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二が武出発直前
やっぱりすんなりと行きません。
(装備よし、忘れ物なし、では出発)
昨日の臨時PTで十分にスネーク・ソードの修練が出来たので、先を急ぐことにした。アップデートまでの時間を考えると、三が武か四が武のどちらかを完全にスルーして余裕を持たせないと龍の儀前の準備に取れる時間が少なくなって厳しくなるかもしれない。大半のことがスムーズに進まなかった今までの経験上、少しでも余裕を持っておきたいというのが心情だ。
借りていた部屋から出て鍵を確実に閉め、鍵を返して出発するために宿屋の入り口を目指す。今日宿屋の受付をやっているのは番頭さんのようだ。
「鍵をお返しします」
「──はい、確かに返却を確認しました」
「それでは、失礼します」
「誠に申し訳ありませんが、お客様、少々お待ちを」
番頭さんに鍵を返却して三が武に向かって出発と意気込んだ所で、番頭さんに呼び止められてしまった。
「何か自分に問題がありましたか?」
「あーその、なんと言いますか……この宿から一つ、アース様へ依頼をさせていただきたいのです。前金で1万グロー、成功報奨でさらに2万グローをお出しします」
仕事の依頼か……だけど今は厳しいな。これから三が武に行かねばならないし、前回の様に寄り道満載の日程を組む訳にはいかない。申し訳ないがこの依頼はお断りするしか無いだろう。
「申し訳ありませんが、自分はこの先六が武まで急がねばなりませんので、その依頼は……」
「いえ、むしろその六が武……正確に申し上げれば龍城まで同行して欲しい方がおりまして。貴方と一緒に行くのであれば、我々この宿の従業員も安心できるという訳でして……はい」
これは護衛依頼ということになるのだろうか? でも龍人が護衛依頼ねえ? 戦争の時にも少し話したが、基本的に人族(ヒューマン、プレイヤーが属する人種)は、能力的な面から見ると世界最弱。そのかわりあらゆる技術を身につけられる可能性が高いという設定らしい。そういう面から考えて、護衛依頼となると、人族を龍人が護衛するという形が一般的だと思われる。ここまで話せばわかるかもしれないが、龍人に対して人族の護衛を付けるというのはかなりおかしい話になる。護衛対象に護衛されると言った奇妙な逆転現象が発生してしまうのだ。ルナ○○初期のプレイヤーみたいに。
「私は人族ですよ? 護衛なら戦闘力も高い龍人の方に依頼をした方が、間違いがないのではないでしょうか?」
疑問を番頭さんに対して言ってみたのだが、返答で帰ってきた声は番頭さんの声ではなかった。
「それは私が、貴方がいいと望んだからです」
声がした方向に視線を向けると、旅支度を整えた二が武の女将さんが居た。ああ、前回は雨竜さんでしたが、今回はこうなるのですか……。
「一つだけ質問を。なぜ、龍城へ向かわれるのですか?」
女将さんに質問を投げかける。断れないパターンにハマっていると分かった以上、もう抵抗はしない。しないが指名された理由ぐらいは知っておきたい。
「こちらをお読みになればご理解戴けるかと」
そうして自分の前に女将さんから自分に一通の手紙が直接手渡される。とりあえずその手紙を開いて読んでみると……。
[先日はうちの夫と娘が大変なご迷惑をお掛けしました。あれから後、貴女と連携した重いお仕置きを私の夫と娘に対して行うべきであると、城に連れ帰った後に私は気がつくことになりました。私が前もって一通りのお仕置きは二人に行いましたが、ここからより念入りにちょうき……いえいえ、お仕置きをして、彼は龍の国の王であり、娘は龍の国の王女であることを念入りに叩きこまねばなりません。
その為に大変申し訳無いのですが、久々に貴女にも龍城へと出向いていただきたいのです。それから、真龍の儀を経て我が同胞を龍に昇華させたあの方も龍城にお呼びください。その事についてのお礼の一つもしていないなどと、龍の国王の妻としてあるまじき失態ですので。貴女に必要以上の手間をかけさせてしまうことになりますが、どうかよろしくお願い致します]
なぜだろう、どう見てもこの手紙からはお仕置きという名の拷問が行われた等にしか感じられないのは。自分の両手がカタカタと小刻みに震えているのは気のせいではないだろう。それに飽きたらず、更にお仕置きという名の調教って……ラスボスは王様ではなく奥方様だ、間違いなく。なんとか手紙を元に戻し、宿屋の女将さんに返却する。
「あらあら、そんなに怯えなくても大丈夫ですよ」
そう言ってクスクスと女将さんは笑っているが、その笑顔が美しいからこそ今の自分にとっては恐ろしい物に見えた。上司の怒り顔なんてこの笑顔に比べたら可愛いものだ……。リアルの自分の体は今頃おそらく脂汗をびっしょりとかいているだろう。
「そういうわけですので、どうかよろしくお願い致します」
逆らったら消される。実際はそんなことはないのだろうが、あの手紙を読んだ直後の自分には、目の前の女将さんからそれだけのスゴ味を感じてしまっている。この威圧感は、ダンジョンボス以上と言っても過言ではないはずだ。
「は、はい、よろしくお願いします、女将さん」
だがこの自分が返した言葉に、女将さんは不服なようだ。
「そういえば名前を教えていませんでしたね……私は火澄と申します。旅の間は是非名前で読んでくださると嬉しいです」
そんなことを言いながら女将さんは、自分の右手をそっと両手で包み込むように握ってくる。いちいち行動に穏やかながらも妙な色気が漂うのが困る。
「り、了解です。では龍城まで改めてよろしくお願いいたします、火澄さん」
そう返答すると、女将さんは微笑んだ。こんな状況をカザミネや二が武の街に住んでいる龍人男性の皆さんにに見つかったら大変だなーと、自分はどこかずれたことを考えていた。あ、これが俗にいう現実逃避か。
「それでは、お気をつけていってらっしゃいませ!」
番頭さんの威勢がいい声に見送られ、二が武の女将さんと一緒に六が武、そして龍城へと向かうことになるのか……と思っていたのだが。
「ああああああ! 貴女は!」
なんと何故か龍の国に来ていたギルド・ブルーカラーの面子であるカザミネ、ロナ、ノーラの三人に、女将さんと一緒に二が武を出ていこうとした所を見つかってしまったのだ。その時、普段はめったに大声を挙げないカザミネが、かなりの大声を出していた上にものすごい勢いで走り寄ってきた……。
「あら? 貴方がたは……以前お泊り頂きましたね」
女将さんも商売柄覚えていた様だ。
「以前はありがとうございました。にしても女将さんがなぜアース君と一緒に?」
ノーラの質問に、女将さんは何故か自分に体を密着させてから、カザミネ、ロナ、ノーラに対して質問にとんでもない返答を返した。
「六が武までのんびりデートですよ♪ お泊りありの……ね♪」
うわあ、どこかの悪女みたいな事を……。ロナは「いつの間にそんな仲に!?」と驚いているし、何故かノーラはニヤニヤし始めるし、カザミネは真っ白になって固まっている。
「あのね……ただの護衛依頼でしょうが……女将さん」
自分の一言でカザミネは再起動したようだ、表情に色が戻ってくる。なお、女将さんの名前を言わなかったのは当然故意に、だ。抗議の意味を込めている。
「なら、私もその護衛に同行します! 人数は多いほうが良いでしょう!」
必死について来ようとするカザミネ。その一方でノーラはニヤニヤ顔を続行し、ロナはそんなノーラから何やら吹きこまれている。あー、とてつもなく嫌な予感。
「自分としては、人数が多いほうがいいというカザミネの意見に賛成ですが」
変な噂を立てられるよりは、一緒に来てもらったほうがいいだろうと判断し女将さんにそう告げる。カザミネ、そう睨むんじゃない。
「そうね、大人数ならそれはそれで面白そうですし……一緒に行きましょうか」
そうして当初はソロで行くはずであった龍の儀に、同行者が四人も増えることになってしまった。これはこれで楽しいから……まあ、いいか。
火澄さんの能力はまだ秘密、強いとだけはいっておきます。
スキル
風震狩弓Lv47 剛蹴Lv17 百里眼Lv20 製作の指先Lv93 小盾Lv20
隠蔽Lv49 武術身体能力強化Lv28 義賊頭Lv18 スネークソードLv32
妖精言語Lv99(強制習得)(控えスキルへの移動不可能)
控えスキル
木工Lv44 上級鍛冶Lv44 上級薬剤Lv17 上級料理Lv47
ExP 13
所持称号 妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 竜と龍に関わった者 妖精に祝福を受けた者 ドラゴンを調理した者 雲獣セラピスト 人難の相 託された者 龍の盟友 ドラゴンスレイヤー(胃袋限定) 義賊
二つ名 妖精王候補(妬) 戦場の料理人
同行者 二が武宿屋女将 火澄

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