新たな大国が台頭し、既存の覇権国との対立の果てに紛争へと発展するパターンは、何度か世界史に現れた。

 では米中はどうか。この問いを多くの政治指導者が頭の片隅に置いていることだろう。

 主要閣僚が顔をそろえる米中戦略・経済対話が、今回で7回目になった。これまでより重みを増す形で注目されたのは、両国の力のバランスが、より拮抗(きっこう)の方向へ進んでいるためだ。

 この対話は中国市場の開放を狙う米国が発案し、協力関係を演出する舞台ともなった。オバマ政権が安全保障にも議題を広げると、中国の国力増大とともに対立点が大きくなった。

 現在の主要な争点は、サイバー攻撃と南シナ海である。「人権」などの価値観的なテーマと異なり、力のぶつかり合いになりかねない局面に入っている。

 バイデン米副大統領は開会時の演説で「責任ある競争者」たれと中国側に呼びかけた。国際社会において中国が公正な競争相手となるのは大いに歓迎だ、という意思表示である。

 この論法は中国側に受け入れやすい面があろう。楼継偉財務相は「世界経済成長への寄与率は中国が30%、米国は10%」と、世界経済の牽引(けんいん)役としての貢献を強調した。

 中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)も、米国中心の世界銀行など国際金融組織と併存しつつ、国際開発に役立つ可能性がある。

 共通の利益を比較的見いだしやすい経済面に比べれば、安全保障問題の溝は深刻だ。

 とりわけ心配なのは南シナ海である。領有権問題が絡み合う中、中国による一方的な岩礁の埋め立てや施設の建設は、地域の安定を損ねている。

 今回の対話の中で、中国は一つの約束をした。東南アジア諸国連合(ASEAN)との間で過去に交わした合意に沿い、法的拘束力を持つ「南シナ海行動規範」をつくる交渉を前に進めると表明した。

 確実に実行してもらいたい。南シナ海は世界屈指の重要海路でもあり、各国から深刻な不安の視線が注がれていることを中国は忘れてはならない。

 「責任ある競争」とは、力と力の競争でなく、関係国の信頼をどれだけ勝ち取れるかの平和的な競争であるべきだ。

 対話に出席した楊潔(ヤンチエチー)国務委員は「両国の協力面は競争面よりずっと大きく、競争を協力に変えることができる」と語った。その見識を行動で示してほしい。新興国と覇権国との紛争は決して不可避ではない。