ギリシャ債務危機がふたたび世界経済の火だねとなりそうだ。金融支援をめぐってギリシャと欧州連合(EU)はぎりぎりの交渉を続けてきたが、年金削減などEU側が求める厳しい改革案をギリシャが拒否。その賛否を問う国民投票を7月5日に実施するとしている。これに強く反発したEUは現行の支援を今月で打ち切ると表明した。

 ギリシャは国際通貨基金(IMF)への約2千億円の借金返済が期限のあすまでにできず、債務不履行(デフォルト)になる恐れが強まっている。

 心配なのは、週明けの金融市場への影響である。これが引き金となって世界経済危機に発展するようなことは絶対避けなければならない。主要国の金融当局は警戒を怠らず、必要なら連携して対応にあたってほしい。

 今回、EUが最終的に支援拒否やむなしと判断した背景には、ギリシャがデフォルトとなっても影響は限定的とみていることがある。ギリシャ向け債権の多くをすでに民間金融機関から切り離し、EUやIMFが引き受けている。公的管理によって、リスクをなんとか制御できると考えているのだろう。

 ただ、そんな筋書きどおりにいかないのが過去の経済危機の教訓である。日本に長期停滞をもたらす要因となった1997年秋の金融危機は、最初の三洋証券のデフォルトを当局も市場も過小評価していた。だが破綻(はたん)の連鎖は、すぐに北海道拓殖銀行や山一証券など大手へと広がり、とりかえしのつかない事態になった。

 2008年の米金融大手リーマン・ブラザーズの破綻でもそうだった。未曽有の世界経済危機につながると予測できていたら、米政府はあのようなリーマン処理を選択しなかったろう。

 市場にはさまざまな思惑があり、どんな経路から危機につながってしまうのか予測しにくい。ギリシャ危機にしても、想定外のリスクが十分にありうると覚悟していたほうがいい。

 ギリシャ経済を大混乱に陥らせないために、少なくとも欧州中央銀行(ECB)によるギリシャの銀行への資金繰り支援は当面ある程度、続けざるをえないのではないか。

 欧州統合の理念からいえば望ましくはないが、ギリシャのユーロ離脱の可能性も視野に入れる必要が出てきた。EUが対応を誤れば、この問題は財政が比較的悪いとみなされているスペインやイタリア、ポルトガルにも連鎖しかねない。経済危機の火だねを、ていねいに消していく細心さが求められている。