社説:骨太の方針 財政への危機感が薄い
毎日新聞 2015年06月29日 02時32分
政府は、経済財政運営の指針「骨太の方針」を、あす閣議決定する予定だ。2020年度までの新たな財政健全化計画が柱だ。
国の借金は1000兆円を超え、今回の計画は再建の一歩に過ぎない。だが、歳出抑制は「目安」にとどまり、借金返済は高い経済成長を前提とした税収増頼みだ。危機感が乏しいと言わざるをえない。
健全化の指標とする基礎的財政収支は、社会保障費や公共事業費などの政策経費を新たな借金に頼らず税収などでどれだけ賄えるかを示す。15年度の赤字は16.4兆円(国・地方の合計)に上る。政府は20年度までの黒字化を目標にしており、その道筋を描けるかが焦点だった。
骨太の方針は、国内総生産(GDP)の成長率を「実質2%、名目3%」に高めるとした。内閣府の試算では、この水準の成長が続くと、赤字は7兆円圧縮される。
しかし、日本経済の実力である潜在成長率は0%台半ばに過ぎない。政府は新しい成長戦略も閣議決定するが、人材育成やIT(情報技術)活用など内容は小粒で、成長底上げに力不足の感は否めない。
さらに、高成長を続けても20年度に9.4兆円の赤字が残る。歳出改革が重要だが、具体策は乏しい。
中間目標として、18年度の赤字の対GDP比を1%程度に縮小(15年度は3.3%)する方針が盛り込まれた。政策経費は社会保障費だけで年1兆円近く増える計算だが、全体の伸びを18年度までの3年で計1.6兆円程度に抑えるという。
だが、歳出抑制は、厳格な目標ではなく、あいまいな「目安」とされた。経済動向に応じて柔軟に財政出動を行う方針も明記したため、歳出抑制は骨抜きになる恐れがある。
社会保障費の抑制につながる裕福な高齢者の医療費負担増や年金減額もほとんど言及されなかった。痛みを伴う改革は先送りされた形だ。
17年4月の消費再増税を控え、歳出抑制による景気悪化を避けたいという「成長重視派」が優勢だった。「経済再生なくして財政健全化なし」という安倍晋三首相の意向を反映したものだ。だが、歳出の効率化を進めなければ、再増税に対する国民の理解も得られないだろう。
骨太の方針は、日本経済の現状について「四半世紀ぶりの良好な状況」との認識を示した。この機をとらえて思い切った歳出改革に踏み出さないのなら、いつ着手するのか。
健全化計画は、首相が昨年、消費再増税の延期を決めた際に策定を表明した。だが、財政への信認をつなぎとめられるか不安が残る。16年度予算編成に向け、首相は歳出改革で明確な指示を出すべきだ。