NEXT 未来のために「決裂の裏側で 核兵器禁止条約と一人の外交官」 2015.06.25


4月下旬ニューヨーク。
(一同)ノーモアヒロシマ!核兵器の廃絶を訴える人たちがいました。
平均年齢が80歳に迫る広島長崎の被爆者たちです。
核兵器の廃絶などについて話し合う国際会議の開催に合わせて渡米しました。
ところが願いを託した会議は決裂して終わります。
会議の成果とされる最終文書が参加国の対立によって合意できなかったのです。
しかしこの決裂の裏側で私たちは一人の外交官が起こした訴えが新たな潮流となっていくのを目撃しました。
国際法によって核兵器を持つ事自体を禁止するという前例のない試みです。
アメリカなど核兵器を段階的に減らすと主張する保有国に真っ向から異議を唱えたのです。
これが私たちに残された最後のチャンスだと思います。
今世界が協力して核兵器を禁止できなければ核は広がり世界は更に危険にさらされるでしょう。
核兵器の廃絶の在り方に一石を投じた一人の外交官。
国際会議の4週間を追いました。
去年8月6日。
広島原爆の日。
雨の中祈りの場に参列した一人の外交官がいました。
ここ数年世界各国を訪れ核軍縮に関する議論をリードしてきました。
クメント氏は東西ヨーロッパの中間に位置するオーストリアで15年間軍縮問題を担当。
対人地雷の廃棄などを世界に働きかけてきました。
2年前核兵器の問題を検証する国際会議を同じ志を持つ国々と立ち上げます。
この時から核兵器を国際法で禁止する提案を訴え始めました。
核兵器が実際に使われた時何が起きたのか。
それを知るためにクメント氏は初めて広島を訪れました。
熱線や爆風を受け亡くなった少年が着ていた学生服。
焼けた皮膚がただれ落ち助けを求めてさまよう市民。
想像以上の現実でした。
被爆者が今も心に抱える苦しみにも触れます。
私は冷戦の間何十年も東西の勢力に挟まれた小国で育ちました。
核戦争の恐怖を肌で感じてきた世代です。
広島を訪問して私は本当の意味で確信する事ができました。
核廃絶はやるべきだ正しいのだという事を。
今年1月。
クメント氏はある行動を起こします。
全ての国連加盟国に核兵器を禁止する事の是非を問う外交文書を送ったのです。
ねらいはNPT再検討会議の中で議論を巻き起こす事でした。
4月27日。
国連本部でNPT再検討会議が始まりました。
加盟国は190。
5年に1度開かれ核の在り方を検証します。
会議は3つのテーマで話し合われます。
そして全会一致で合意する最終文書を作成します。
クメント氏が参加するのは核兵器の削減方法について話し合う「核軍縮」の場です。
東西冷戦期米ソ対立を背景に始まった核開発競争。
その後保有国も増えていきます。
これ以上核兵器が増えるのを防ごうと作られた条約がNPTです。
5つの核保有国は削減の義務を負っています。
ただし核の抑止力は必要だとして段階的に減らす事を認めさせてきました。
ところがここ数年核兵器を持たない国々が異議を唱えています。
中心にいるのがオーストリア。
段階的に減らすのでは時間がかかり過ぎるとして禁止条約によって一気に無くす考えを打ち出したのです。
4週間の会議。
クメント氏には戦略がありました。
各国が順番に意見表明を行う1週目が終わると2週目からは3つのテーマごとに分かれ話し合います。
ここで禁止条約を議題に挙げ多くの支持を集める事で最終文書に盛り込もうと考えたのです。
ミスターアレクサンダー・クメント。
会議1週目。
オーストリアのクメント氏が意見表明を行います。
(拍手)これまでのNPTの在り方に真っ向から異議を唱えました。
核保有国の発言に注目が集まります。
これまでのやり方を変えないと主張し禁止条約には触れる事さえしません。
一方クメント氏の呼びかけに応える国が現れます。
核を持たない国々が相次いで賛同を表明しました。
中でも注目を集めたのがテロの恐怖を訴える国でした。
核テロの脅威を訴えたイラク大使。
これまでにない危機感があると話しました。
イラクは今国土の広範囲を過激派組織ISに支配されています。
もし核兵器を持たれれば国が存続できなくなるといいます。
核を持たれたらおしまいです。
やつらは絶対に使ってきます。
禁止条約にはいつでも合意します。
今すぐにでも。
核兵器の禁止に賛同を示したのはNPT開幕から1週間で78の国と地域に上りました。
多くの国が賛同を示してくれた事に勇気づけられます。
これは明らかに今すぐ取りかかるべき世界共通の課題という事です。
新たな流れが起きている事をアメリカはどう受け止めているのか。
核軍縮政策の責任者が取材に応じました。
禁止条約はオーストリアが勝手にやろうとしている事でアメリカは賛成できません。
私たちは毎日1発の核弾頭を取り外すという地道な努力を続けています。
禁止条約はその地道な取り組みを邪魔するだけです。
スウェーデンの調査機関によるとオバマ政権下で核弾頭は徐々に減っています。
アメリカは核軍縮の義務を果たしていると主張します。
そもそも一体誰がどうやって廃絶した事を検証するのですか。
これは全く非現実的なアイデアです。
各国の意見表明が続く中クメント氏はまだ態度を明らかにしていない国のもとへ足しげく通っていました。
特に注目している国がありました。
日本をはじめとするアメリカの核の傘のもとにある28か国です。
日本の意見表明。
アメリカと立場を同じくする発言でした。
NPTの期間中日本の外交官はアメリカの外交官と頻繁に会い情報交換をしていました。
被爆者から禁止条約は本来なら日本が取り組むべきだという声が上がる中難しい立ち位置を強いられていました。
やはり核兵器国がなかなか乗ってこない提案っていうのはやはり今はまだ機が熟してないというかですね当面のなすべき事ではないのかなと思ってまして。
2週目。
禁止条約はなかなか議題に上りません。
全会一致がルールのNPT。
禁止条約に賛同する国がいくら増えても核保有国が禁止条約と向き合わなければ最終文書には盛り込まれません。
クメント氏が目をつけたのはNPT第6条。
全ての加盟国に核軍縮を進めるため効果的な措置を行う事を命じています。
クメント氏はこの効果的な措置の解釈を話し合う会議を提案し議長に採用されました。
核保有国が主張する段階的な削減よりも禁止条約の方が効果的だという議論に持ち込もうと考えたのです。
クメント氏が提案した会議の日がやって来ました。
各国が自由に議論できるようにと会議は急きょ非公開で行われる事になりました。
中で何が話し合われたのか。
今回NHKは独自に音声を入手しました。
そこから見えてきたのは禁止条約を巡って各国が初めて本音をぶつけ合う姿でした。
口火を切ったのは核を持たない国。
核保有国が反論に立ちます。
クメント氏は核保有国そして核の傘下にある国に向け訴えます。
アメリカと歩調を合わせてきた日本。
発言は意外なものでした。
核軍縮の最終段階においてという条件のもとで禁止条約の必要性に言及したのです。
すると同じ核の傘のもとにある国から同様の発言が続きます。
この日発言した31か国のうち禁止条約を支持したのは17か国。
段階的な軍縮を訴えた12か国の中でも6か国が…4週目。
禁止条約が必要だという声が増す中で核保有国が会議を自分たちのペースに持ち込もうとします。
このあとの2日間クメント氏は議長そして核保有国の代表らと話し合いを続けました。
禁止条約に賛同する国の事情を直視してほしいと訴え続けたのです。
議長がまとめた最終文書の案が発表されました。
禁止条約の文言はありませんでしたが「核廃絶を実現するため今後法律面での議論をしていく必要性がある」と明記されました。
ハロー。
意義深い結果が得られました。
核兵器に対する考え方を変える事ができたからです。
この先も議論を続ける事ができるのです。
しかし最終日。
会議は思わぬ結末を迎えます。
核軍縮とは別のテーマ「核不拡散」の場で意見が対立。
全てが白紙に戻ったのです。
決裂後の会議場。
各国の代表のもとに足を運び続けるクメント氏の姿がありました。
(クメント)核兵器の愚かさを訴えるのは私たち持たない国の使命です。
壁は厚いですが絶対に諦めません。
たった1国の訴えにこれだけ賛同してくれる国があるのですから。
会議の最後に発言が許されたクメント氏。
読み上げたのは国の名前でした。
アフガニスタンアルゼンチンブラジルブルネイ・ダルサラームブルンジチリコロンビア…。
核兵器の禁止に賛同した107の国と地域です。
インドネシアイラクアイルランドジャマイカレバノン…。
核兵器廃絶に挑む外交官。
終わりなき世界への呼びかけです。
ナイジェリアパラオパプアニューギニアパラグアイペルーフィリピンカタール…。

(マイケル)
これは極東の国日本を訪れた2015/06/25(木) 00:10〜00:40
NHK総合1・神戸
NEXT 未来のために「決裂の裏側で 核兵器禁止条約と一人の外交官」[字]

最終文書が合意できず決裂したNPT再検討会議。その陰で、一人の外交官が世界に投げかけた「核兵器禁止条約」の議論が大きなうねりとなっていた。舞台裏の攻防に迫った。

詳細情報
番組内容
最終文書が合意できず決裂したNPT再検討会議。その陰で、一人のオーストリア人外交官が世界に投げかけた「核兵器禁止条約」の議論が大きなうねりとなっていた。核保有国が徐々に進めるとしている核軍縮のあり方は、効果が薄いとし、国際法によって、核兵器を持つこと自体を禁止するという前例のない提案。ISなどによる核テロの脅威に直面する国々の心をつかみ賛同国が増えていく。4週間にわたる外交官の挑戦を追った。

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