クローズアップ現代「“地中海難民”〜EU揺るがす人道危機〜」 2015.06.25


イタリア南部シチリア島。
海岸に打ち上げられた船の残骸です。
今、地中海で命を落とす人が急増しています。
粗末な船にひしめき合うように乗る人たち。
中東やアフリカからヨーロッパに渡る難民です。
その数はこの5年間でおよそ50万人。
転覆事故も相次ぎ、懸命な救助活動が続けられています。

増え続ける難民に高まる不安の声。

難民の受け入れはヨーロッパを揺るがす問題に発展しています。

地中海で今何が起きているのか。
現地からの最新報告です。

こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
リビアあるいはエジプトといった北アフリカの国々沿岸からイタリアまではおよそ400キロメートル。
粗末な使い捨ての船に定員を大幅に上回る大勢の人々を乗せてイタリアまで数日から長い場合1週間ほどの密航はとても危険です。
内戦による混乱や政情不安を逃れようとする難民。
より豊かな生活を求める移民。
地中海を渡りEU・ヨーロッパ連合に流入する人々の数は前例のない水準で急増しています。
内戦状態が続くシリアから逃れる人々。
政情不安や貧困にあえぐナイジェリアやマリなどアフリカ各国の人々。
密航船で地中海を渡ってくる難民や移民を受け入れているのがイタリアやギリシャなど地中海に面した南ヨーロッパの国々です。
ご覧のように2011年のアラブの春以降南ヨーロッパの国々に到着した人々の数が急増していまして、この5年で50万人近くに上っています。
難民として認められれば新天地で定住することができますが難民の申請をする人が急増。
申請があまりに多く難民として認められるかどうか判断が下るまで長い時間がかかり各国の受け入れ態勢は限界に達しています。
難民を最初に受け入れた国がその責任を負うというのがEUのルールですがイタリアでは、これ以上の難民の受け入れに反対というデモが相次いでいます。
密航する人々の急増にEUはどう対応するのか。
負担の公平化をどう進めるのか。
激しい議論が戦わされる中で密航中、亡くなったり行方不明になった人の数は去年3500人。
ことしもこれまでに1850人と去年を上回る勢いで増えています。

海水浴客でにぎわうイタリア南部のシチリア島。
南部の港町を訪ねると、この日も100人以上が到着していました。
国籍はソマリアやナイジェリアなどアフリカの国々。
着のみ着のままで船に乗り込んだのかはだしの若者もいます。
生後まもない赤ん坊まで。
到着した人たちは健康診断や指紋の採取などを行い難民申請の手続きを進めます。

イタリアの沿岸警備隊が撮影した映像です。
粗末な船に、定員をはるかに超えた人たちが乗って救助を待っています。

イタリアの海軍や沿岸警備隊は、おととしからリビア沖まで活動範囲を広げ難民を救助しています。
一度に数百人の死者を出す転覆事故が相次いでいるからです。
ことし4月にも、リビアを出航した船がイタリア沖で転覆。
800人が犠牲となりました。
沿岸警備隊には、救助を求める衛星電話が頻繁にかかってきます。

転覆した船で何が起きていたのか。
シチリア島に設けられた受け入れ施設です。
ここに、800人が犠牲となった事故の生存者がいました。
西アフリカ・マリ出身のカヌテさんとブオレさん。
船が転覆したのは真夜中のことでした。

2人は海に投げ出され1時間以上漂ったあと通りかかった船に救助されました。
しかし、一緒に乗っていたブオレさんの兄や友人は帰らぬ人となりました。

生死をかけた地中海の密航。
ことしだけで1800人以上が犠牲となっています。

ヨーロッパに次々と押し寄せる密航船。
その背後で暗躍しているのが北アフリカの密航業者です。
拠点の一つとなっているエジプトの漁村を訪ねました。
密航業者の1人が顔を出さないことを条件に取材に応じました。
4年前のアラブの春以降国境管理がずさんになったことで難民が押し寄せ密航が活発化したといいます。

次第に、密航の料金を引き下げる業者も現れ無謀な航海が増えたといいます。

さらに、密航業者にとってイタリアの救助活動は好都合だといいます。

難民を食い物にする密航業者。
しかし業者にすがりつかなければならないほど難民は追い詰められています。
アブドルラフマン・ハッジカッセムさん。
内戦が続くシリアから2年前にエジプトに逃れてきました。
しかしその直後、事実上のクーデターで軍主導の政権が誕生。
前の政権が積極的に受け入れたシリア難民が敵視されるようになり身の危険を強く感じるようになったといいます。

アブドルラフマンさんは複数の業者と連絡を取りながら密航の機会をうかがっています。

今夜のゲストは、EUの難民政策にお詳しい、広島大学教授、中坂恵美子さんです。
政情不安、そして内戦などの混乱によって祖国を出て行かざるをえない人々が増えたこと、そして、その密航業者が暗躍しやすい環境が生まれたことで、非常に流入してくる人たちが増えているということですが、取材したディレクターもシチリアにきょうは100人、またきょうは300人という感じで、どんどん来ている状況だったというんですけれども、今の状況、どのように捉えてらっしゃいますか?
そうですね。
何百人もの人が、小さな船に押し込まれて、そして、やって来る。
それがしかも日常化しているということで、非常に深刻な事態だと思います。
難民を受け入れる、大量の難民がやって来るという経験は過去にもありました。
旧ユーゴの内戦のときもそうでしたが、数もそのときは多かったです。
ただ、今回は、自分たちのヨーロッパではない、中東やそして北アフリカ、文化も違う人たち。
そういう人たちがあのように押し寄せてくるということで、一般の人々に対してのインパクトも非常に大きなものがあると思います。
そのユーゴスラビアが崩壊したときの、ヨーロッパの人々、EUの人々の気持ちっていうのは、どういうものだったんですか?
そうですね。
まだユーゴスラビアはヨーロッパの人であるという意識は、あったと思います。
しかし、中東・北アフリカの人たちに対しては、常に移民という形で受け入れてはいるんですが、彼らがやはり、ちょっと自分たちは違うというような、そのような印象を持っていると思いますので、そこらへんが少し違うのではないかと思います。
しかし、イタリアは発見がされれば、イタリアまで連れてきてくれる、好都合だという業者の声もあったように、本当に積極的に、救助活動を行っている。
やはり人道的な側面を非常に重視している、そういう姿勢を取っているわけですよね。
そうですね、イタリアにかぎらず、人権の尊重というのが、EUにとっての理念になっています。
根本的な理念ですので、どうしてもそれを無視することはできません、それを裏切ることは、EUの自己否定にもつながりかねません。
なので、救助活動というのは、せざるをえないわけです。
もしも迫害のおそれのあるような国に戻してしまったら、それは人権条約違反ということで、欧州人権裁判所から、それは違法ですという判断も出ます。
そのような背景もありますので、見過ごすというか、見捨てるというか、そういうまねはできない、そういう状況があります。
去年1年間でイタリアに流入した人々が17万人。
イタリアが最初に受け入れると、そのイタリアが責任を負うことになるというのが、EUのルールですけど、どれだけの負担を負うことになるんですか?
そうですね、イタリアが責任を負うというのは、EUは今、28か国ありますが、その中の1か国だけが、難民申請に対しての審査をするということになっているんですね。
その中で、ビザなんかを持たない人が来た場合は、その人を入れた国が審査をしなくちゃいけない、なのでイタリアが、イタリアからやって来た、イタリアに上陸した難民希望者は審査をすることになります。
それが17万人ということで、その審査だけでも大変なんですが、実はその審査だけではなくて、そのあとも、そこで審査されて認定されれば、イタリアの難民なんですね。
あくまでもイタリアの難民、EU全体の難民というわけではないんです。
なので、難民に対しては、最低3年間の居住許可証を出したり、それから社会保障もすべて自国民並みに保障したり、働く権利も、そして統合のための、いろいろな措置もしなければなりません。
そのようなそれ以降の負担もすべて、イタリアが負うということになるんです。
それは大きな負担になります。
さあ、難民の急増という状況に対してどう対応すべきか。
EU加盟国間で意見が対立し、深刻な亀裂も生まれています。

イタリア北部で先月行われたデモ。
去年イタリアに17万人もの人々が地中海を越えてやって来たことに市民の不満が強まっています。
イタリア北部にある人口4000の町バッタリア・テルメ。
この町のホテルが受け入れ施設となり、今では市内3か所で100人ほどの難民が暮らしています。
しかし、政府から市民に事前の説明がなかったため波紋を呼んでいます。
難民の流入に不安を感じる住民の一人、ニコラ・ボエットさんです。

ボエットさんは市民団体を立ち上げ、これ以上の流入に歯止めをかけるよう訴えています。

イタリアは、受け入れを分担するようEUに要請。
EUは、事態打開に向けた提案を打ち出しました。
対象はイタリアとギリシャにたどりつく難民の一部、4万人。
その受け入れを、EU加盟各国のGDPなどに応じて義務づける割り当て制です。

イタリア、ギリシャなど地中海沿岸の国とドイツやスウェーデンがこの割り当て制に肯定的です。
しかし、イギリスやフランスポーランドなどは否定的です。
フランスやイギリスでは移民系の若者によるテロが相次いでいます。
移民受け入れに批判的な政党も台頭し、割り当て制には否定的な立場です。
東ヨーロッパの国々からも強い反発が広がっています。
地中海から遠く離れこれまでほとんど中東やアフリカから、難民を受け入れてこなかったためです。

EU加盟国の対立を一層深める事態がイタリアとフランスの国境で起きています。
アフリカからイタリアにたどりついた人々が国境を越えてフランスに向かおうとしたところEUの規則を盾にフランスが入国を拒否したのです。

難民の多くは、フランスを経由してヨーロッパ各国へ向かおうとしていました。

およそ200人の難民は国境を越えるまで海岸で寝泊まりし続けるつもりです。
国境での混乱はイタリアとフランスの間に激しい論争を引き起こしています。

加盟国の足並みが乱れる中EUは先週、内相会議を開きこの問題を協議しました。
しかし、イタリアが望んでいた割り当て制に関する議論はまとまらず、判断はあしたから始まる首脳会議に持ち越されることになりました。

では、あすから開かれるEU首脳会談ですけれども、最新の情報では、イタリアが求めている割り当て案については、7月末までに合意を目指す方向で話し合われる見込みだということですけども、合意は可能性、どう見てらっしゃいますか?
そうですね。
非常に難しいとは思いますが、この議論は2011年から繰り返されておりますので、ここで決着をつけるべきだとは思います。
なんらかの政治的な判断を下すべき時が来ていると思います。
そうですね。
イタリアが本当に強く主張しているわけですけれども、今、EUの加盟国が一番おそれていることはなんですか?
そうですね、イタリアがもう、さじを投げてしまう、もうイタリアが難民を登録もさせないで、どこから誰が入ってきたのかも分からない、そのような形で、難民なんだか、移民なんだか分からないような形で、各国に人が移動してしまう、そのようなことをおそれていると思います。
そして、難民問題に関しては、EUは連帯ということばを非常にキーワードとして使っています。
条約自体にも使っております。
ですので、そのような最悪の事態を避けるために、EUとして、どのように連帯ができるのか、そのことばだけではなくて、実際にそれができるのかが問われています。
それにしましても、ヨーロッパを目指す、その人々の流れをどうやって止めるのか、流入を減らせるのかっていうのが、やっぱり大事になってくるかと思うんですけど、根本的な解決に向けて、何が問われているんでしょうか。
やはり独裁政権、その下で人々が暮らしが悪い状況にあります。
その独裁政権を倒すということを、西側の国はよくやってきました。
しかし、そこで終わるのではなくて、そのあとの国造りですね、平和構築。
例えばPKOが去ったあとも地道に続けていくような、平和構築というものをして、政治的、社会的に安定した国造り、その支援をすることが必要です。
そして教育も大事だというふうに見てらっしゃいますよね?
そうですね。
やはりジェノサイドが起こるような所では、人権教育というのが、非常に重要になります。
そういうようなことは地道なことですが、支援に値することだと思います。
その難しいのは、政治的迫害で来ているのか、あるいは、よりよい生活を求めて来ているのか、流入してくる人々はいろいろな目的があるかと思うんですけれども。
そうですね、確かに移民の人もいます。
そういう人たちが紛れないためにも、正規の移民ルートというものを、また別に構築するという必要もあると思います。
この問題で日本が問われていることっていうのは、なんでしょうか?
そうですね。
日本に来る難民というのもいますので、そういう人たちにどういう対処ができるのか、そしてまた日本も国造りのために、地道な支援をできるのか、私たちのことと、問題として考えるべきだと思います。
2015/06/25(木) 01:00〜01:26
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「“地中海難民”〜EU揺るがす人道危機〜」[字][再]

欧州を目指す密航船が次々と転覆し多数の犠牲者を出している地中海。押し寄せる難民への対応にEUは今揺れている。この人道危機にどう立ち向かおうとしているのかを追う。

詳細情報
番組内容
【ゲスト】広島大学社会科学研究科教授…中坂恵美子,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】広島大学社会科学研究科教授…中坂恵美子,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ニュース/報道 – 海外・国際

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