、結婚前から「永田町デート」などと交際を報じられ、「国会で婚活」と批判されることもありました。でも「仕事の中で出会いがあるのは当然。やるべきことをやっていれば自由」。国会の「職場結婚」も自然に受け入れられるよう願っています。

 解散時期が読めないため、妊娠のタイミングは難しいものですが、「考えても仕方ない。できた時が産むとき」。子育て支援や少子化対策で強みになるという期待もあるそうです。

 顔や容姿で判断される――。女性衆院議員への調査では、興味本位ともみえる視線が注がれることに違和感を覚える意見も。3月の衆院本会議への欠席などから、維新を除名された上西小百合衆院議員(比例近畿)。化粧や髪形に注目されました。「女性であれば面白おかしい表現で過激に報道されるのはどうか。公平性を欠いているのでは」と疑問を投げかけています。女性ばかりに好奇の視線が集まるのは、政治が男性社会だからだと感じています。状況を変えるには、女性議員が増えることが第一だとも。「既婚、子育て中の女性も積極的に政治の世界に飛び込めるように変えるべきだ」と訴えています。

 「女性だけの問題ではない」というご意見もいただき、男性議員に話を聞きました。

 自民党の津島淳衆院議員(青森1区)の妻はフリーランスで仕事をしており、地元活動にさける時間はかなり制約されます。地元の支援者からは「奥さんも地元で活動するべきだ」とよく言われます。多くは年配の男性で「選挙への関わりが強く、必ず投票に行く人たち」。そんな有権者からの言葉は重いものです。

 ですが、津島さんは「政治家の妻」の役割は多様であると考え、何より選挙区での存在が不可欠とされる状況を変えたいと思っています。そのためには「政治家自身が変わらなければいけない」。「女性の活躍」といいながら、津島さんの妻に「早く仕事を辞めて地元にいきなさい」と言った議員もいました。政治家自身が、伝統的な性別役割分業意識にとらわれていることに疑問を抱いています。まず自らが妻のいない政治活動を認めてもらうことが第一歩。それには選挙で勝ち続けるしかありません。「自分が地元にいるのが一番」と地元に頻繁に戻り、お祭りや飲み会、地域イベントに参加します。「ロールモデルになりたい」と話しています。

 子育ての壁にぶつかった男性議員もいました。超党派の「イクメン議員連盟」の共同座長を務める民主党の柚木道義衆院議員(比例中国)は3年ほど前、長女(4)をおんぶしている写真をポスターにしました。「男は外でがんばるものだ」「国会議員は仕事最優先だ」。年配の男性支援者らから批判が集まりました。

 航空会社勤務だった妻は出張がよくあり、柚木さんが保育所への送迎や入浴、寝かしつけなど育児全般を担う日も多かったといいます。週末、地元・岡山に帰る時は一緒に移動し、岡山県内の妻の実家に預けて活動しました。

 柚木さんは、男性議員も育児に参加すれば「行動や思考を劇的に変えざるを得」ず、国会内外の女性進出も進むと考えています。(田中聡子)

■記者はこう考える

 政治家は利害調整という人間的な営みを担う。舞台は胸襟を開ける夜の会合が多い。利害調整の主役は大半が男性。これが「飲み会政治」の背景だ。「けしからん」と言うだけでは変わらない。女性の社会進出が進めば、おのずと変わるはずだ。

 「結局、女にも覚悟がないのよ」。今回の取材で、自民党の閣僚経験者が言った。結婚や子育てをしたいなら、政治家を目指すべきではないと。「女を言い訳にする同僚がいかに多いことか……」とも言った。

 男性でも子育てや介護に精通する議員はいる。「女性の方が現場に近い」とか「女性は大変」と訴えるだけでは説得力は弱い。数字ありきで増やしても意味はない。女性が増えれば、どう政治が変わるかを示さないと、共感は広がらないだろう。(相原亮)

     ◇

 国民の割合と同じように、国会議員の半数も女性がいい。「女性議員が増える利点は?」と聞く人には、逆に尋ねたい。男性が9割を占める利点はなんですか?クオータ制が広まったのは、それでも女性を増やすメリットがあるからだ。

 女性が置かれた状況にアンテナを張り、政策の優先順位を上げる。そんな十分な仕事をどれだけの政治家がしてきただろう。止まらない少子化は、鈍感なオッサン政治に対する「ノー」ではないのかと思う。

 限られた人しか参加できない「飲み会政治」は合理性を欠く。4歳の息子を育てる民主党の山尾志桜里議員は、選挙戦では候補者に公開討論会への出席を義務づけるべきだと考える。「握手や名前の連呼より、政策で勝負できる」。私もそう思う。(高橋末菜)

【政党助成法改正案】

 自民党の小池百合子衆院議員らは政党交付金の一定割合を女性議員の数に応じて交付する法案を作成しました。議員の候補者や議員に一定割合の女性を割り当てるクオータ制度は、世界で約100カ国が採用しています。小池さんは「韓国では思い切って法律を変えた結果、女性議員の数が増えた。女性に関する政策も多く提案されている」と話します。しかし、党内では抵抗が根強く、法案はお蔵入りの状態です。

【議員の一日】

 国会のある東京・永田町には「金帰火来」という言葉があります。国会議員が金曜に地元選挙区に帰り、火曜に上京することを指します。

 宮川典子衆院議員は当選2回。例に挙げた宮川さんの一日は、国会議員の典型的な日程です。東京にいるときは早朝から党本部と国会に詰め、終われば地元へ。夜の有権者との会合は酒が伴います。日曜は地元行事に出席して「顔」を売ります。地べたをはいずり回る手法は、地道だが選挙時に有効です。宮川氏は言います。「限られた時間で、地元有権者をどこまで『開拓』できるかが勝負だ」

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