大阪の通り魔:死刑判決「強固な殺意明らか」 大阪地裁

毎日新聞 2015年06月26日 16時27分(最終更新 06月27日 01時40分)

 大阪・ミナミの路上で2012年、男女2人が刺殺された通り魔事件で、殺人などの罪に問われた住所不定、無職、礒飛(いそひ)京三被告(40)の裁判員裁判の判決が26日、大阪地裁であった。石川恭司裁判長は礒飛被告の刑事責任能力は完全だったとした上で「生命をもって罪を償わせるしかない」と述べ、求刑通り死刑を言い渡した。被告側は即日控訴した。

 争点となった刑事責任能力の程度について、石川裁判長は、過去に使用した覚醒剤による後遺症で、礒飛被告が聞こえたとする「幻聴」が与えた影響は大きくなかったと判断。「善悪を判断したり、自己の行動をコントロールする能力は若干低下していた可能性はあるが、著しく失われてはいなかった」と認定した。

 量刑については、人通りの多い繁華街で、2人の通行人を無差別に包丁で刺した点を重視。「人命軽視が甚だしい」と指摘し、2人を何度も刺していることから「強固な殺意があったのは明らか。冷酷、執拗(しつよう)で、際立って残虐」と強く非難した。

 そして、弁護側が量刑判断の際に重要だと主張していた計画性について、石川裁判長は「場当たり的な面があった」としながらも、事件の内容から「量刑上、特に重視すべきものとはいえない」と述べ、死刑が相当と結論付けた。

 判決によると、礒飛被告は12年6月10日午後1時ごろ、大阪市中央区東心斎橋1の路上で、イベント会社プロデューサーの南野信吾さん(当時42歳)=東京都東久留米市=と、飲食店経営の佐々木トシさん(同66歳)=大阪市中央区=の2人を包丁で相次いで刺し、殺害した。【三上健太郎、堀江拓哉】

 ◇遺族「やれることやった」

 死刑が言い渡されると、黒いスーツ姿の礒飛被告は、傍聴席の遺族らに繰り返し頭を下げた。この事件で犠牲になった南野信吾さんの父浩二さん(71)は、両手で顔を覆った。

 「死刑やで。ちゃんとした刑になったよ」。判決後、浩二さんは夕暮れの事件現場を訪れた。路上に判決の内容を書いた手帳を置き、しゃがんで手を合わせながら目を閉じた。

 礒飛被告が起訴され、裁判員裁判になることが決まってから、浩二さんは大阪市生野区の自宅から毎週のように大阪地裁へ通った。別の殺人事件などの公判を100回以上傍聴した。「遺族は事件と、どう向き合えばいいのか」。その疑問への答えを探していた。行き着いたのが「亡くなった被害者の無念さを伝えられるのは、遺族しかいない」という考えだった。

 今月16日の第11回公判。浩二さんが礒飛被告に直接質問する機会が訪れた。聞きたいことは山ほどあったが、一つに絞った。「責任をどうやって取ろうと考えているのか。覚悟を聞きたい」。この問いに、礒飛被告は「死刑しかないと思います」と静かに答えた。

 意見陳述では「裁判員に思いを届けたい」と、心情をつづった文章を読み上げた。直前まで手直しを続け、原稿用紙4枚半にまとめたものだ。「生きていれば(息子は)45歳。あまりにも無情だ」。10分近く立ったまま、裁判員らに訴えた。

 判決後、浩二さんは事件現場に、信吾さんがボーカルをしていたバンドの音楽CDや、ウイスキーも置いた。そして、信吾さんに語りかけるようにつぶやいた。「どんな判決が出ても信吾が帰ってこないのは残念だが、俺のやれることはやった。思いは裁判員に届いた」

 また、佐々木トシさんの長男(45)は、弁護士を通じ「判決は当然であると思いますが、死刑になったとしても殺された母は生き返ってきません」とコメントした。【三上健太郎】

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