宇宙白熱教室 第4回「そしてダークエネルギーの発見〜私たちのみじめな最後〜」 2015.06.26


この広い宇宙はどうやって始まったのか。
そして宇宙の未来は一体どうなるのか。
人類が何千年にもわたって探究してきた宇宙は今も多くの謎に包まれたままです。
そんな宇宙の謎に最新の数式を駆使して立ち向かっているのが…研究テーマは「宇宙の始まりから終わりまで」。
私たちの常識をはるかに超えた不思議で魅力に満ちた宇宙の姿を明らかにしてきました。
今回一般市民を対象に行われた特別講義。
最新の理論が描き出す驚きの宇宙像が次々と飛び出します。
「ダークマター」や「ダークエネルギー」など次々と紹介される最先端の宇宙論。
必死に講義についてゆき驚きの世界を体感しようとする生徒たち。
4回にわたる講義で宇宙物理学者が立ち向かう未解決の謎にまで迫っていきます。
「宇宙白熱教室」いよいよ今回が最終回。
急速に進歩しつつある現代宇宙論の核心へと挑んでいきます。
前回の講義では宇宙には2種類のエネルギーがある事を学びました。
まずは動いている全ての物体が持つ「運動エネルギー」。
そして重力の影響で物体が持つ事になる「位置エネルギー」。
宇宙に存在するこの2つのエネルギーの合計がプラスなのかマイナスなのかが分かれば宇宙が永遠に膨張するのかいずれは収縮に転じるのかが分かるといいます。
それを調べていく過程で今日の物理学者たちは驚きの事実を発見します。
銀河系の周りを回る星々の公転速度は銀河の中心から遠くなるにつれて遅くなるのではなくほぼ一定になっているという予想外の結果でした。
この事実が更なる宇宙のミステリーへと私たちをいざなっていく事になります。
今回は現代宇宙論においてまさに最大のミステリーと呼ぶべきものにたどりつく事になる。
空間に満ちあふれている「ダークエネルギー」だ。
この発見は宇宙の未来がどうなるかの予測を一変させる。
それにしてもたった4回の講義で物理学の初歩から最前線にまで行きつくわけだ。
本当にすばらしい。

(拍手)また君たちみんなに会う事ができてうれしい。
いよいよ今回は大詰めだ。
すばらしい講義になる。
前回の講義の最後にある発見について話した。
「驚くほど奇妙な観測結果が出た」というものだっだ。
強調すべきはその大発見は単純な論理の積み上げだけで成し遂げられたという事だ。
複雑さをそぎ落とし物事の本質を捉えるという思考方法なしにはこうした発見には決してたどりつけなかっただろう。
そうした思考方法はまずガリレオが成し遂げそれをニュートンが物理法則として結実させた。
こうした積み重ねがあったからこそ重要な事に気付いたり奇妙な出来事を発見したりする事ができるんだ。
とにかく物理学は単純なんだ。
だから今回も更に単純な事をやっていく事にしよう。
さてこのグラフが意味する事は何だったか?思い出してほしい。
この下に向かう曲線はケプラーの発見をもとに作られたニュートンの式から導かれたものだ。
「銀河系の外側を回る天体の公転速度の2乗は銀河系の中心からの距離に反比例する」。
通常宇宙ではこうなるはずだ。
私たちの太陽は銀河系の外側の方を回っているから更に離れた場所にある星々は公転速度がどんどん遅くなっていくはずだった。
外側に行くほどニュートンの式が示すとおり公転速度は遅くなるはずだったんだ。
でも実際の速度は一定だった。
それは何を意味するのか。
質問かな?どうぞ。
ああその点は確かに曖昧だった。
銀河系の恒星のほとんどは太陽よりも内側にあるが実は外側にも物体はある。
それは「分子雲」や「球状星団」などと呼ばれるものでそのほとんどは太陽より内側にあるが銀河系の外側にも観測可能なものはあるんだ。
「分子雲」「球状星団」南半球で見られる大小の「マゼラン雲」もそうだ。
こうしたさまざまなものが銀河系の周りを公転していて速度を観測できるんだ。
いい質問だったね。
さてこのグラフは何を意味するのか?なぜ公転速度がほぼ一定になってしまったのか。
理由は2通り考えられる。
まずは「重力の法則が場所によって異なる」という可能性だ。
地球のスケールと銀河系のスケールとでは重力の法則が異なるのではないか。
でもそれは実にばかげた考え方だ。
なぜスケールによって法則が変わらなければならないのか。
この可能性は多くの物理学者が検証し既に否定されている。
ばかげてはいたがちゃんと検証されたんだ。
さてもっと単純に説明する方法がある。
もし星々を銀河系の中心へと引っ張る質量が中心からの距離に比例して増えれば公転速度は一定になる。
中心からの距離に比例して星を引っ張る質量が増えればいいという事だ。
銀河の中心より10倍遠い所にいれば引っ張る質量が10倍になる。
もしそうだとすれば公転速度が一定である理由が説明できる。
でもこの説明もばかげているように思える。
銀河系とその周辺には目で見える通常の物質以外に10倍多くの未知の物質が漂っているという事になってしまうからだ。
この可能性に最初に気付いたのは一人の女性だ。
前回エミー・ネーターの話をしたが同じような境遇に置かれていたヴェラ・ルービンという女性だ。
夜学に通いながら勉強に励み苦労を重ねて世界で最も有名な天文学者の一人と言われるまでになった。
ノーベル賞が与えられてもいいと私は思う。
彼女はこのグラフに載っている天体以外にも高温のガスの領域などを観測しそれらの公転速度は一定だという事を示した。
当時人々は「そんなばかな」と言ってそれを信じなかったが今ではその事が何度も検証されている。
更に天文学者たちは何年にもわたって銀河系以外の銀河でも同じ測定を行った。
そして全ての銀河でもし目に見える通常の星以外に質量を持つものがないなら公転速度は右下がりになっていくはずなのに実際には速度は一定だった。
測定した全ての銀河で公転速度は一定だった。
これはたった1つの銀河での観測結果ではない。
あらゆる銀河で目に見える通常の物質の少なくとも10倍多くの未知の物質が存在する事が明らかになったんだ。
つまり銀河の質量のほとんどは未知の物質の質量からきているというわけだからワクワクする。
我々はそれを「ダークマター」と名付けた。
平凡な名前だ。
(笑い)でもそんなに悪い名前じゃない。
実際「暗い物質」だからだ。
ではその正体は何なのか?実は分かっていないんだ。
ただ未知の素粒子である事は確かだと言っていい。
ではなぜこれが未知の素粒子であると言えるのかを示そう。
それはある測定で明らかになったんだ。
前回地球太陽そして銀河系の質量を測定しただろう?だが最終的な目標はたくさんの銀河がある領域全体の質量を量る事だったのを思い出してほしい。
一個一個の銀河の重さを足し上げてゆくのではなく大きな銀河の集団の質量を丸ごと測定したいんだ。
最初の講義で宇宙のスケールについて話をした時最大級の集団は「銀河団」と呼ばれるもので1,000万光年の大きさだと伝えた。
その重さを量りたい。
だが実は既に測定されているんだ。
さっきのニュートンの式ではなくアインシュタインの助けを借りて。
ここでちょっと歴史を遡ってみよう。
1936年の事だ。
「サイエンス」という科学雑誌がある。
有名な科学雑誌で私は時々論文を書いている。
だがもちろん君たちが「サイエンス」に論文を投稿しても掲載を拒否されるだろう。
では掲載されるためには一体何が重要なのか。
1936年の「光を屈折させる星のレンズのような作用」という論文の書き出しはこうなっていた。
「少し前にマンドルという男がやって来て些細な計算をしてみたのだがその結果を発表してほしいと頼まれ応じてやる事にした」。
論文の著者はアルバート・アインシュタインだ。
アインシュタインは論文は書いたが重要な内容だとは思っていなかった。
「マンドルに強制されて」書いたと言っていたわけだ。
1916年アインシュタインは一般相対性理論を打ち立てある予測を立てた。
それは「重力の作用で空間は曲がるから光もそれに沿って曲がった経路をたどる」というものだった。
この予測が1919年イギリスのアーサー・エディントンによって立証されアインシュタインは有名になった。
実は「E=mc」を発表した頃はアインシュタインは無名だった。
1919年といえば第1次大戦の直後なのにドイツの物理学者の予測をイギリス人が立証したから注目されたのかもしれない。
でもこれはニュートンの重力理論を書き換えるものだったから極めて重要だった。
光が重力によって曲がる事は確認されたがそれは更なる事を暗示していた。
大きな質量があってその後ろに星や銀河があるとすると発せられた光はその質量の周りで曲げられ再び1点へと集められる。
つまり大きな質量が空間を曲げレンズのような働きをするんだ。
だからちょうど眼鏡が物体を拡大するのと同じような働きをするわけだ。
あるいはこうしてのぞいて見るといろいろな形の君たちが見える。
この事は「サイエンス」にも書く価値がある事実だろう。
でもアインシュタインは「どうせそんな事は観測できないから重要でない」と言った。
だから論文を書きたがらなかったんだ。
実はアインシュタインはそれより前にも同じ計算をやっていた。
これは1936年のノート。
そしてこちらは1912年のもの。
全く同じ内容だ。
彼はかつて計算をした事さえ忘れていたのかもしれない。
彼が「サイエンス」の編集者に宛てた手紙が面白い。
「論文の発表にご尽力頂きありがとうございます。
大した価値はないものですがあの哀れなマンドルは喜ぶでしょう」と。
(笑い)まあ科学なんてこんなもんだ。
アインシュタインはすばらしい物理学者だったが天文学者としてはそうでもなかった。
彼は重力レンズ効果の重要性に気付かなかったんだ。
でも実はこの効果を使って銀河団の重さを量る事ができるんだ。
それを今から説明しよう。
これは1,000万光年の大きさの銀河団で一つ一つの点は銀河だ。
私たちから50億光年のかなたにある。
以前の講義で伝えたと思うがこれらの星は太陽が出来るよりも前にこの光を放ったからこのほとんどの星は今や存在していない。
だが写真の中で奇妙な事に気付かないだろうか。
この青い光だ。
これらの青い光はこの更に50億光年先にあるたった1つの銀河から放たれた光が重力レンズの効果で拡大されつつ複数に見えているものだ。
これは空間が曲がっている証拠だ。
青くてとても美しい光が見えている。
100億年前に放たれた光という事になるから宇宙の歴史の初期の光だ。
銀河が初めて形成された頃だ。
そのころ星たちは熱く燃えていて青かったから手前の銀河とは色が違って見える。
これは驚くべき写真だ。
はい質問だ。
とてもいい質問だ。
手前にある銀河団をいわば望遠鏡として使う事ができるから見えなかった物体を拡大して見る事ができる。
遠くの銀河は遠すぎて直接見る事はできないがその銀河のスペクトルを観測したり性質を調べたりできる。
実に驚くべき事だと言える。
でも実はもっと有益な情報を得る事ができるんだ。
青い銀河からではなく手前の銀河団からだ。
この写真は空間は曲がるという一般相対性理論の正しさを示す一例だがこの写真からどこにどれだけの質量があるのかを調べられるんだ。
光がどこでどのくらい曲げられているかをたどり逆にどんなレンズがあれば青い銀河がこのように映し出されるのかを分析するんだ。
これは極めて困難な数値計算なんだが可能なんだ。
先ほどの写真が生み出されるためにはどこにどれだけの質量があればいいのかという計算結果を示したものがこれだ。
これは驚くべき図だ。
とがっているところには銀河があるわけだが気付いてほしいのは銀河の間にも多くの質量が存在しているという事だ。
実際目に見える全ての銀河の質量を足した量の40倍もの質量がある事が分かる。
目で見える銀河の物質はとがっている部分で更にその周りに10倍の質量がまとわりついている。
全てを足し合わせると目で見えるものの40倍もの質量がある事が分かるんだ。
「宇宙の質量のほとんどは目に見えない」という事が改めて実証されたんだ。
手を挙げている人がいるようだね。
もちろん引き寄せている。
だが立場が逆だ。
ダークマターが引き寄せているんだ。
君は自己中心的だ。
通常の物質の方が偉いと思っている。
でも銀河はダークマターが存在するところに集まって形成されたんだ。
まずダークマターが自らの重力で集まり始め大きな塊を作り次にその重力に引き付けられ通常の物質が集まっていった。
たくさんのダークマターがあるところに通常の物質が集まっているのは驚く事ではない。
いずれにしても通常の物質とダークマターを合わせた質量の総量を量る事ができたわけだ。
ところで我々はダークマターの正体が未知の素粒子であるとほぼ確信している。
なぜならこの宇宙に大体いくつの陽子と中性子があるのかは簡単な次元解析などで分かるがその陽子や中性子の量の10倍もの物質があるという事はそれは未知の素粒子に違いないというわけだ。
実に興奮させられる。
その謎の物質は銀河団全体を覆い銀河の中にも広がっていてこの部屋にも広がっているんだ。
ダークマターはどこか遠い所にあるんじゃなくて君たちのそばにもあるんだ。
我々は地下に観測施設を造ってダークマターの正体を突き止めようとしている。
さてそもそも私たちは宇宙の未来がどうなるかを探るため宇宙のエネルギーを調べようとしていた事を思い出してほしい。
そのために銀河団の重さを知りたかったんだ。
たとえ巨大な銀河団だとしてもダークマターを含めた重さが分かればその端にある銀河Aが永遠に遠ざかるのかどうかが分かるから宇宙が膨張し続けるかどうかも分かる。
前回の講義でやったように銀河Aのエネルギーというのはこの運動エネルギーと位置エネルギーを合わせたものだ。
銀河団の質量「M」を入れて計算しエネルギーがプラスなら銀河Aが永遠に遠ざかる事が分かる。
我々は重力レンズで既に通常の物質だけでなくダークマターの量も測定した。
その結果は全く予想外だった。
驚くべき結果だ。
これは運動エネルギーが位置エネルギーの3倍も大きいという事を意味する。
運動エネルギーが膨張を引き止める位置エネルギーより圧倒的に大きい。
つまり宇宙の全エネルギーはプラスで永遠に膨張を続けるという事を意味した。
宇宙の未来はどうなるのかという疑問に答えが出たように思える。
だがエネルギーがプラスになるというこの結論は間違いだという事がその後分かる事になるんだ。
そのために一般相対性理論を導き出そう。
私たちが知るべきなのはこのエネルギーEがゼロより大きいのか小さいのかだけだった。
では数学のゲームだ。
1/2というのは気に食わない。
だから両辺を2倍して消そう。
ここにも2がつく。
ここまではついてきてる?さてもしEがプラスの値なら2Eもプラスだな。
次はこの「m」銀河の質量は必ずプラスだ。
だから両辺をmで割ってもこの式の左側の符号は変わらない。
符合さえ気にすればいいんだ。
次は「V」だがハッブルの公式を思い出してほしい。
「V」は「H×R」だ。
「V=H×R」という式を覚えているね?速度は距離に比例するんだ。
だからこれを「H×R」と書き換える。
ついてきてる?さて次は大文字の「M」。
これはこの領域の質量を合わせたもので飛び出しつつある銀河を引き止めようとしている。
この領域の体積の求め方は学校で習ったはずだ。
球の体積は?「π」を使って答えてくれ。
体積の求め方は「R」だと教えただろう。
だからこの領域全ての質量Mは領域の密度「ρ」に体積を掛けたものになる。
体積は「πR」だから質量は…だからこの部分を「πR×ρ」で置き換える。
するとR1つが消し合ってここは「R」になる。
そしてここで両辺をRで割ろう。
Rは正の値だから符号は変わらない。
右辺をきれいに書き直そう。
「ρ」というのは宇宙の物質の密度だ。
さあもう少しで驚くべき式にたどりつく。
この部分は私たちがプラスなのかマイナスなのかを気にしている部分だがこれを1つの文字で置き換えてしまおう。
まとめて「ーκ」と呼ぶ事にする。
エネルギーの値がプラスならκの値はマイナスだ。
逆にエネルギーがマイナスならκはプラスだ。
実はこの式こそが宇宙膨張を表すアインシュタインの方程式なんだ。
一般相対性理論にたどりついた。
君たちにも導き出せた!私もちょっと手助けしたがね。
このアインシュタインの方程式が宇宙の膨張と密度の関係を教えてくれる。
そしてこの「κ」という量は実は「宇宙の曲率」と呼ばれるものだ。
κがマイナスなら「開いた宇宙」と呼ばれるものになってκがプラスなら「閉じた宇宙」κがゼロなら「平坦な宇宙」と呼ばれる。
さてここで重要なのはκの符号とエネルギーの符号には関係があるという事だ。
もしκがマイナスならここはプラスでエネルギーがプラスである事を意味するから宇宙の膨張は続く。
先ほどの重力レンズからの結論はこの事に合致していた。
エネルギーはプラスで宇宙は永遠に膨張するというものだ。
それは私たちが曲率がマイナスの開いた宇宙に住んでいる事を意味する。
一方もしκがプラスならエネルギーはマイナスになりそれは閉じた宇宙。
ゼロなら平坦な宇宙だ。
さて宇宙のエネルギーがゼロより大きいかゼロより小さいかが全ての鍵だった。
だったらエネルギーの符号を調べる代わりに宇宙の曲率の符号を直接測れば結論が出るのではないか?つまり問題は宇宙はこの3つの中のどれなのかという事に置き換えられる。
ちなみにこれは2次元の画像だから単なるガイドにすぎない。
というのも3次元の宇宙を描く事はできないからだ。
宇宙の形は視覚化できない。
でも数学的には2次元でも同じだ。
閉じた宇宙では宇宙は収縮に転じるからものは戻ってくる。
上は開いた宇宙で宇宙は膨張し続ける。
下は平坦な宇宙だ。
我々は宇宙の物質のほとんどはダークマターだからその量を突き止めれば我々が住むのがどの宇宙なのか分かると考えた。
そして観測の結果ダークマターの量は少なく「開いた宇宙らしい」という結論に至った。
一方今考えているのは…実はここ10年ほどで宇宙の曲率を直接測って調べる事ができるようになったんだ。
宇宙の曲率を知るためには天文学の観測技術を駆使して「宇宙マイクロ波背景放射」と呼ばれるものを見ればいい。
それはビッグバンから間もない頃に発せられた電波の一種で君たちの中でもある年齢以上の人なら見た事があるものだ。
後で話すがこれはテレビとも関係がある。
「宇宙背景放射」とは何か。
例えば10億光年離れた銀河を見るのは10億年前の姿を見ている事だと伝えた。
では宇宙が137億歳だとしたら137億光年先を見ればビッグバンを見る事ができるのではないだろうか?原理的には可能だ。
遠くを見る事は宇宙の考古学をやる事だ。
でも実際にはビッグバンは見えない。
宇宙は今ではすっかり冷えてしまっているが宇宙がたった10万歳程度だった頃は宇宙の温度は3,000℃もあった。
ここフェニックスの夏より少し暑いくらいの温度だ。
その温度は原子をバラバラにしてしまうほどの高温だ。
通常陽子と電子は結合して原子を作るが温度が高いと結合しようとしても破壊されてしまう。
それ以前の宇宙の物質はプラズマ状態で光を通さなかった。
だからそれより昔の宇宙を見ようとしても見る事はできないんだ。
私がその壁の向こう側を見られないのと同じだ。
不透明だからだ。
だが壁自身は見る事ができる。
壁と私の間にある空気は透明だから見る事ができる。
宇宙でも壁までの空間は透明だ。
宇宙の壁とは宇宙がプラズマ状態で不透明だった時代との境目だ。
「ビッグバン宇宙論」が予言するのは宇宙をぐるりと囲む「最終散乱面」と呼ばれるプラズマの壁から電波が届くはずだというものだ。
その電波は当初3,000℃の温度だったが宇宙が冷えるにつれて温度が下がり今は絶対温度でおよそ3℃になっている。
宇宙背景放射は自分たちが何をやっているのかさっぱり分かっていなかった2人の男によってたまたま発見された。
彼らはノーベル賞をとったからノーベル賞は自分が何をやっているか分からなくてもとれるという事だ。
ただ重要な何かをすればいい。
彼らはビッグバン直後に発せられた電波を検出した。
さっき君たちの多くもそれを見た事があるはずだと言った。
ケーブルテレビが始まる前の私が子供だった頃私は1日の放送が終わるまでテレビを見ていた。
ちなみにそれから宿題を始めていたんだが。
放送が終わると画面はザーッというノイズに変わった。
そのノイズの1%が実はビッグバン直後の電波だったんだ。
それを検出した事で彼らはノーベル賞をとった。
さてこの宇宙背景放射を利用して「宇宙の曲率」を直接測る事に初めて成功した大規模な計測の様子がこれだ。
地表付近の電波に邪魔されず絶対温度で3℃の電波を捕らえなければならなかったから計測は上空で行われた。
計測機は気球で上空に上げられある方向に絞って電波を捕らえた。
南極だったからこうやれば地球が自転しても同じ方向からの電波を捕らえられる。
でも実際には南極大陸の上空を2週間かけてぐるりと回った。
戻ってくるから「ブーメラン実験」と呼ばれたんだ。
ブーメラン実験では宇宙の小さな領域から来るマイクロ波を捕らえる事に成功しそれを画像化した。
これは計測の結果を風景写真に重ねたものだ。
もちろんこれは実際の色ではない。
宇宙背景放射の熱い部分と冷たい部分を色分けしてある。
その差は1万分の1℃程度。
とても小さな温度差だ。
でもこの温度のムラはちょうど宇宙の初期の物質の密度のムラに対応していてこのムラが後に銀河などを形成する核となる。
実はこのムラの大きさの見え方が宇宙の曲率によって変わるんだ。
計測されたムラの大きさがどの曲率に対応するのかコンピューターシミュレーションの結果と比べてみた。
左下は「閉じた宇宙」の場合のムラをシミュレーションしたものだがムラの大きさが実際の計測と比べて随分と大きい。
右下は「開いた宇宙」の場合でこれが私たちの宇宙じゃないかとされてきたものだがムラが随分と小さい。
真ん中ならぴったりだ。
宇宙のムラの見え方は「平坦な宇宙」に一致していたんだ。
現在我々は宇宙の曲率は1%以下の誤差でゼロだと知っている。
そして曲率がゼロだという事は宇宙の全エネルギーがぴったりゼロだという事を意味する。
運動エネルギーの和が位置エネルギーの和とちょうど釣り合っているわけだ。
エネルギーがぴったりゼロだというのは一体何を意味しているのだろうか?実はこれは宇宙は無から始まったという事を示唆する最初の証拠だと言える。
この事実は宇宙がとてつもなくうまく出来ている事を示しているのかもしれないんだ。
つまり宇宙をつくるのには何のエネルギーも必要なかったという事かもしれない。
1,000億個の銀河全てが何のエネルギーも必要とせずに生まれたとしたら全く驚きだ。
でもちょっと戻って銀河団の重さを量った時の事を思い出してみよう。
残り70%が見つかっていないんだ。
それはひょっとすると銀河のない場所に潜んでいるのではないか?それはどこか?空っぽの空間だ。
1998年2つの天文学者のグループが宇宙に物質がどのくらいあるかを知るために宇宙の膨張速度の微妙な減速度合いを調べていた。
以前話した超新星を利用したんだ。
遠い場所にある超新星を観測してどのくらいの割合で宇宙の膨張が減速しているのかを測定していたんだ。
その後その2つのグループはそれぞれのデータを発表したんだがそれは世界を驚かせるものになる。
予測では時がたつにつれ膨張速度は遅くなるはずだった。
データを詳しく見てみよう。
これは超新星までの距離とその速度を示したものだ。
もし膨張が減速しているならデータは下へと曲がるカーブに沿うはずだった。
それは宇宙に更なる隠れた質量がある事を示し宇宙の曲率がゼロだったという事実と合致する。
それが残りの70%の質量の存在の証拠となる。
だがデータは逆に上の方へと上がっていった。
考えられる可能性は2つしかない。
まずはデータが間違っている事だ。
でもそれ以降たくさんのデータで何度も確認されてきた。
データが上へと上がっていったという事は実は宇宙の膨張は加速しているという事を意味していたんだ。
ところでアインシュタインの一般相対性理論は驚くべき事を教えてくれる。
以前の講義で重力は「引っ張り合う力」だと言ったが実は反発し合う場合もあるんだ。
通常の物質同士は重力で引っ張り合うがもし空間にエネルギーが満ちているとそのエネルギー自身が空間を押し広げまるで斥力のように働くんだ。
だからもし空っぽの空間にエネルギーが満ちているとどうなるか。
斥力が働く。
通常の物質だけがある宇宙でかつてハッブルがやったように宇宙の膨張を測ったとすると物質の重力が膨張を止めようとするからその速度は減速してゆく。
一方空間をエネルギーで満たすと膨張速度は加速するんだ。
それでは先ほどの観測結果を再現するためには空間にエネルギーがどのくらい満ちていればいいか。
その量はちょうど見つかっていなかった分だった。
つまり…さあこれで全てがつながった。
宇宙の究極のミステリーにたどりついた。
4回にわたる講義で話してきた単純な物理学だけでここまで来る事ができた。
その物理学はとても単純だから幼稚園で教えたっていいくらいだ。
たったそれだけで私たちは究極のミステリーにまでたどりつけたんだ。
つまり宇宙のエネルギーの70%がダークエネルギーで30%ほどが未知の素粒子から成るダークマターで残りのほんの僅かな余計なものが君たちや私だ。
だから既に言ったように君たちはとてつもなくどうでもいい存在なんだ。
宇宙にとっては全く重要ではない。
目に見える全てのもの夜空の美しい星や銀河全てを取り去ったとしても宇宙は本質的には何ら変わらない。
さて私たちは何に導かれてここまで来たのか。
かつてガリレオが「些細な事を気にしなければ物体は同じ速度で落下する」と言ってから400年。
私たちが回り回ってたどりついたのは思いも寄らぬ結末だった。
それは宇宙のエネルギーのほとんどがそこに満ちているダークエネルギーでしかもその正体は全くもって分からないという事実だ。
ダークエネルギーは恐らく宇宙が誕生した瞬間の空間と時間の性質と密接に結び付いている。
更に私たちの未来の全てをも決定づけるんだ。
では4回にわたる講義の最後に私たちの未来について話そう。
どれだけ悲惨かという事を。
宇宙の未来は悲惨だと最初に気付いたのはもちろんジョージ・オーウェルだ。
彼は「すぐ鼻の先にあるものを見る事は絶え間ない苦悩を要する」と言った。
それを数学で表すと多分こうだ。
このちょっとした数学から分かる事は…これはハッブルの法則がずっと保たれるという事を意味する。
つまり物体の速度は距離に比例するが比例定数は一定だという事だ。
もしそうだとした場合距離が離れた物体の速度はその分大きくなる。
だから物体がある距離より遠く離れると光のスピードよりも速く遠ざかる事になるんだ。
いやちょっと待て。
「光よりも速く移動するものはない」と私は言わなかったか?いや言っていない。
私は慎重に言葉を選んできた。
私は「光よりも速く『空間』を移動するものはない」と言ったんだ。
実は空間そのものはこの縛りを受けない。
空間は物質を乗せて光よりも速く移動する事ができる。
一般相対性理論の結論はそうなっている。
ちょうどサーフィンをしている人が波に対しては動いていなくても波が陸に対しては動いているようなものだ。
宇宙空間が指数関数的に加速膨張しているなら移動する空間に乗って光の速度よりも速く私たちから遠ざかる物体が存在しうる。
そしてどこまで離れると光速を超えるのかも求める事ができる。
あらゆる物体は180億光年より遠く離れると光より速い速度で私たちから遠ざかる事になるんだ。
質問かな?きっとそうに違いない。
ダークエネルギーは恐らく重力の量子論と関係があると予測されている。
だがまだ我々は重力の量子論についてほとんど何も分かっていない。
空間のエネルギーをどう扱えばいいのかは大きな謎なんだ。
今日この講義を聞いてくれている誰かがその正しい理論を発見してくれるかもしれない。
さて「物体が180億光年より遠ざかると光速を超える」という事実は今日見えているものが将来消え去ってしまうという事を教えてくれる。
もし私たちが50億年前に生まれより賢く進化していたとしたら今日見られる以上のものを観測する事ができたかもしれない。
かつて観測可能だった宇宙は今日理論上観測できる宇宙よりも実は広かったんだ。
時間がたてばたつほど観測可能なものは少なくなっていく。
その理由は私たちの宇宙の年齢がこの180億という数字にどんどん近づいているからなんだ。
今後時間がたてばたつほど見えるものは少なくなってしまう。
だから私は議会に出向きもっと宇宙論に研究資金を出すよう訴えてきた。
しかも状況はそれ以上に悪化する。
遠い未来には一体何が起きるのか?今から2兆年後の未来には宇宙のほとんどは見えなくなり消えてしまうんだ。
確かにその2兆年という時間は2年でも長いと感じる議員たちにとっては遠すぎる未来かもしれないが。
さて2兆年後の科学者たちは一体どんな宇宙の姿を見る事になるのか。
彼らもこの4回の講義に出てきたさまざまな「道具」を手にするだろう。
宇宙を探究する方法を発展させ望遠鏡を作るだろう。
量子力学や一般相対性理論も発見するだろう。
そして彼らの望遠鏡には何が映るか?たった1つの銀河だけだ。
かつてそばにあった複数の銀河は重力の影響でくっつき合い一つにまとまる。
そして2兆年後たった1つの巨大な銀河になってしまう。
そしてそれ以外の離れた銀河は光速より速く遠ざかり見る事はできなくなる。
つまり2兆年後の未来に生きる人たちはハッブル以前の人たちが信じた宇宙像と同じような宇宙に自分たちが住んでいると結論づけるだろう。
銀河は1つしかなく膨張もしていないと。
膨張の証拠となる他の銀河の存在は全てかなたに消えてしまうからだ。
だから私たちは本当に特別な時代に生きていると言える。
特別な時代に生きている事を観測で証明できる唯一の時代に生きているんだ。
だがもしかしたら2兆年後には今私たちが知らない何かが見えるようになるかもしれない。
宇宙に生きるものは皆自分たちの存在している「場所」と「時間」に制限された観測しかできないからだ。
未来は悲惨だがまだ銀河が1つあるからマシだと言えるかもしれない。
というのも…それが宇宙の未来だ。
だから君たちは今日取るに足らないというだけでなく明日は更に悲惨だ。
でもそれが宇宙の美しさでもある。
なぜなら今日の私たちの生活がより価値があるものに見えてくるからだ。
自分の存在が取るに足らないと分かれば人生を自分で切り開こうと思うようになる。
宇宙は君たちの事なんて気にしない。
だからこそ自分の人生を楽しむべきなんだ。
私たちは自分たちが見ている宇宙は過去も未来も変わらないというとんでもないエゴを抱きがちだ。
更に私たちは進化の頂点にいると信じ込んでいるがそれもまた間違いだ。
遠い未来の宇宙は私たちの想像と全く異なるものになっているかもしれない。
だから私たちは特別な時代に生きているという事を最大限に生かして謙虚に宇宙を探究すべきなんだ。
それにしても私が驚いているのは君たちがこの4回の講義が始まるまでは単なる何も知らない無知な人々だったのにさまざまな形で君たち自身を助けてくれる「道具」を身につけ宇宙のミステリーを解明するところまでたどりついた事だ。
道具がなければミステリーはミステリーですらなかった。
その道具とは10の累乗を使った概算やエネルギーの概念などといったとてもシンプルなもので実はこれらは日常生活にも役立つものだ。
科学を学ぶのは宇宙のミステリーを知るためだけでなく自分自身の問題と向き合うためでもあるんだ。
科学の考え方を使って君たちがこの世界をよりよいものにしてくれる事を期待している。
どうもありがとう。
(拍手)どうもありがとう。
日本のテレビ局が取材に来ていたが君たちみんなが4回にわたる難しい講義に忍耐強く向き合いこんなふうに締めくくる事ができるなんて想像していなかったしとても驚いている。
本当にどうもありがとう。
(拍手)2015/06/26(金) 23:00〜23:55
NHKEテレ1大阪
宇宙白熱教室 第4回「そしてダークエネルギーの発見〜私たちのみじめな最後〜」[二][字]

最終回は一気に宇宙論の最先端へとたどり着く!ダークマターに続き、宇宙の加速膨張が発見されたことで、ダークエネルギーが宇宙に満ちていることが明らかになったのだ!

詳細情報
番組内容
最終回は一気に宇宙論の最先端へとたどり着く! 通常の見える物質に加え、その量をはるかにしのぐダークマターが宇宙を満たしていることが天体観測などで次第に分かってきた。だが、20世紀の末、宇宙の膨張が加速しているという驚きの事実が新たに明らかになり、さらにダークエネルギーと呼ばれるものが存在することが確実視されるようになったのだ。そして加速膨張し続ける宇宙には、非常にみじめな未来が待っていた!
出演者
【出演】アリゾナ州立大学教授…ローレンス・クラウス

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
趣味/教育 – その他
ドキュメンタリー/教養 – 宇宙・科学・医学

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
英語
サンプリングレート : 48kHz

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