日本の話芸 落語「八五郎出世」 2015.06.20


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どうもありがとうございました。

(テーマ音楽)
(出囃子)
(拍手)
(拍手)
(春風亭小柳枝)ようこそお越し下さいました。
おしまいにもう一席おつきあい下さいませ。
お古い狂歌にこんなのがございまして…。
「片仮名のトの字に一の引きようで上になったり下になったり」。
片仮名の「ト」という字。
下に棒を引きますと「上」という字になります。
上に棒を加えますとこれが「下」という字に変わります。
これを人の身分になぞらえまして上の人は下の棒に遮られまして下々の事がよく分からない。
下の人は上の棒が邪魔をしまして上の人の暮らしが分からない…なんてえ事を言ったようでございますがね。
昔は身分制度というものが厳然として決まっておりました。
ご存じ士農工商。
一番偉いのがお侍でございます。
道を歩くに致しましても堂々と真ん中を歩いたお侍が。
残りを農工商の人が歩いた。
噺家なんて歩く所がなかった。
どぶの中はって歩いたんじゃないか。
悲しい話が残っておりますけども。
このお侍の最高峰と申しますといわゆるお殿様お大名でございますね。
殿さんというのは何をするのか。
もちろん政治をつかさどる訳ですけどもいわゆる老中なんという側近がしっかりしておりますれば政治の方はなんとか賄えた。
一番頭に置かなければいけない事は血筋を絶やさない事。
という事は自分の子どもに男子をもうけなければいけなかったんですね。
従いまして本妻にどうしても男の子ができない場合はきれいな側室というのをね何人でも置きまして男の子ができるまで頑張ってればいいという。
実に羨ましい存在でございますがね。
この側室の見つけ方もいろいろでございまして徳川歴代のお殿様を考えましてもいわゆる名君といわれた方もいらしたでしょうしそうでないような人もいたんではないかと思いますがちょいと気の利いたお殿様はご自分でお忍びで町なかを歩いて探したりする。
ふと目に留まりましたのが裏長屋へ住んでおります気立て器量のよろしい娘さん。
「あの者を」なんという一声でこの子が奉公にあがる。
お手がついて子どもが生まれる。
この子が男子。
本妻に男の子がいない場合はこの子がお世取りという事になりまして産んだおっ母さんも大変な出世をしたんだそうですな。
「女氏無くして玉の輿に乗る」とはよく言ったもんでございまして。
今までは何々様々と言われていたのが何の方様。
方号がついた。
当時の女性として最高の出世だったんだそうです。
こんな話をしておりましたら私の知り合いの女性が「私にも方号があります」。
「そう」。
よく聞きましたら「何区何丁目何番地何様方」って違うんだこれが。
「大家さん呼んだかい?」。
「おお来たか来たか。
さあさあお上がりお上がり。
突っ立ってないでお座り。
いや驚いたお前。
ええ?何がって奉公にあがった妹のお鶴さん。
ご妊娠だったそうじゃないか」。
「ええ。
あれはね小せえ時から好きだったんだ」。
「何だい?」。
「あのニシンの干したのだろ?」。
「何を言ってる。
ご男子ご出生だよ」。
「え?誰かの戒名かい?」。
「バカだね。
お世取りをお産みになったんだよ」。
「は?鶴が鶏産んだの?」。
「バカ野郎!人が鳥を産む訳はねえだろ。
お子さんをお産みになったんだ。
子どもを」。
「鶴が?へえ〜早えもんだね〜。
ついこないだ奉公にあがったと思ったらねもう。
で出てきたのは雄かい?雌かい?」。
「なんという事を言う。
もったいない。
雄とか雌とか。
男の子だからお世取りだ」。
「ああ女の子ならひよ取りとか?」。
「そんなのはない。
お呼び出しがあった。
行ってなお祝いを申し上げておいで」。
「えっあっしが?殿さんとこ行くの?やだよ。
だから大名は嫌えだってんだよ。
くれちまった妹だよ?それがガキ産む度に兄貴がへえこらへえこら行く事ねえじゃねえか。
やだよそんなのは」。
「そういう事を言うもんじゃない。
ああいった所は行こうと思っても出かけられるとこじゃないぞ。
これでお前もうまくすると二本差しになる」。
「えっ二本差し?侍になれるの?うまくすると?行く!行くよ。
いいね〜。
あれは一度やってみてえと思ってたんだ。
ああなったらいいね。
あの長いのをギラリ引っこ抜いてね日頃恨み重なるやつを斬って斬って斬りまくるね」。
「物騒な事を言うんじゃねえ。
誰だ?その日頃恨み重なるやつってえのは」。
「第1番に大家の吉兵衛」。
「バカ野郎!世話をしたり斬られたりしてたまるか」。
「うまくいくと二本差しになれてまずくいくとどうなるの?」。
「まずくいくというのはないがな。
まあお殿様の事だ。
お目録頂戴ぐらいの事はあるだろう」。
「何?そのモコモコってえのは」。
「モコモコではないお目録。
紙に小判が包んである」。
「小判が?へえ〜。
いくらぐらい入ってんの?」。
「どうしてそうなんだお前は。
まあなお殿様の事だ。
50両はあるだろうな」。
「50両!あらいいね女は。
だってこないだ奉公にあがろうって時支度金って3百両もらったんだよ。
それで子どもが1人生まれて50両。
何だよ。
女に生まれりゃよかったね。
いいね女。
あっどうだろうね?うちのおふくろ。
あれまだ女なんだけどね。
あれ潰しでいくらぐらいになるかね?」。
「バカ野郎!自分の親を潰しにかけるやつがあるか!おいおいおいおい!どこ行くんだ?」。
「行ってそのモコモコってえのをもらってくるから」。
「ちょっと待て待て待て。
戻ってこい。
そこへ座れ。
バカ。
そのなりで出かけられる訳はねえだろう。
お鶴さんが恥をかく。
仮にもお殿様の前へ出るんだ。
紋付き羽織袴で行かなきゃいけねえ…。
といってもなそんなものは持っちゃいねえだろうな」。
「えっ紋付き羽織袴?ハハハッあるよ」。
「ある?おいばあさん聞いたかい?この野郎が紋付き羽織袴持ってるとよ。
こら大変失礼したな。
大体着たのを見た事ねえけどいつもどこにしまってる?」。
「どこったってほらおまはんが座ってる後ろのたんすのね上から2番目に紋付きでその下が袴」。
「うちのたんすだこれは。
ただそのとおり入ってるなばあさん。
よく知ってるな」。
「ヘヘッ留守に来ちゃのぞいて見てるんだ」。
「この野郎。
怒る事はねえ。
出してやれ出してやれ。
羽織は対だ。
袴はいい方出してやんな。
さあそこでもって着替えてごらん。
ほらほらほら何をやってんだよ。
着物を着る前にそのももひきを脱ぎなももひきを」。
「これ?脱がなきゃいけねえかね?」。
「形が悪いからお脱ぎってえんだよ」。
「脱いでもいいけどね…ヘヘッふんどし貸せや」。
「この野郎ふんどしも締めてねえ。
新しいさらし出してやれ。
あ〜違う違う違う。
羽織はな袴を着けてからだ。
袴の着け方も分からねえんだろう。
こっちへ持ってこい。
着けてやるから」。
「冗談言っちゃいけねえや。
こんな窮屈袋の一枚や二枚ねなんて事はねえ。
あれ?何でえ?前に板があるね」。
「前じゃない。
それは後ろに回すんだ」。
「この板後ろへ回すの?屁の蓋?」。
「屁の蓋ってやつがあるか。
腰板といってな腰にあてがうんだ。
それでもって前で結わえとけ。
そうだうん。
結わえたら…。
な…何やってんだよ?」。
「結わえてんだ。
長えんだよね。
ばあさんはさみ取ってくんねえか?」。
「おいおい切っちゃいけねえ。
分けてな脇へ挟んどけ。
よしそれでいいそれでいい。
それから羽織を着てみろ。
うんよしよし。
よし。
まげもちょっと直せ。
ハッハッハばあさん見てやってくれ。
『馬子にも衣装』何とやらだ。
野郎どうやら形になったじゃねえか。
まあな格好はそれでいいけどなおめえはどうもな口がぞんざいでいけねえぞ。
向こうに行ったらな丁寧にやらなきゃいけねえ…。
といって今から何を教えても始まらねえ。
そうだ。
ものの頭に『お』の字をつけてな相手を奉っとけ。
そうすりゃなんとか形になるから」。
「あそう。
そいじゃそのおっ奉るでやってくるから」。
「おっ奉るってのはねえ。
いいか?御門がうるさいから気を付けていくんだぞ。
そのなりをおふくろに見せてやれ」。
「へえどうも!ヘヘヘヘッありがてえね。
何だかんだったって大家だ。
こうして紋付き羽織袴貸してくれたよ。
おふくろも喜んでたしこれで帰りには懐に50両。
まっつぐ帰ってこらんないね。
吉原行って女の子を冷やかしてこなきゃいけねえ。
へえ〜ありがてえありがてえ。
え〜っと大名屋敷だ。
大きいね。
門があるよ。
御門がうるせえったって門が口きく訳はねえんだからあそこの門番がうるせえんだな?ハハッ何の楽しみがあんのかね?日がな一日長え棒持って突っ立ってるんだよ。
かわいそうな商売だぜ。
ああいうのは調子よく通んなきゃいけねえな。
へえ〜っと…あっどうも!こんちは!ヘヘヘヘヘ!」。
「あ〜これこれこれこれ。
おてめえは何けえ?」。
「え?何けえって人間だよ」。
「あ?人間は分かっとる。
いずれから参ったけえ?」。
「あちらから参ったけえ」。
「お出入り町人であるか?お出入り町人であればお上から御門札もらっとる。
これをここへ置いて通行したらどうじゃろけえ?」。
「おめえ日本の人かよ?いいんだよ。
奉公にあがった妹の鶴がねニシンで取れたってえの。
それで殿さんねモコモコやるから来いってそれで来た」。
「何?奉公にあがった妹の鶴…。
おおこれはこれはかねて殿よりお達しあるお部屋様兄八五郎殿はご貴殿でござるか。
ご貴殿であればお通り下され」。
「じゃあ俺はここにいりゃあいいんだね?」。
「いやご貴殿がお通りになる」。
「だから俺がここにいるとご貴殿ってえのが通るから俺がそのあとからつっと…」。
「いやおてめえがご貴殿」。
「俺?うそだよ。
俺八五郎ってんだよ。
あそう。
こういうなりするとご貴殿になっちまうの?ヘヘッ。
じゃあご貴殿様お通りあそばしちゃって構わねえかい?」。
「ああまっつぐ行きなされ。
しばらく行くと右側にお馬場がある。
その先を行くと井戸があって柳の木が立っとる」。
「そっからお化けがひょいと出る」。
「そんなもの出やせん。
そこがお広敷きである。
表ぶたから参ったと伝えなせえ」。
「ありがとよ!話の分かんねえじいさんじゃねえか。
井戸があって柳が立ってたら幽太が出なかったら始まらねえんだよ。
ヘヘヘッと。
えっとおお広いね〜。
初めて入ったよ。
お馬場なんぞあらしねえ。
うん?原っぱがあるだけじゃねえか。
えっと…あっ井戸があったよ。
柳が立ってら。
そうするとここがお風呂敷ってえの?へえ〜。
大名の玄関口大したもんだね。
銭がかかってらぁ。
きうちが違うからな〜。
誰かいねえのかい?こんちは!こんちは!表ぶたからご貴殿が参りやしたよ。
んちは!んちは!んちは!」。
「誰だ!玄関で『うんちはうんちは』。
汚いやつ!職人であれば作事場へ回れ」。
「ああ…門番のじいさんこっちでいいって言ったんだよ。
あの〜奉公にあがった妹の鶴がニシンで取れたってえの。
で殿さんモコモコやるから来いってそれでやって来たんだよ」。
「何?奉公にあがった妹の鶴…。
おっこれはこれはかねて殿よりお達しありお部屋様兄八五郎殿はご貴殿でござるか」。
「うんござる」。
「ははあ暫時お控えの程を」。
入れ違いに出てまいりましたのが当家の重役田中三太夫というこれはご年配のお武家でございまして…。
「あ〜これはこれはお初にごめんきあなつかまつる。
拙者は当家の臣田中三太夫と申す至って武骨なる侍。
以後お見知りおかれましてご別懇に願えてえ…」。
「何パアパア言ってんだ。
何だか分かんねえ。
頭上げて頭。
おまはん殿さんかい?」。
「いや拙者は当家の臣」。
「そうだろうな。
殿さんにしちゃいやにひねこびたじいさんだと思ったよ。
で何っつったい?大将は」。
「た…大将!?殿には早速ごめんきあなつかまつるそうであるが御前態へまかりはじけたる前にはどたまモコモコお持上してはならねえ」。
「モコモコしなきゃいいんだろう?いいんだよ。
モコモコもらいに来たんだから」。
「では身の尻についてきなされ」。
「え?おめえの尻に食らいつく?」。
「バカな事を。
こちらへいらして…。
ここを曲がるぞ。
今度はこちらだ」。
「お〜っと上がっちゃった上がっちゃった。
へえ〜!廊下はピカピカに拭き込んであるしよ庭の手入れは行き届いてるね〜。
大体いくつ部屋があるんだ。
みんな使ってんのかな?もってえねえな。
それで店賃も随分高えんだろうね」。
「バカな事を。
ここを曲がるぞ。
今度はこちらだ。
ここを曲がり…」。
「ちょっと待ってくれじいさん。
そう曲がられた日にゃ帰り道が分かんなくなっちゃうよ。
犬なら角々へションベンするって手があるけどな。
どこだどこだどこだどこだうえ〜!」。
「これこれこれこれ!御前間近で大声を発してはならねえ。
控え!控えい!御前間近でどたまを持上かっと!どたま下げい!御前間近でどたまを持上かっと!どたま下げっちゅうの!どたま下げ…!」。
「何だよあんた!頭だって言いなよ。
『どたまだどたまだ』って言うから…。
下げんの?こんなもんでいいのかい?こんなもんかい?」。
「し〜!し〜!」。
「誰だ!赤ん坊にションベンさせてんのは」。
殿のお出ましである。
警蹕の声に正面の襖が左右に開かれますと赤井御門守様ご家来を従えましてピタリご着席。
「三太夫参ったか」。
「へへえ〜。
お部屋様兄八五郎殿これに控えおりますれば殿にはお言葉下しおかれればこれに過ぎたる幸せはごぜえません」。
「うん。
鶴の兄は何と申す?何?八五郎。
八五郎よう参った。
苦しゅうない面を上げい。
八五郎面を上げい。
三太夫いかが致した?」。
「へへえ〜。
殿の仰せである。
面を上げい!」。
「何?」。
「面を上げい!」。
「表はちゃんと閉めてきた!」。
「そうではない。
どたま持上かせ。
どたま持上かせ!」。
「分かったよ。
人の頭だと思って上げたり下げたり…。
何だよ。
米だったら相場狂っちゃうよ。
あ何だ?ピカピカしちゃってよく見えねえ。
こんなもんでいいのかい?」。
「八五郎よう参った。
この度鶴は男子出生。
余は満足に思う。
その方はどうじゃ?八五郎。
鶴は世取りをもうけ余は満足に思う。
その方はどうじゃ?三太夫いかが致した?」。
「へへえ〜。
殿の仰せである。
即答をぶて」。
「何?」。
「即答をぶて」。
「何だよ?」。
「即答ぶてっちゅうの!」。
「何っちゅうの?」。
「何っちゅう…。
即答をぶたんか!」。
「そんな事して構わねえのかよ?」。
「構わんから早うぶて!」。
「いいの?知らねえよ」。
「控え。
いかが致した?」。
「いや何だか知らないけどね隣のじいさんがそっぽぶてそっぽぶてってえんでねそんな事して構わねえかったら構わんから早うぶてってからポカッとやっちまっ…」。
「余に返答致せを聞き間違えたか。
三太夫誤りじゃ。
許してつかわせえ」。
「へへえ〜。
痛えではねえか…」。
「悪かったよ。
知らなかったんだ。
しょうがねえじゃねえか。
後でモコモコもらったらいくらかやるからよ。
堪忍しなよ。
え?何?殿さんに挨拶するの?ハハッ分かってるよ。
大家から聞いてきてんだい。
おっ奉るでやっちゃ。
あ…どうも。
ええ〜おと…お殿様におっ奉りやす。
おこんちはで奉ります。
お部屋様おニシンでお取れ奉りやして何でもとんでもねえものをお取れ奉りやしてお八五郎様お驚き奉りましてお殿様おちょいと来いのおモコモコで奉りやしてお八五郎様お喜び奉りまして恐惶謹言あらあらかしこで…。
殿さんこの辺で勘弁して奉れ」。
「彼の申す事余には分からん。
余を敬い言葉を改めているせいであろう。
構わん。
無礼講じゃ。
朋友と語るよう申すよう彼に伝えい」。
「へへえ〜。
殿にはありがたきお下しおかれた」。
「下しおかれた?モコモコ」。
「モコモコではねえ。
殿には貴殿のしゃべる事が分からんと仰せられる」。
「う〜んそうだろうな。
俺にもさっぱり分かんねえんだ」。
「自分で分からん事をしゃべるやつがあるか。
構わん。
友と語るように申し上げい」。
「え?友とってえとダチ公と?話すように言っちゃっていいの?年は若えけどできた殿さんだね。
ありがてえ。
こうならこちとらしめこの兎だい。
おっ真っ平ごめんね」。
「これこれなぜあぐらをかく」。
「三太夫捨て置け」。
「捨て置けよ。
ヘヘッ。
殿さんこれだったらねなんとかしゃべれんだ。
今日はね仕事休みでぶらぶらしてた。
そしたらね大家が呼んでるってえからねまた店賃の催促かと思ったらそうじゃねえ。
奉公にあがった妹の鶴がニシンで取れたってんだ。
端は何だか分からなかったんで。
そしたらね子どもができたってえじゃねえか。
早えもんだね〜。
ついこないだ奉公にあがったと思ったらもうね。
で出てきたのはいいあんばいの雄だってね」。
「何だ雄とは!」。
「三太夫捨て置け」。
「捨て置けよ。
でねあっしの妹でねろくな仕込みはしてねえんですけどね子どもができちゃったんですからひとつ捨てねえようにねかわいがってやっておくんない。
これっていうのもなにもこっちから無理に鶴を殿さんに押っつけた訳じゃねえんでね。
元はといえば殿さんが鶴に惚れて…」。
「何だ惚れてとは!」。
「三太夫捨て置け」。
「捨て置けよって。
うるせえな〜。
何?殿さん。
この脇でパアパアパアパア言ってるじいさん。
何だってこんなの飼っとくの?およしよ米の高えのに。
うるさくてしょうがねえ。
だからあっしはこんなとこ来るのやだっつったの堅苦しいから。
そしたら大家が何でもいいから行ってこいってんでねこうして紋付きから羽織袴ふんどしまでね…。
いやあんなのはどうだっていいんだけどね。
貸してくれた。
で行ったらどうなるったらねうまくしたら二本差しになれる。
エッヘッヘ。
うまくいかなくてもモコモコがもらえるってんでモコモコって何だっつったら紙に小判が包んであるって。
50両あるってんだよね。
エッヘッヘ。
どうせくれるならよじらさねえで早いとこおくれよ」。
「なぜ手を出す!」。
「三太夫捨て置け。
ういやつである。
八五郎そちゃ酒は食べるか?」。
「え?何すか?笹食うか?また馬じゃねえからね笹なんか食わねえですよ。
な…何だよ。
ええ?酒?あっ酒の事?あっ酒っすか。
酒だったら俺浴びるほどやっちゃうです」。
「彼に膳部を持て」。
「え?何かゴチになんの?ああらららら…。
こんなに並んじゃって…。
これゴチになんの?そんなつもりじゃなかったんだよ。
…ったく。
手ぶらで来ちゃった」。
(笑い声)「つくだ煮でも買ってくりゃよかったな。
すいませんね。
えらいいい鯛だね〜。
こら三崎の本場物だ。
しきりが違うぜ。
ねえ。
おっ何だ?何だよばあさん?ええ?こんなでけえので酒ついでくれんのか?おお〜頼もうじゃねえかばあさん。
何だよ?ばあさんじゃねえ?何?ご老女様?ご老女様だってばあさんに違えねえや。
分かった分かったよ。
じゃあご老女さんのばあさん頼むわ。
おっほいよ。
おっとっとっと…おっと!ありがとよ!あ〜いいのかな…。
すいませんね殿さん。
酒になると目がどうも…遠慮なくゴチになります」。
「ふう〜!いい酒だね殿さん。
これ毎晩晩酌でやってんの?さすが口がおごってるね。
こら安くねえや。
一合いくらぐれえ…んなのはどうでもいいや」。
「ふう〜!ああ〜いい酒だね〜。
こんなの初めてだよ殿さん。
キュ〜ッと入ってってね脇のあばらがビリビリビリって震えて中へ入ったらねゆんべの安酒どけどけどけ!ハッハッハッハ!何だよまたついでくれるのかいご老女ばあさん。
おっ頼もうじゃねえか。
お〜おっとっと…。
ありがとよ!ヘヘッ!ありがてえね!」。
「ほお〜!いくらでも入っちゃうね。
すいませんね殿さん。
あっしばっかりゴチになっちゃって。
あっ今度近く来たらうちの方にも寄ってくんな。
こんないい酒は出せねえけどね茶漬けの一杯もつけるからよ。
お互いさまだよ。
遠慮する事はねえや。
ねえ約束だよ?ヘヘヘヘッ」。
「鶴…。
鶴!」。
「何だよ!分かってらい!行きゃあしねえ。
身分が違うってんだろ。
分かってらい。
鶴。
あんちゃんだあんちゃん!分かるか?笑ってやがらあ。
さっきからそこにいたのかよ。
ちっとも気が付かなかったぜ。
きれいになりやがったなこの野郎。
お神楽の衣装みてえなピカピカの着ちゃって抱いてんのがニシンで取れたってやつか?こうやって見せてみろ。
こうやって。
あ〜いたいたいた。
小せえな。
よかったな。
よかったな鶴。
あのなおっ母なちっとは年取ったけどまだ達者で針仕事してるから心配するな。
娘に子どもができた。
顔見たい抱いてやりたいは当たり前だけど身分の違いというのは情けないもんだ。
それはできない。
お前行ったら私の分までよ〜く見てきてくれってよあの気の強いおふくろが目に涙浮かべてやがる。
ヘヘヘッ。
でも達者だから心配するな。
それからあの…おしめだけどなおしめ。
いくら銭があるからったって絹もんとか錦なんかいけねえってえぞ。
やっぱり浴衣の洗いざらしがいいんだってよ。
でこう縫ってるから誰かついでの人があったら取りに来てもらいてえって言ってた。
あんちゃんなちょくちょく来らんねえから。
殿さんしくじるんじゃねえぞ。
かわいがってもらえ。
皆さんにもだぞ。
生意気な事を言うんじゃねえぞ。
いいな?うん。
うん…。
殿さんひとつよろしくお願えしやす。
皆さんもひとつよろしくお願えしやす。
アッハッハッハ…。
ありがてえありがてえ。
めでてえね。
ヘヘッ。
殿さんちょいと湿っぽくなりやしたね。
陽気にワッとやりますか?」。
「八五郎珍歌はあるか?」。
「ええそらまあ男ですから1つあります」。
「あったら見せい」。
(笑い声)「やだよ。
冗談じゃねえよ!こんないっぱいいる中出せる訳はねえじゃねえか。
だったら次の間行こうや次の間。
差しでどろっと…。
な…何だよ?えっ歌?あっ歌?歌ですか。
やだよ殿さん。
歌なら歌って言って下さいな。
珍歌だなんて符丁で言われても分からねえ。
そそっかしいから出しちゃうとこだったよ。
歌といやあ何と言っても都々逸ですね。
『四国西国島々までも都々逸ァ恋路の橋渡し』。
『つねりゃ紫喰いつきゃ紅よ色で仕上げたこの体』。
『この膝はあなたに貸す膝。
あなたの膝は私が泣く時借りる膝』。
『雨戸たたいてもし酒屋さん飲んで管巻かぬよな酒下しゃんせ』とくりゃ世話女房の味が出るぜお殿さん」。
「さようか」。
「『さようか』かね。
都々逸聞いたら『あ〜コリャコリャ』か何か言ってくれ。
『さようか』じゃ後が続かねえ。
できてるようでも若えんだね。
『止めちゃ嫌だよ飲ましておくれ素面じゃ言えない事もある』」。
(拍手)「どうだい一杯やっか?殿公!」。
「何が殿公…!」。
鶴よ鶴よとご寵愛。
「どうぞ殿様兄をよろしくお願い致します」。
鶴の一声で八五郎が出世を致します。
おめでたいおうわさでございました。
(拍手)2015/06/20(土) 04:30〜05:00
NHK総合1・神戸
日本の話芸 落語「八五郎出世」[解][字][再]

落語「八五郎出世」▽春風亭小柳枝▽第669回東京落語会

詳細情報
番組内容
落語「八五郎出世」▽春風亭小柳枝▽第669回東京落語会
出演者
【出演】春風亭小柳枝

ジャンル :
劇場/公演 – 落語・演芸

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
サンプリングレート : 48kHz

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