クローズアップ現代「なぜ暴走は止められなかったのか〜検証・一家5人死傷事故〜」 2015.06.25


激しく炎上する1台の車。
北海道砂川市で一家5人を巻き込んだ事故の直後の映像です。
犠牲になった永桶さん一家。
近所でも評判の仲のいい家族でした。
容疑者らは、赤信号を無視して時速100キロを超えるスピードで暴走。
ふだんから、飲酒や無謀な運転が目撃されていました。
どうしたら危険な運転を防ぐことができるのか。
専従の捜査員が市民からのささいな情報も生かして、摘発につなげています。
悲惨な事故を繰り返さないために何が必要なのか。
現場からの報告です。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
北海道砂川市で起きた事故は一家4人の命を奪い1人残された12歳の少女は今も重体です。
無謀な運転で、幸せな家族の日常がまた突然、奪われました。
この事故について16年前高速道路で飲酒運転のトラックに追突され2人の幼い子どもの命を奪われた井上保孝さん・郁美さんご夫妻から番組に届けられた問いかけです。
飲酒運転、スピード違反ひき逃げ、引きずり悪質で危険な運転の果てになんの罪もない市民がまたしても巻き込まれてしまったことが残念でなりません。
ハンドルを握っていた本人のみならず、周りの人が事故の芽を早くに摘むことはできなかったのでしょうか。
井上さんご夫妻は事故後飲酒運転の厳罰化を求め働きかけ、危険運転致死傷罪が制定されました。
最高刑は懲役15年。
現在は20年になっています。
このあとも悲惨な事故が起きるたびに罰則が強化されてきました。
9年前、福岡市で飲酒運転の車が家族5人の乗った車に追突し幼いきょうだい3人が死亡。
翌年には、飲酒運転をしていたドライバーへの罰則を強化するだけでなくお酒を提供した店や同乗者についても最高で3年以下の懲役を科すようになりました。
そして3年前、京都府で発生した事故では、無免許だった少年が3人を死亡させその翌年に無免許運転に対しても罰則が強化されました。
罰則が強化されてもなくならない危険な運転による大事故。
今回の事故の背景を取材していくと、容疑者らによる運転を目にしていた地元の人々がこのままでは重大な事故が起きかねないと思っていたことが分かりました。
事故の芽をなぜ摘むことができなかったのでしょうか。
事故の5日後。
犠牲となった一家4人の葬儀が営まれました。
新聞配達員の永桶弘一さんと妻の文恵さん。
3人の子どもに恵まれその成長を見守ることを何よりの楽しみにしていました。
長女の恵さんは、高校3年生。
弟や妹の面倒をよく見て将来は保育士になることを夢みていました。
長男の昇太さんは高校1年生。
体の弱い祖母をいたわる優しい性格でした。
1人残された末っ子の光さん。
今も重体のままです。
事故が起きたのは今月6日夜10時半過ぎ。
妻、文恵さんの実家を訪れた帰り道のことでした。
青信号で交差点に入った永桶さん一家の軽ワゴン車。
そこへ、赤信号を無視した乗用車が時速100キロを超えるスピードで進入、衝突しました。
乗用車は炎上。
衝突で永桶さんの車は50メートル以上飛ばされ長男の昇太さんは車の外に投げ出されました。
後続の車が、昇太さんをおよそ1.5キロにわたって引きずり、走り去りました。
一家の未来を一瞬にして奪った2台の車。
永桶さんの車に衝突し危険運転致死傷の疑いで逮捕された谷越隆司容疑者は信号は青だったと供述。
後続車を運転しひき逃げの疑いで逮捕された古味竜一容疑者は人をひいた認識はないとしていずれも容疑を否認しています。
事故の直前、この2台の危険な運転を目撃した人がいました。
逮捕された2人の危険な運転はこの日だけではありませんでした。
古味容疑者の車は外観に特徴があり複数の人が暴走する様子を覚えていました。
この男性もその1人。
事故の1か月ほど前信号を無視して走り去るところを見ていました。
しかし、警察は2人の無謀運転を把握していませんでした。
現場周辺は見通しのよい直線道路。
本来なら交通事故の起こりにくい場所です。
速度違反を取り締まるための監視カメラは設置されていませんでした。
無謀運転を知らせる市民からの通報も1件もありませんでした。
さらに、今回の事故では容疑者らが、酒を飲んで運転をしていた疑いが出ています。
砂川市内の繁華街です。
2人が車で乗りつけ繰り出していく姿が頻繁に見られていました。
事故当日も、この場所に車を止め、店で酒を飲んでいたと見られています。
なぜ、飲酒運転を止められなかったのか。
地元の飲食店組合の会長前田秀紀さんです。
9年前、福岡で飲酒運転の車が幼い子ども3人の命を奪った事故をきっかけに飲酒運転を防止する活動を始めました。
客の目に付くよう箸袋に標語を大きく印刷。
加盟するおよそ50店に配布しました。
しかし、客からは予想外の反発がありました。
結局、活動を続ける店はほとんどなくなりました。
永桶さん一家が暮らしていた市営住宅です。
事故の数日前、近所の人が駐車場で仲よくバーベキューをする5人の姿を目にしていました。
父親の弘一さんの仕事柄遠出が難しくここで家族一緒に過ごす時間を何よりも大切にしていました。
その掛けがえのない時間はもう戻りません。
今夜は、危険運転や飲酒運転の再発防止策にお詳しい、愛媛大学准教授の小佐井良太さんをお迎えしています。
周辺の人々は、2人の、容疑者2人の無謀な運転には、気がついていましたけれども、この大きな事故を防げなかった。
背景、どのように捉えてらっしゃいますか?
先ほどのVTRを拝見していて、この事件をどうして防ぐことができなかったのか、本当にさまざまな課題が凝縮している事件だというふうに思います。
VTRの中にもありましたように、地元の警察署が、何度も目撃されていた暴走行為を把握していなかった。
あるいは監視カメラも設置されていなかった。
あるいは市民の方のお話にもありましたように、通報も寄せられていない。
その理由としては、現行犯とならなければ、意味がないんじゃないか。
あるいは、特定できなければ意味がないんじゃないのか、そういう形で、諦めというかですね、どうにもならないという思いが共有されていた。
そういう意味では、飲酒運転、あるいは危険運転について、この状況や環境ということが生み出した事件だというふうな印象を強く持ちました。
厳罰化を進めてきましたけれども、大きな事故が起きるたびに。
それでも、大きな事故がなくならない。
こうした、今おっしゃったような、周囲の環境、そうした状況が、この大事故を、なかなか防げない理由ですか?
そうですね。
これまでに、いくつもの事件を、裁判の傍聴等を続けておりますけれど、その中で感じるのは、まさにそうした、今おっしゃったような問題なんです。
大きな事件が起きると、その加害者、個人本人に対しては、刑事責任が科される、しかしその周囲にいる人たち、例えば、飲食店の人たち、あるいはその一緒に飲んでいた人たち、あるいは地域の人たちは、皆、その行為をうすうす感じている、あるいはもっと明確に理解している。
だけれども、そこからなんらかの取り組みをするということができていなかった。
そういう意味では、個人に対する経営責任に焦点を合わせることによって、むしろその周囲にいる人たちの行動が不問にする構造があったというふうに感じています。
今のリポートでも、飲酒運転を防止する活動が、いったんは取られたけれども、それがだんだん下火になっていってしまった、あるいは恐らくお店でも、この人はこのお酒を飲んだあとに、車に乗って帰るのではないかということが、うすうす気が付いても、その一歩を踏み出せない。
これはどういう状況から、そういうものが積み重なっていくというふうに思われますか?
市民の方にとって、例えば、通報が難しいことであると同様に、お店の人にとっても、お客さんに対して、飲酒運転をしないでほしいと、働きかけることに、やっぱり、相当な勇気がある。
それはお客さんを失うかもしれないというおそれが当然あるわけですね。
先ほどのVTRにありましたように、せっかくいい取り組みをされてるのに、それが続いていかない。
これはやはり、お客さんの側に、そうした優れた取り組みを理解し、支えていく、それを当然のこととして受け止めていく環境を作っていくことが大事だというふうに思います。
しかし一方で、意識の問題はあるにせよ、今回、事故が起きた現場というのは、直線、非常に長い直線で、スピードが出やすい道だった。
もう少し、インフラ、ハード面で、事故を防止する対策を取ることができたのではないかと思うんですけども。
私も同じような印象を持ちました。
もっとさまざまに道路環境であるとか、インフラを整備することで、対処できたのではないかということですね。
具体的に申しますと、私は昨年、オーストラリアのシドニーにおりましたけれども、現地では、横断歩道の所に必ず段差を設けて、車がスピードを出せないようにしています。
あるいは、都市と都市とを結ぶ郊外道路の制限速度は、比較的高めに設定してありますけれども、市街地や、スクールゾーンの近くに来ると、そこに速度規制のカメラが設置されていて、カーナビがそれを知らせてくれる。
運転者は、きちんとここでスピードを落とさないといけないということを理解して、速度をコントロールするわけですね。
そうした仕組みを取る余地があったのではないかというふうに感じました。
大事故をどうやって防ぐのか、悲惨な事故が起きた地元で行われている、独自の取り組みをご覧ください。
9年前、飲酒運転で幼いきょうだい3人が犠牲になった福岡県。
悲劇を繰り返さないためにさまざまな取り組みが続いています。
郊外を中心に展開している居酒屋チェーン。
6年前から酒を注文した客全員に飲酒運転をしないという誓約書を書いてもらっています。
酒を飲んだあとどうやって帰宅するのか。
毎回、必ず店員が確認します。
署名に応じない場合は一切、酒を提供しません。
当初は、署名に応じずに帰る客も多くいましたが、今では抵抗を示す人はほとんどいません。
行政も独自の対策を進めています。
3年前、福岡県は飲酒運転撲滅条例を制定。
全国で唯一ドライバーに酒を提供した店に独自に罰則を設けました。
客が飲酒運転をした場合従来の法律では店側が飲酒運転につながると明確に認識していなければ罰することができません。
一方、条例では直ちに警察による指導、助言の対象となります。
悪質な場合は、店名の公表や5万円以下の違反金が科されます。
施行から3年。
警察の指導、助言を受けた店は240軒を超えますが多くが改善を図り違反金を払った店は1軒もありませんでした。
京都では市民と警察が連携し無謀運転を根絶しようと取り組んでいます。
3年前、京都府警に設けられた特命取締係です。
6人の専従捜査員が市民から寄せられた通報をもとに違反者の検挙を行っています。
特命取締係が発足したきっかけは京都で相次いで起きた悲惨な事故。
市民に積極的な情報提供を呼びかけることで危険の芽をいち早く摘み取ろうと考えたのです。
以来、寄せられた通報はおよそ300件。
この日も飲酒運転をしているという情報が届きました。
車種や目撃場所ナンバーの一部など複数の市民から寄せられる一つ一つの情報を組み合わせることで、悪質なドライバーを特定していきます。
料金所を通過したところです。
これはある日の特命取締係による摘発の映像です。
飲食店から男が出てきて車に乗り込みました。
捜査員が飛び出します。
運転していたのは70代の男。
基準を上回るアルコールが検出され、その場で逮捕。
男は飲酒運転を繰り返しさらに、50年の間無免許運転だったことも明らかになりました。
これまで、通報をもとに検挙した悪質な運転はおよそ100件。
こうした取り組みもあり以前は年間100人近くに上った交通事故の死者は3割以上減りました。
市民から寄せられる断片的な情報を組み合わせて、そして、野放しになっていた悪質なドライバーの検挙につながった。
京都の取り組み、どうご覧になられましたか?
最後にVTRの中で、担当者の方がおっしゃっておられた、危険運転者をゼロにするという、このことばに、非常に新鮮な感銘を受けました。
これまで、ともするとやはり、警察の担当者の方であっても、日々、努力されている中で、しかしどうしてもこの状況は、自分1人の努力では変えられないのではないか。
そういう思いを、あるいは持たれていたのかもしれません。
それが、ゼロにするんだということがいえるところまで、認識が変わってきた。
そのことの意味は非常に大きいと思います。
やはりその市民にとって、通報というのは、非常にハードルが高いということですよね。
難しい、やっぱり、相手に報復をされるのではないか、あるいは密告をしているような、後ろめたさを感じてしまう。
そうした思いを、なんとか勇気を振り絞って、通報している人たちの、それが断片的な情報であっても、こうやってつなげていくことに、やっぱり貴重な意味があるんだというふうに思います。
なかなか、専従チームを作れないというところもあるかもしれませんけれども、実績がかなり上がってるんですよね?
亀岡市では、こうした取り組みが功を奏して、600日以上死亡事件が起きていないというふうに伺っています。
実際に効果を上げているということですね。
そして、福岡の独自の取り組みですけど、県が作った条例、これには先生も関わっていらっしゃるということなんですけれども、飲酒運転で捕まった人に、あなたはどの店で飲んでましたか?と、その飲んでた店に指導や助言が直接行くと。
条例で目指した、なんて言うんでしょう、大事なポイントっていうのは、なんなんですか?
ひと言でいうと、処罰ではなくて、支援という考え方ですね。
支援ですか?
どうしても福岡の条例というのは、全国初の罰則付きの条例ということが注目されますけれども、その基本的なコンセプトは、処罰だけではこうした飲酒運転、危険運転をなくしていくことができないという考え方だと思います。
先ほどのVTRで紹介されていたような、飲食店の取り組み、こうした優れた取り組みを評価して、例えば表彰する。
そうしたことが、積極的な取り組みを持続させていく力になる、まさに勇気づけを与えていくっていうことですね。
それがまさに支援だということになるということだと思います。
支援ですけども、評価して、そして、支援をしていく、そうした中で、その周りの人々の理解も広がっていくとお考えですか?どうしても、あんな店には行きたくないとか、あそこまで証明をしなければいけないと、嫌というふうに思われる方々もいらっしゃると思うんですよね。
まさに、飲酒運転、危険運転をしない、させない環境を作っていくために、まさにこうした取り組みが、周囲の人たちの、お客さんたちの認識を変えていく、そのことがむしろ、当たり前になっていく、そうしたことを支援していくために、この条例というのは作られている、まさにそうした取り組みだというふうに見ています。
井上さんから頂いた問いかけに、砂川市で起きた事故。
周囲の人々は、その芽を摘むことはできなかったんだろうかとありました。
何が一番大切ですか?
一人一人が今、半歩を踏み出すこと。
それぞれの立場で、何ができるかを改めて考えること。
これまでの車優先の社会ではなくて、むしろ人が中心となる社会、そのために、車をどう使っていくのか、そのことが今、改めて問われていると思います。
どうもありがとうございまし2015/06/25(木) 19:30〜19:56
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「なぜ暴走は止められなかったのか〜検証・一家5人死傷事故〜」[字]

今月6日北海道砂川市で一家5人が死傷した交通事故。容疑者は以前から危険運転や飲酒運転を目撃されていた。どうしたら防げるのか。各地の先進的な取り組みも交え考える。

詳細情報
番組内容
【ゲスト】愛媛大学准教授…小佐井良太,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】愛媛大学准教授…小佐井良太,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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