iemo流、ネットメディアの立ち上げ方
by 村田マリ(起業家)
私が住まいのキュレーションメディアである「iemo」を立ち上げた経験からメディアの立ち上げ方の考え方をいくつか紹介します。
まず、市場の選び方です。メディア立ち上げの際に、どのジャンルを狙うのか?という点に関して、考慮すべき軸が大きく2つあると思っています。それは、
・業界の選び方
・参入するタイミング
です。
まず業界の選び方ですが、一般的に、参入する業界の市場が大きい方がビジネスになりやすいという考え方があります。しかし、その考え方だけでは、単に不動産の市場が大きいから不動産メディアをやろうとか、金融の市場が大きいから金融系メディアをやろう、というレベルの話にしかなりません。それでは、当然、うまくいかない場合が出てきます。
では、うまくいく場合といかない場合で何が違うのでしょうか?それは、「その業界は今、パラダイムシフトが起こるタイミングなのか」という軸で見極めができているかです。
メディア立ち上げの際には、第一の業界選びよりも、第二のパラダイムシフトが起きるタイミングかどうか、という見極めの方が重要なのです。
立ち上げ時期は、ユーザーのデバイスが変わるタイミング
「iemo」が参入したのは、2013年12月です。これは、人々が日常的に使うデバイスがパソコン・フィーチャーフォンからスマートフォンに移行するという、これまでの習慣が大きく変わるタイミングでした。いわば、非常にわかりやすいパラダイムシフトの瞬間だったのです。
そのパラダイムシフトが起きたときに、「世の中が大きく変わるこの瞬間に、不動産業界では何が起こるだろうか?」というところから逆算して発想したのが「iemo」です。
それまで、家探しや家を買うというアクションは、パソコンの画面にブラウザのタブをたくさん開きながら比較検討したり、じっくり見積もりを取るような行動パターンが一般的でした。
しかし、スマートフォンにデバイスが変わるタイミングでは、その探し方が全く違う方法に変わる、という仮説を持ったのです。そこで「iemo」は、スマートフォンに最適化して作りました。つまり、日常的に使うデバイスが変わるというパラダイムシフトが起きたタイミングで、スマートフォンで家の情報を得やすいメディアがあった場合、関心がある人のトラフィックを獲得できるのではないか、という考えでした。
不動産業界には、ユーザーたちはこれまで通りパソコンでじっくり家を探すだろうという、前の時代の考え方が残っていました。しかし、ユーザーたちは既に24時間365日、肌身離さずにスマートフォンを持ちつつあります。そして、電車の中や仕事の合間などにスマートフォンを見ています。
隙間時間に見るのであれば、コンパクトに情報がとれた方がいいですよね。しかし、そこに最適化された不動産情報を出していたメディアがありませんでした。
「iemo」を立ち上げるときの発想で、普通のメディアとちょっと違うポイントは、業界がそのタイミングで明確に変わるんじゃないかと思っていたところです。メディアの立ち上げには、このタイミングが非常に重要なのです。
ターゲットは、希望的観測ではなく裏付けに基づく
次にターゲットです。メディアを作るとき、誰もがターゲットを設定すると思うのですが、「iemo」の場合は希望的観測で「ターゲットはきっとここです」というのではなく、「ニーズがそこにある」という体感から逆算してターゲットを設定したところが少し変わっています。
人が家を買おうとか、家を建て替えようと思うタイミングは、結婚を意識し始めたとき、子どもができたとき、子どもがちょっと大きくなって家が手狭になったとき、親御さんの老後のことも考えて一緒に住むとき、などのタイミングです。
たぶんそのタイミングの人たちは、20代後半〜30代がほとんどで、上は40歳ぐらいの方だと思います。自分の周りの30代の方を考えると、家を買おうとか、リフォームしようという話になったときに意思決定をするのは、だいたい奥さんでした。予算を出したり、承認したりするのは旦那さんですが、最終的には奥さんの好みになります。旦那さんが仕事で家を空けているなか、奥さんは家にいて日中家事をやっているわけですから、必然的に女性が意思決定するケースが多いだろうと思ったのです。
さらには、自分自身の主婦体験、前職で主婦向けのソーシャルゲームを作っていたので、主婦の方がどんなふうに携帯を触っているのか、1日の行動パターンはどうなのか、どういうものを好むか、というデータもありました。
不動産購入などにおける意思決定者は主婦が多いこと、自分自身の体験やデータ、それらの裏付けがあってターゲットを主婦にしたのです。
コンテンツで、潜在層を顕在化する
コンテンツの作り方の点でも、「iemo」はこれまでのメディアの発想とは少し違っています。
たとえば、PC時代に不動産の情報を出していたメディアは、顕在化しているユーザーに対して、きちんと詳しい情報を出すというやり方をしていました。つまり、リフォームについての情報を調べたい、家を買うときのローンについて調べたい、という人が検索してメディアにたどり着いたときに、その人が求めている情報をできる限り丁寧に返していたのです。いわゆる、顕在的なニーズに対して、きちんとした結果を返すという考え方です。
しかし、デバイスがスマートフォンに変わり、暇な人がずっとデバイスを触っているようになると、どちらかというとフロー型の情報、消費されていく情報の中に家や暮らしの情報をきれいに混ぜ込む、というコンテンツの作り方が必要になると私は考えました。
そこで暇な時間にさらっと見ても重たくないフロー情報、かつ、具体的な行動には移していないものの家について潜在的に何か思っている人たちが、その情報に触れたときに何らかのスイッチが入り、潜在から顕在に変わるようなコンテンツを意識して作ることにしました。
たとえば、結婚を控えているのでインテリアを買おうかなとか、子ども部屋を作るためにリフォームをしようかなど何かしら意識している人は、何らかのスイッチによって急に顕在化されます。今までは、それが結婚、出産みたいなライフイベントだったのですが、そこまでドンピシャではなくても、人はやはりどこかで意識はしています。ちゃんとその意識に引っかかるように、たくさんの選択肢(コンテンツ)をユーザーに示すことができたら、その無意識のスイッチを押してもらえるんじゃないか、という作り方を展開しているんです。
マネタイズは、広告とマッチングの2段階
「iemo」のマネタイズは、二段階で考えています。
第一段階は広告です。「iemo」はバーティカルメディアなので、誰がクライアントになるのかがわかりやすいので、マネタイズはもう見えています。ただ、どちらかというとそれは最低限のマネタイズで、ラーメン代稼ぎのようなものと捉えています(「iemo」の買収先であるDeNAぐらいの規模になると、ラーメン代にすらなりませんが…)。
第二段階は、今まさに挑戦しているのですが、家や暮らしに興味がある人と家を作るメーカー、工務店や賃貸業者とのマッチングというのを考えています。いわゆる、不動産会社がやっているような、不動産マッチングと呼ばれるビジネスモルです。
この話をしたときによく挙がるのが、「iemo」は潜在的なニーズを顕在化させるメディアだから、家の購入など、コンバージョンまでの距離が遠いのではないか、最初からニーズが顕在化しているユーザーをつかまえた方が早く成約に結びつくのではないか、ということです。
しかし、ニーズが顕在化している市場は熾烈なマーケティング合戦が繰り広げられているので、スタートアップが後発で参入するところではありません。しかも、潜在層はフロー情報の中で偶発的に情報に接する機会が多いので、顕在化していなくても出会えるチャンスが多い分、母数は多い。顕在化するまでの距離が多少遠くなったとしても、母数が多ければ最終的な成約の確率は同じではないか、という仮説を私は立てました。その仮説を検証しているのが「iemo」のビジネスそのものなんです。
「The First Penguin」では、記事アイデアを募集中です!この人の起業話が聞きたい等ありましたら、こちらからご投稿ください。