女性誌は時代遅れでバカバカしい–女性らしさに反抗したサイト「Vagenda」が話題
女性セレブの身体に対する攻撃批判を行い、美容について女性に不安感をあおっていたメディアに対して疑問を抱いていたホリー・バクスター氏はフェミニズムオンライン雑誌『Vagenda』を立ち上げます。バクスター氏は、変革を起こすにはまず問題を認識し、それを笑い飛ばすことが重要であると語りました。(TEDxYouth@Manchester2014 より)
- スピーカー
- ジャーナリスト Holly Baxter(ホリー・バクスター) 氏
オンラインフェミニズム雑誌『Vagenda』を立ち上げた
ホリー・バクスター氏:さて、後ろの衣類乾燥棚の写真が、メディアの中の女性やフェミニズムと何の関係があるの? と思ってるかもしれません。
実は全く関係ありません。メディアの女性とも、フェミニズムとも何の関係もありません。でも、友人のリアノンとオンラインフェミニズム雑誌『Vagenda』を立ち上げた2012年2月に、私はそこに住んでいたんです。
大学を卒業したのは不景気の真っ只中で、私は文字通りこれとそっくりな衣類乾燥棚に住んでいました。
『Vagenda』の出版契約を結んだ時、編集者からの返信にまず書いてあったのは「人生をドラマチックに描き過ぎないように」ということでした。
ベッドがあるなら、本当の衣類乾燥棚のはずがないでしょうって。でも、ベッドなしで7週間も過ごしたんです。本当に衣類乾燥棚だったし、私は最初そこに住んでいたんだから。
友人と私がこのオンラインマガジンを立ち上げようと思ったのは、2人ともひどい仕事に就いていたから。ものすごく安いお給料だったので、私は彼女の部屋の棚に住んでいました。
そこで、何か楽しいことをしようと思い、ブログを始めることにしました。名前を『Vagenda』としたのは、思いついた中で一番バカバカしい名前だったから。スローガンは「『リア王』みたいだけど、女の子向け」に決めました。
このスローガンは、週末に読んだ雑誌『Grazia』の映画評で、ちょうど封切られたばかりのマーガレット・サッチャーの伝記映画『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』を『リア王』みたいだけど、女の子向け」と書いてあったのを読んでつけました。
女性雑誌が「これはシェイクスピアみたいだけど女性向け」なんて書くようなメディアに何の意味があるの? と思ったのです。こんなのは私たちが主張したいことじゃない。それでこのブログを立ち上げました。
全然深く考えないで、2人で女性雑誌とそれにつきもののありがちなイメージをちょっとからかってやろうと思って。それで翌朝起きたら、60,000人もの人がブログを見てくれて、本当にびっくり仰天しました。
今では2,000万人に増えています。みんな何度も何度も訪問してくれて、インドやアメリカ、オーストラリアから、メディアについての経験や、女性であること、性差別についてたくさんコメントしてくれました。今でもそう。人々から支持されていることがわかります。
女性誌は女性に不安を抱かせている
私がこのブログを立ち上げたいと思った大きなきっかけが2つあります。
1つが後ろのスライドで、雑誌『コスモポリタン』のもの。片側のページには「ボディニュース」という大きな特集記事があって、その中心的なメッセージは「自分に自信を持って。自分の身体を愛しなさい。そうすればあなたは内側から輝く。必要なのは自信を持つこと」。
その特集の反対側のページには大きな美容整形の広告があって、女性が「豊胸手術したばかり。でも一番の変化は表情に表れている」という大きなプラカードを手に持っています。
この広告の一番意地悪いところは、隣のページの特集記事の「自分に自信を持つことが何よりも大切である」という主張を利用して「自分に自信を持つためには、まず外見を変える必要がある」という考えを押しつけていること。
不安をあおるマーケティングの手法を使用しているのが、女性雑誌の意地悪なところだと思います。こういった女性雑誌の多くが商品指向型で、商品を買わせるためには、女性に不安感を抱かせる必要があるから、常に問題を生み出し続けているのです。雑誌は広告収入に依存しているので、こうなってしまうのでしょう。
もう1つのきっかけは、広告業界の業界誌『Adweek』に載っていた、数年前の「女性が最も不安を感じる時」という調査です。女性に「あなたが自分のことが嫌になるのはいつですか」と尋ねる大規模な調査を行ったのです。
午前9時から午後7時、深夜まで。月曜日、火曜日、水曜日、木曜日……。女性が最も自己嫌悪に陥る時について膨大なデータが集まりました。そして、これは女性に商品を売り込む大きなチャンスであると結論づけたのです。だから、女性が最も不安感を抱いている時を捉えて、強引に商品を勧めればいい。それが広告業界の女性に対する考え方なのです。
雑誌は時代遅れのステレオタイプを押し付けている
他にも『Grazia』のような雑誌では、たいてい悩みを抱えている女性を3人または1人特集しています。
『Vagenda』を立ち上げてブレイクし始めた時、雑誌業界で働く人々から話を聞きました。ある人から聞いたんだけど、『Grazia』の表紙はいつも「distress in a dress(悩めるドレス姿)」と呼ばれているのだそうです。
女性はちょっと困ったような表情で、1人は微笑んでいて、いろんなポーズを取って、ヘッドラインは「『失意の女性クラブ』の内実」。そして使われている言葉も「一巻の終わり」「破綻」など、常に精神的苦痛を感じている女性ばかり取り上げて、しかもたいていは体重に関することだったりする。
女性についてネガティブなステレオタイプを常に押しつけているのです。しかも時代遅れのステレオタイプを。でも、こんなのを毎週読んでいるうちに、頭に入り込んでしまいます。
それにもちろん、時代遅れで、つまらなくてバカバカしいセックスのアドバイスがあります。
これは『コスモポリタン』誌の表紙のコラージュなのだけど、一定のパターンがあることがわかるでしょう。「彼に欲しがらせる方法」「セックス中のカレの心理」「オトコの性的興奮の秘密」「ベッドの中の50のタブー」「オトコの激白」「その気にさせよう!」「カレに印象づけるために」……。
これは全部、セックスとは女性はされるもので男性がするもの、という考えに基づいています。女性は自分のセクシュアリティをコントロールすることができないし、決定権も持っていない。
セックスは男性がリードするもので、彼をその気にさせるのは、彼を自分のものにして関係をつなぎとめておきたいから。自分の性的な喜びとか、自分の人生をコントロールすることとは全く関係ない。そんな考えは時代遅れです!
間違ったこと「ベッドの中の50のタブー」をしたら、彼に捨てられてしまうから、いつもこういったアドバイスを守らなきゃ。だからと言って、ふしだらな女と思われたらダメ、ちょっとだけプレイガール風ならOK、だとか。
(会場笑)
雑誌のセックスアドバイスはおかしなものばかり
同様に、ドーナツとミートソースとストリッパーの共通点だけど、これは私がリアノンと本を書いている間に見つけたセックスアドバイスのワースト3です。1つが、ドーナツを彼のペニスにかぶせてかじり取るというもの。
ドーナツの穴を見てもらえばわかると思うけど、すごく小さいじゃない(笑)。だから、そもそもあんまり楽しいセックスが味わえるとは思いません。だから彼のペニスがドーナツがかぶせられるぐらいの大きさなら、かじり取る必要なんてない、ってアドバイスします。
(会場笑)
ミートソースというのは、すごくおかしなセックスアドバイスです。そもそも彼が仕事をしている間あなたは家にいる、という前提からして問題があるのだけど「彼の心をつかむには胃袋から」なので、スパゲティミートソースを作ってあげて。
乳首にミートソースを塗ってハイヒールを履いて、彼が家に帰ってきたら「私が欲しいもの、わかるわよね?」。私の知ってる男性に同じ事をしたら、って想像してみたんだけど、最初のリアクションは「よし、じゃあ」じゃなくて「大変だ、頭がおかしくなった」だと思います。
それからストリッパーも私のお気に入りです。『Vagenda』に寄稿してくれた女の子が実際に試してみました。『コスモポリタン』誌にはいつも彼のために「ストリッパーのように振る舞いなさい」「ちょっとしたストリップショーをしてあげて」とあるでしょう。
その子がボーイフレンドの家に行ってストリップショーをしてみせたら、彼はとってもフェミニストで「お金のためにストリップショーをしている女性たちが、どんなひどい目に遭っているか」と憤慨して、人身売買の被害者と親切な警察官役のロールプレイをするはめになったそうです。
2人で一晩中ただ抱きしめ合って、彼は静かに涙を流してたって。
(会場笑)
性的なイメージを盛り込んだ広告は古臭い
作戦失敗ですね。こうやって笑い飛ばせるのはいいことだけど、実際、多くの女性がプレッシャーを受けています。
それから「冷水浴」と「窓を開けっ放しにすること」「洞窟人」これは全部ダイエットについてのアドバイスで、とても原始的なものです。
「冷水浴」と「窓を開けっ放しにすること」を雑誌が勧めるのは、寒くて震えるような状態にすれば、それだけカロリーを燃焼するからですって。だから真冬に冷水浴して、窓を開けっ放しにして、おまけに「洞窟人」のような食生活にしなきゃならないそうです。
例えば小枝をかじるとか、未加工の食品を食べるとかそんなことかしら。雑誌が押しつけるこういったアドバイスを掘り下げて考えると、とても意地悪だと思います。人々にものすごくネガティブな影響を与えています。
学校に行って話を聞いたら、学生時代ずっとこういうプレッシャーに苦しめられたと言っていました。
女性雑誌だけじゃなくて、ここにある広告一般についても同じことが言えます。『Newsweek』誌のような高級誌でも「世界のグルメスポットベスト101」特集で、女性がアスパラをフェラチオしているイメージを使っています。
それから昨年のポットヌードルの「あつあつのふたをはがせ」(容器が女性の乳房を連想させ、同意なしに女性の服を脱がせようとしてもいいというイメージを与えている)という広告。
バーガーキングのスーパー7インチバーガーの広告は、It’ll blow your mind away(あなたをワクワクさせる)というコピーで、女性が口を大きく開けているものです。
こうした宣伝攻勢にあっていると、ここにいらっしゃる女性の皆さんはおわかりのように、そしてもちろん多くの男性も気がつかれたように、私たちの精神に影響を与えるようになります。
ミネラルウォーターのボトルに女性のお尻の写真が描かれていたり、食べ物にフェラチオしなければならないような世界に生きている必要なんてない。こんなの必要ないのに、どこにでもある。
広告の限界に挑戦する、とは言うけど、いつも同じパターンで、全然先進的だとは思いません。
ヘッドラインを「正しく」書き換える実験をした
それから、昨年『Vagenda』でおもしろい実験をやりました。いろんなところからヘッドラインを集めて「正しく」書き換えたのです。女性の描かれ方があまりにバカバカしかったから。
これはTwitterで送られてきた、アメリカのゴシップサイトTMZのもので、私のお気に入りです。「ジョージ・クルーニーがやり手の弁護士と婚約の噂」という見出しを「大活躍中の人権派弁護士、52歳の中年俳優と交際中か?」と書き換えてあるのです。とても気に入りました。
それから、これは「カーダシアン一家(リアリティドラマ『カーダシアン家のお騒がせセレブライフ』)は何と言うだろう? ぶかぶかのスウェットパンツでランチのコートニー、おしゃれなカーダシアン一家の恥さらし」。
それをある人は「女性がトレーニングウェアを着たからって、家族から勘当されないだろう」と書き換えたのです。
こういう広告を分析したら、バカバカしいということがわかるけれど、こんな広告を毎日毎日頭にたたきこまれれば、分析もしなくなってしまう。だから、風刺でもって注意を引きつけることは大事だと思う。だって信じられないぐらいバカげているから。
それから女性が、特にまだほんの幼いうちからターゲットにされていることを覚えておく必要があります。私の後ろのヘッドラインはデイリー・メール紙から取ったもので全部スリ・クルーズに関するものです。
スリはケイティ・ホームズとトム・クルーズの娘で、これらの見出しは全部、彼女が4歳になる前に書かれたものです。そのことを頭に入れてください。
「スリ・クルーズ、寒い夜に裸足でお出かけ」「いつもながら完璧」「つやつやの赤い唇でおめかし小さなマダム」。こういったのぞき趣味で、いやらしいことをデイリー・メール紙がすごく、すごく、すごく幼いからやっているのです。
フェミニズムとはジェンダー平等である
それから、有名な雑誌『Heat(英国のゴシップ誌)』の「恐怖の輪」は、セレブの身体の欠点に焦点を当てる特集です。
最近やめたみたいだけど。どれほど女性セレブがカメラで狙われているか、どれほどこういった身体に対する批判攻撃に遭うか、認識することが大事だと思います。それについて話し合って、笑い飛ばさなければ。そうしないと、常に自分に対してもそういう見方をしてしまうから。私もそうだったから。
それで友人と『Vagenda』を立ち上げたのです。鏡を見ていると、つい見た目が気になってしまう。セレブが「セルライトとの戦いに負ける」のを見て、最悪だと思ったり、人々からどう見られて、評価されて、どう思われるかが気になってしまうから。
これまで「魅力的になりなさい」と言われることのほうが「成功しなさい」と言われるよりもずっと多かった。そういうメッセージはとても悪い影響を与えると思う。
最後に「間違ったフェミニズム」について。これは何年か前の『コスモポリタン』誌に載っていたのだけど「ヴァジャズリング(アンダーヘアの脱毛処理後に肌をラインストーンなどでデコレーションするサービス)をしてもフェミニストになれるか?」私がフェミニズムに関わるようになってからずっと同じことを聞かれました。
「フェミニストなのにこんなことをしてもいい?」「あんなことをしてもフェミニストと言える?」「メークをしても大丈夫?」「男性でもフェミニストといえるか?」などなど、基本的に何でもOKです。
はっきり言えるのは、フェミニズムとはジェンダー平等であるということ。風刺でも、怒りでも、おふざけでも、日常生活の中ででも、どんなアプローチでも構わない。男性であろうが、女性だろうが、関係ありません。
ヴァジャズリングしたっていいのです。いえ、本当はしないほうがいいと思うけど。どちらにしてもジェンダー平等は私たち一人ひとりに関わることだから、まず笑い飛ばして、それから世界を変革しましょう。
ありがとうございました。