クローズアップ現代「MERS感染拡大 備えは大丈夫か?」 2015.06.24


韓国中部。
MERSコロナウイルスの集団感染が発生した病院です。

病院は無人となり閉鎖に追い込まれていました。
ソウル市内の病院に運び込まれるMERSの疑いのある患者。
なぜ感染は拡大したのか。
韓国政府が医療機関に必要な情報を提供していなかったことが分かってきました。

感染者が170人を超え韓国社会を大きく揺るがしているMERSコロナウイルス。
日本はどう備えればいいのか最前線からの報告です。

こんばんは。
クローズアップ現代です。
韓国でMERSコロナウイルスの感染が確認されてから1か月余りになります。
今週に入ってからも、新たな感染者が報告されていますが隔離対象者はピーク時の半分以下になりました。
3年前、中東・サウジアラビアで初めて確認されたMERSコロナウイルスはこれまで中東以外の地域で大規模な感染が起きたことはありませんでした。
縁遠いと思われていた感染症が突然出現し、適切な対応が取られなかったことで感染が拡大。
韓国社会は深刻な影響を受けています。
韓国から隔離の対象とされていた人たちが複数帰国していたことからも日本が感染症の脅威と決して無縁ではないことが明らかです。
今回感染は病院内で拡大しました。
こちらは、韓国政府の発表のもとNHKがまとめた感染拡大の様子です。
中東から帰国した68歳の男性から感染が広がりました。
その後、そのうちの一人35歳の男性から一気に感染が拡大した様子が分かります。
35歳の男性をきっかけにした感染者は、全体の半数80人以上に上っています。
状況が急速に悪化した原因はどの病院で感染が広がっているのか。
医療機関への情報提供が不十分で患者の隔離が遅れたことがあることも分かってきました。
ひとたびウイルスが国内に入った場合感染拡大を防ぐために情報をどう伝えていくのか。
今回、取材班は感染が起きた韓国各地の病院や感染経路の分析に当たった複数の専門家に直接話を聞くことができました。
韓国が直面した感染症対策の難しさをご覧ください。

感染が最初に広がった人口およそ45万のピョンテク市。
集団感染が起きた病院の周辺を訪ねると。
薬局は閉鎖。
コンビニエンスストアも休業に追い込まれていました。

なぜ感染は拡大したのか。
韓国政府が公表した感染者のリストです。
最初のMERS患者は68歳の男性。
この男性の感染を見逃したことがその後の感染拡大の発端となりました。
男性は、中東に2週間以上滞在していました。
中東はMERSコロナウイルスの感染源の一つとされるヒトコブラクダが生息している地域です。
5月4日に帰国した男性。
1週間後に発熱の症状が出ます。
男性は5月15日ピョンテク市にあるこの病院に入院。
診察に当たった医師は男性が中東に滞在していたことを十分に確認せずMERSとは疑いませんでした。
男性は3日間入院。
ウイルスを多くの患者や見舞いに来た人に広げることになりました。
病院の職員に電話で話を聞くことができました。

男性の感染が確認されたのは別の病院に移ったあと。
発症から1週間以上たった5月20日。
最初に入院していた病院ではこの男性をきっかけに、36人が感染する事態となったのです。

同じ5月20日、韓国政府は国内でMERS患者が出たことを発表します。
しかし、どの病院で感染が起きているのかは公表せず医療機関にも伝えませんでした。

この対応が事態をさらに悪化させます。
最初の68歳のMERS患者から感染した35歳の男性。
この男性からさらに感染が拡大していきました。
35歳の男性は、最初の感染者と同じ病棟に入院していました。
最初の感染者は別の病院でMERSだと確認。
しかし、35歳の男性に対して特別な対応は取られませんでした。
5月25日、症状が改善しなかった男性は転院することになりました。
男性が移ったのは、同じピョンテク市内にある、この病院。
初めて取材に応じました。
38度以上の熱があった男性はまず、この救急室で処置を受けました。

男性は肺炎を患っていましたが、中東の滞在歴はなく、MERSを疑われることはありませんでした。

この部屋で3日間入院した男性。
解熱剤を処方しても熱は下がりませんでした。
病院は保健所などに問い合わせていましたがピョンテク市で特別な感染症は起きていないとの説明を受けたといいます。

症状が改善しなかった男性は別の専門の病院を紹介され高速バスでソウル市内の病院へ向かいます。
ソウルまでは、およそ1時間半。
バスには5人の客が同乗していました。
体調が悪化した男性はバスから降りたあと救急車でソウル市内の病院に搬送されました。
サムスンソウル病院。
1日およそ8000人が訪れる韓国有数の大病院です。
男性は、ここでもMERSを疑われなかったため、多くの患者がいる救急室に入院しました。
2日後、当局から連絡が入ります。
ピョンテク市から転院してきた男性は、MERSの可能性があると言われたのです。
5月30日、救急室にいる男性を検査したところ感染が発覚しました。
この男性をきっかけにこの病院で80人以上に感染が広がります。
韓国政府がすべての病院名の公表に踏み切ったのは今月7日のことでした。

韓国の専門家は、情報公開の遅れが今回の感染拡大を招いた大きな要因だと指摘しています。

情報公開の遅れは国会でも厳しく追及されました。

最初の感染確認から1か月余り。
今、韓国政府は3000人近くを隔離の対象とし感染の封じ込めに国を挙げて取り組んでいます。

今夜は、国のMERS対策の専門家会議のメンバーでいらっしゃいます、東北大学大学院教授、賀来満夫さんをお迎えしています。
韓国の場合ですけれども、最初の患者の確認が遅れたり、政府の情報公開が十分でなかったり、あるいは医療機関の情報共有が不十分だったりして、いろいろなミス等もあったかと思うんですけれども、この感染症の制御っていうのは、拡大し始めると難しいですね。
難しいですね。
本当に今回、最も近い国、韓国で、こういう感染の爆発が起こりました、アウトブレークが起こりましたけれども、私は日本でも、同様のことが起こるのではないかと、非常に危惧しています。
拡大を食い止められる最も重要なポイントはどこにあったと考えられますか?
初期対応ということになるんですけれども、診断が確実にできた、そのあとの情報の流れですね。
MERSに感染していた、この人はどの病院に入院していた、そういうことが分かれば、少なくともその地域の医療施設に情報を提供していれば、地域の医療施設は疑いますので、たぶん診断の検査をしていたと思うんですね。
それが非常にやっぱり情報の共有化ができていなかった。
そこが最も大きなポイントだと思います。

35歳の男性が行った2つ目の病院で、病院はMERSを疑って、保健所に問い合わせてますけど、ピョンテク市内で特別な感染は起きていないという回答を得た。
そうですね。
ですからやっぱり、MERSが起こっているんだということを、少なくともその地域の病院に知らせていれば、こういうことが起こらなかったんじゃないかと思いますね。
韓国政府が病院を公開したのが、6月7日になってからだということなんですが、ただ、その最初の病院で3日間、中東から帰った男性が入院してて、36人の人が感染した。
かなり感染力が強い。
そうですね。
これは、SARSのときも経験されて、今回のMERSでも、中東でも経験されたんですけれども、多くの方に感染させる。
でもこれは、もちろんその方の要因もあるんですが、一体その人が病院の中をどう動いたのか、どういう状態だったのか、症状はせきとたんだけだったのか。
おう吐、下痢はなかったのか、そういう細やかな情報が必要なんですね。
そういう環境要因もあるということがいわれているので、そのあたりのことをぜひ知りたいですね。
35歳の男性は同じ病室ではなく、同じ病棟だったっていうわけですから、その方の感染がどういうふうに起きたかということも知りたいと。
知りたいですね。
エアロゾルということが言われていますけれども、もっと病棟に広がっていなかったのか、どう動いたのか、そういうことを知りたいです。
そして、ソウルの病院に救急搬送されたあとの35歳の男性が、合わせて85人の方に広げていったということですね。
この要因はどうご覧になりますか?
この方は救急室に運ばれたということなんですね。
救急室、一番忙しい、いろんな患者さん来られますし、外傷の患者さんも来られますので、なかなか対応が難しい。
いわゆるそこでの感染対策、予防対策がどうだったのか。
不十分ではなかったのか。
そういったことを検証していく必要がありますね。
その救急で、まず本来ならばすべき、もしやっていたかやっていないか分かりませんけれども、それ、どういうことをすべきなんですか?
せきエチケット、せきとか出れば、マスクをつけていただくということだけでも、リスクは下がりますので、そういう基本的なことですね、そういったことを守れていなかったのかどうか。
そこを検証していく必要があると思います。
確実にどう広がっていったのかを知るためには、その具体的な病院内での状況、医療環境がどうだったのか。
そういったところまで詳しく知らないといけないということですか?
非常に患者さんの行動や、病院の構造や、そういったことも含めて、非常にしっかりと検証していく必要があると思います。
さあ、日本と韓国の間ですけれども、年間510万人もの人々が行き来しています。
そして地方空港には、直行便が多くの都市で飛んでいます。
こうした中で、患者が確認された場合ですけれども、まず、都道府県単位で対応することとなっています。
対策を模索する地方都市をご覧いただきましょう。

韓国との直行便が週3回運航している佐賀空港です。
ソウルとを結ぶ格安航空会社の便がおととし就航。
利用者は年間3万8000人に上ります。
韓国での感染拡大を受け警戒を呼びかける看板を設置。
専用の装置で体温を調べ38度以上の高熱などがある場合は呼び止めることにしています。

症状がなくても、帰国後2週間は健康状態に注意し症状が出た場合、保健所に連絡するよう呼びかけています。
MERS患者が出ると佐賀県では5つある指定医療機関24床で受け入れる計画です。
その1つ、東佐賀病院です。
専用の施設やスタッフの整備を急いでいます。

部屋の気圧を低く保ちウイルスが外に出るのを防ぐ感染症病床を4床用意し患者の発生に備えています。
韓国での感染拡大を受け専用のマスクや防護服などを装着する訓練を繰り返しています。
しかし、現在いる感染症専門の医師は1人だけ。
家族や団体の旅行客など感染の疑いがある人が一度に多く来た場合対応は難しいといいます。

今ある県内の態勢で十分なのか。
佐賀県は先週、関係機関を集めた初めてのMERS対策会議を開きました。

医療機関から相次いだのは個別の施設ごとの対応では限界があるという訴えでした。
警察や消防などを含めた連携を強化する必要性が確認されました。

設備やスタッフが限られる中最悪の事態に備えるための新たな模索も始まっています。
県内で最も多い感染症病床を持つ佐賀県医療センターです。

県内のほかの指定医療機関で治療できない重症の患者も受け入れることになっています。
しかし、韓国の事態を受け県内すべての感染症病床が埋まってしまう事態もありえると考えるようになりました。

こちらの病棟全部使うということになりまして。

そこで、この病院が検討しているのが、感染症病床がある病棟を丸ごと隔離してMERS患者を受け入れることです。
従来の計画より31床増やすことができます。
課題となるのはもともと入院していた患者をどこに移すかです。
ほかの医療機関に協力を呼びかけるしかないと考えています。

現在の各都道府県の準備、この状況は大丈夫でしょうか?
MERSでは地域で対応することになってるんですね。
ただ地方では、地域では、やっぱりマンパワー、ハード面、やっぱりそのあたりが不安があります。
ですから佐賀県の取り組みのように、地域ネットワークで対応していくということが、とても大切だと思います。

そしてその感染症の専門家の人材が不足しているのではないかと見られるんですけれども、それに対しては、どうされるんでしょうか。
これは現在、中央から、もしMERSが発症した場合は、中央から専門家のグループが支援することになっていますので、ぜひそういう中央からの支援グループと一緒にMERSを見ていくということになると思います。
そして重症化の患者が出た場合ですけど。
そうですね。
これは大きな問題なんですね。
やっぱりMERSの場合は、多く重症化していますので、今のところ、うまく、重症化して、集中治療部のような所で治療する、そして感染症グループと集中治療の専門家が合同で対応していく。
こういうシステムを日本の中でも早く作っていかなければならないと思います。
今回、韓国が経験したことから、日本が一番学ぶべき教訓はなんだと、専門家の目から見て?
私は市民の方の意識レベル、MERSという病気に対して、あるいは医療側の意識レベル、こういうものを両方高めていくことが必要だと思うんですね。
それを高めていくことで、例えば、中東から帰って、こういった所から帰ってきましたということをお伝えすることができる。
医療側も、MERSかもしれないということで、最初の段階でそこでもう、防ぐことができるかもしれない。
そこはとても大きな教訓になると思うんですね。
そしてその韓国政府の場合は、病院の公表をためらったりしましたけれども、情報共有、情報公開、これも非常に大事ですよね。
そうですね。
感染症は個人の病気ではなくて、他の方にうつす、非常に社会性がある病気なんですね。
だから偏見とか、そういうことを恐れずに、個人の方がしっかりと伝える。
そして政府も、国も、感染症の特質性を十分理解して、情報の公開、そういったものを努力する。
そういったことで大きな網をかけれる、そういったことで感染の拡大を少しでも防ぐことができると思うんですね。
いち早くその感染が確認できれば誰と接触したのかというところを。
いわゆる接触者調査が早くかけれる。
大きな網を作ってかけれるというところが、とても大きいですね。
なるほど。
日本として今、専門家として、韓国から何を一番学びたいですか?
そうですね、私たちは、SARSも経験していないんですね、エボラも経験してない、鳥インフルエンザも経験してない、MERSも経験していない。
未経験なんですね。
ですから韓国の政府、今回の事例から学ぶことはたくさんあると思います。
患者さんの行動はどうだったか、病院の構造はどうか。
そういったことをすべてをですね、私たちは韓国から学んで、次の日本の感染対策に役立てていかなければならないと思います。
そこで例えば、病院の中の空調設備はどうあるべきかとか。
そうですね。
どういうふうに。
そういう検証をしていかなければいけないと思うんですね。
きょうはどうもありがとうございました。
東北大学大学院教授の賀来満夫さんと共にお伝えしました。
あすはEUを揺るがす難民の実態についてお伝えしてまいります。
今夜のクローズアップ現代は、これでお別れです。
2015/06/24(水) 01:10〜01:36
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「MERS感染拡大 備えは大丈夫か?」[字][再]

韓国で感染が広がるMERSコロナウイルス。不十分な初動対応が拡大をまねいたと指摘されている。世界への広がりも懸念されている中、日本の備えは大丈夫なのか、検証する

詳細情報
番組内容
【ゲスト】東北大学教授…賀来満夫,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】東北大学教授…賀来満夫,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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