額縁をくぐって物語の中へ「如拙(じょせつ)“瓢鮎図(ひょうねんず)”」 2015.06.25


フレーム!今日も僕の灰色の脳細胞を働かせるにふさわしい謎が用意されているのかな?
(フレーム)今日は国宝と将軍にまつわるとっておきのミステリーよ。
えっ?どんな絵なの?こちら。
如拙筆「瓢鮎図」。
国宝よ。
京都妙心寺の退蔵院に伝わっている絵なの。
これ?「瓢鮎」って?「瓢箪」と「なまず」という事。
「あゆ」じゃなくて?この字はもともと中国語では「なまず」と読むの。
この絵は今から600年前足利四代将軍義持の命によって描かれた水墨画なんだけど実は将軍が出した「瓢箪でなまずを押さえる事ができるか」という問いを描いた絵なの。
「瓢箪でなまずを押さえる」?それが今日の問題なの?なんかシュールな謎だね。
そうね。
ほんと禅問答よね。
でその答えが上に書かれた漢詩よ。
京都五山の31人の禅僧がこの難問に挑んだの。
禅か…。
分かったよ。
今日はとんちを利かせて問題を解いてくればいいという事だね。
とんち?うんまぁ大丈夫大丈夫。
京都の禅僧に挑戦かぁ…。
一休さんはね大好きだったんだよな〜。
頑張ってみるよ。
ちょっと違う気がするけどま頑張ってみてよ。
は〜い。
(風の音)幽玄な世界だなぁ。
おお!川流れてる。
ほいほいっと。
あぁ。
遠くには山!そしてすごい霧で途中の景色は見えないな。
ここはどこなんだろう?ん?日本なのかしら?あのすいません。
あぁなんだい?あなたはどなたですか?いやいやまったく誰なんだろうねぇ。
もうちょっとふっくらしたらえびす様だしざんばら髪と獅子鼻の感じは鬼っぽいけど角はないし。
研究家の人たちも困ってるみたいだねぇ。
誰か決まった人を描いた絵ではないんですね。
「瓢箪でなまずを捕らえる」かぁ。
あれ?瓢箪を手に持ってると思ったけど持ってないですね。
手にくっついてるというか…マリックさんじゃないんだし。
うん。
こんなふうに手にくっついてくるんだ。
なぜか分からないけど如拙はわざとこんなふうに描いたんだろうなぁ。
なんか仙人みたいだなぁ。
うん。
それにしても「瓢箪でなまずを押さえろ」って不思議な問いだよね。
禅問答なの?そんな難しい事は俺には分からないなぁ。
(鈴の音)中空で丸いスベスベした瓢箪でネバネバしたなまずを広々とした泥水の中で押さえつける事ができるのだろうか?お前はどう思う?いやそれよりあなたは?臨済宗の僧大岳周崇だ。
ほらあそこにあるこの問題文を書いたのが私だよ。
つまり31人の僧侶のトップという事だ。
はぁ〜この絵には問題文も書いてあったんですね。
僕は禅問答っていまひとつよく分からなくって。
(大岳周崇)お前が分かろうとは100年早いが説明しよう。
禅問答とは禅宗で悟りを開くために僧侶が与えられる問題の事だ。
はぁ…。
なんか全然ふに落ちてないな。
例を出してやろう。
お前の知っている一休だが…。
あぁ一休さんの話なら知ってますよ。
えぇ!「このはしわたるべからず」!?う〜んどうしたらいいんだ?パクパクパクパクチーン!そうだ!真ん中を歩けばいいんだ!こうやって渡って。
うわっしょ。
やった〜!やったね一休さん!
(大岳周崇)それは江戸時代に作られたお話で禅とは関係ないよ。
ガビーン!
(大岳周崇)一休が本当に解いた公案は「洞山三頓の棒」というんだ。
はい。
どんな問題で?
(大岳周崇)中国唐代の高僧洞山守初は若い頃師の雲門文偃から「どこから来たか」「どこで過ごしたか」などと問われた。
(雲門文偃)この夏はどこで時を過ごしたのか?湖南の寺でございます。
いつそこを出た?8月15日であります。
お前を打ちのめしてやりたい!えぇ〜。
それで?洞山は自分の答えの何が悪かったかもう一度聞きに行った。
昨日は私の事を打ちのめしたいと言われましたが私のどこが間違っていたのでしょうか?まだそんな事を言っているのか!帰れ!チーンチーン!
(大岳周崇)洞山はまたもや大きな声で叱られたがその瞬間師が何を言わんとしてるかが分かり悟りを得たというのだ。
はぁなんか分かったような分からないような…。
でもこのお話の方が「瓢鮎図」よりは教えがありそうな気がしますね。
(大岳周崇)一休はちゃんとその意味が分かったんだな。
それで五山の僧侶の皆さんは一体この問題にどんな答えを出されたんですか?まずはあなたの答えを聞かせて頂けますか?
(大岳周崇)いいだろう。
「滑油を著ける」って何ですか?
(大岳周崇)もっと油を塗れって事さ。
ええ!?
(大岳周崇)瓢箪に油を塗ればもっとうまく捕まえられるって事さ。
うん?ツルツルのものを更にツルツルにすればなまずが捕まるって事ですか?不条理型の笑いというか…。
ああこれ笑わせようというんじゃないんですものね。
(大岳周崇)もちろんだ。
ははっ。
他の僧の答えも教えて下さいよ。
(大岳周崇)そうだな。
では養生という僧のはこうだ。
あれっ?すごい。
どうやったの?
(大岳周崇)「将軍様のすばらしい政治のお恵みは水の中のなまずにまで及んでいる。
怪力を使わなくても瓢箪でなまずを押さえられるだろう」。
ええっ?よいしょですか。
(大岳周崇)高僧に向かってなんという口の利き方!31人が答えを寄せるのだぞ。
皆同じような答えでどうする!いやなるほど。
ただ問題を解けばいいって事ではなく他の人の答えも気にしなくてはいけないんですね。
いやまるで大喜利だ。
でも禅問答って人の答えを意識してやるものじゃないでしょう?そのとおり。
禅問答というのは僧が悟りを開くためのもの。
伝えられない事を伝える。
答えられない事を答える。
それが禅問答なんじゃ。
もう一人答えを見てみよう。
「瓢箪で押さえようとするが瓢箪はころころ転がって手につかずなまずの姿は見えない」。
(大岳周崇)「なまずはひらりと竹に登ってきっと雷鳴をとどろかせて竜となって飛び去るだろう」。
ええ〜っ?おや?捕まえられないという答えもありなんですねぇ。
それにしてもなまずはそもそも竹には登らないでしょう?それはね中国に「鮎魚上竹竿」ということわざがあってな。
中国の文化に詳しい禅僧たちの間では常識だったのだ。
なるほど。
でそのことわざはどんな意味なんです?
(大岳周崇)なまずが歯で竹をカミカミしながら登るとその速度はとても遅い事からもどかしく時間のかかる事を意味する。
次はこんな答えはどうだ?ん?えぇ?どういう事?
(大岳周崇)「瓢箪でなまずの尾を押さえつければなまずのスープがとれるだろう。
しかし飯がないのはどうしよう?砂でも取って炊くとしようか」。
えっ?あの…。
どう捕まえたかってところはまたスルーですか。
(大岳周崇)まあまあご相伴にあずかろう。
あ〜おいしいかも。
でもこの話の教えは見えないなぁ。
瓢箪でなまずを押さえるという問いに五山の高僧がどう答えたか聞いてきたんだけど…。
う〜ん禅の深遠な世界というより大喜利で他の人とのかぶりや受けを考えましたという感じの答えの方が多いんだよね。
なるほどね。
一体将軍義持はどうしてこんなちょっと変わった絵を描かせたんだろうか?足利義持は禅にとても造詣が深かったみたいよ。
でもこの絵は禅の考案をそのまま題材にしたと考えると遊びが多すぎるわよね。
じゃ今度は義持がなぜこの絵を描かせたのかそれを探ってきてよ。
うん分かった。
行ってくるよ。
あの〜この絵がなんで描かれたのかあなたは知ってます?
(男性)いや。
俺はここから出た事がないからな。
う〜ん。
ですよね。
(男性)この絵がなぜ描かれたかそれを知りたければあっちへ行くか?え?あっちって?えっえっあ〜!ここは?
(男性)将軍足利義持の屋敷の中の部屋だよ。
あっこの絵はもともとこんな形をしていたんですね。
表には絵が描いてあって裏には問題文と31人の僧の答えが書いてある。
あ〜。
いろんな答えがあるんだなぁ。
実は一つ疑問があるんです。
禅問答の答えというにはこの絵には遊びの要素が強いというか仏教の教えに関係してない部分が多いように思えるんですけど。
(義持)そうだろうね。
これは禅の公案をモチーフにした試みだからね。
私は父上とは違う自分の政や生き方をこの絵で模索したんだ。
あなたは一体?私は将軍義持。
父は金閣寺を建てた足利義満だ。
父は私にとても冷たくてね。
父の死のあと私は絢爛たる趣味ではなく禅をベースに身の回りをしつらえた。
そのための絵がこの「瓢鮎図」なのだよ。
だからこの絵は枯れた山水画の趣なんですね。
(義持)ああ憧れの中国の絵のスタイルを倣ったんだ。
いい趣味だろう?ええ。
(義持)更に「鮎魚上竹竿」という中国のことわざも描き込んだ。
そして瓢箪でなまずを押さえるという問いもユニークだろう?この瓢箪なまずの公案自体も私のオリジナルなのだよ。
なるほど。
さすが将軍様。
ハイブローな遊びをされますね〜。
そんな事よりお前ならこの問題にどう答える?ほれ瓢箪持って。
えっと…。
え?瓢箪でなまずを?いやどどうしよう…。
あれ?うわっ揺れてる…!ちょっと!おっと言い忘れていたけど俺たちが立っているこの小島はなまずとよく似た形をしていると思わないかい?ああぁそういえば。
当時大地は大きななまずに支えられているという考えがあったのだ。
なまずを捕まえようとする者は実はなまずの上に乗っていたという落ちがこの絵にはあるのかもしれないんだ。
ちょっと。
それもっと早く言って下さいよ。
うわああうわあああ…。
いやまあそれにしても不思議な絵だったよ。
池田君の答え期待してたのに。
まあでもねこの絵がなんで描かれたかは分かったよ。
義持は将軍になったあと自分のアイデンティティーを確立するためもあって禅に深く傾倒した。
屋敷の中に禅の部屋を造ったり禅問答をテーマにしたこの絵を描かせたりしたんだって。
そうなの?まあ大喜利みたいなんて言っちゃたけどう〜ん…。
僧たちの答えをよく考えると深遠でもあって面白いんだ。
なるほどね。
まあそれにしてもこういう当意即妙のウイットって役者にも必要だよね。
本当にそうよね。
ところで池田君さっきの問題の答えだけど何て言うつもりだったの?いや全然分かりませんよ。
えフレーム分かったの?んっんんんんんっ。
ヤッホー!2015/06/25(木) 23:30〜23:45
NHKEテレ1大阪
額縁をくぐって物語の中へ「如拙(じょせつ)“瓢鮎図(ひょうねんず)”」[字]

「ナマズをひょうたんでつかまえる」という矛盾をどう解決するか。将軍足利義持が禅僧31人にアイデアを出させた。禅問答のような彼らのユニークな回答ぶりを楽しむ。

詳細情報
番組内容
「ただでさえ捕まえにくいナマズを、こともあろうに瓢箪(ひょうたん)で捕まえようとする」…この矛盾をどう解決するか、時の将軍・足利義持は京都五山の禅僧31人に公案(アイデア)を出させた。瓢箪でナマズをつかまえる図と、31人の答えが描かれているのが、本作品。“とんち”かと思えるさまざまな回答が登場! 途中、ほかの「謎かけ」も交えながら、31人の僧との禅問答を楽しむ。
出演者
【キャスター】池田鉄洋,【声】杉本るみ

ジャンル :
趣味/教育 – 音楽・美術・工芸

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