先月、最高値を更新したアメリカの株式市場。
景気拡大はどこまで続くのでしょうか。
リーマンショック後大胆な金融緩和を行い世界でいち早く立ち直ったアメリカ経済。
これまで続けてきたゼロ金利政策を解除し利上げに踏み切ろうとしています。
ドルを買って円を売る動きがさらに加速するのではないか。
円安が進み輸入品のさらなる値上がりが懸念されています。
世界でも、新興国を中心に通貨が軒並み下落。
インドネシアでは、ルピアがこの1年で15%も値下がりし景気の低迷を招いています。
年内にも行われるアメリカの利上げ。
その行方と世界に及ぼす影響を読み解きます。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
アメリカは、いつ、ゼロ金利から脱却し、利上げに踏み切るのか。
決断するのはアメリカの中央銀行FRB・連邦準備制度理事会です。
これまで世界の金融市場が経験したことのないアメリカのゼロ金利からの利上げ。
各国の金融、証券市場はマネーの動きや世界経済の潮流が変わるおそれがあるとして戦々恐々としています。
こちらをご覧ください。
アメリカの利上げがもたらす影響はすでに円相場に出ています。
日銀や政府の政策で、円安基調がずっと続いてきましたが先月、FRBのイエレン議長が年内の利上げを示唆すると一気に5円も値下がりし円安はアメリカの利上げが大きな要因になったともいわれています。
アメリカの利上げを見越してドルを買う。
通貨安は日本だけでなくご覧のように、新興国の通貨にも波及しています。
リーマンショック後景気を回復させようと日本、アメリカ、ユーロ圏の中央銀行などは大量の資金を市場に投入する過去に例のない金融緩和を行ってきました。
いち早く回復したアメリカは去年秋、量的緩和に終止符を打ちましたが金利はゼロのままです。
現在、日米欧の政策金利はほぼゼロ。
世界的にお金があふれる状況の中でアメリカでは高い利回りを求めて信用力の低いローンに資金が流れバブルの懸念がささやかれています。
利上げに向かおうと市場との対話を続けているFRB。
タイミングは経済指標しだいとしています。
そこでまずは、アメリカ経済の実態からご覧ください。
好調なアメリカ経済。
先月、ニューヨーク市場のダウ平均株価は最高値を更新しました。
株価の値上がりはとりわけ富裕層の人たちに恩恵をもたらしています。
フロリダ州にある55歳以上の人向けに開発された住宅街。
全米から11万人が移り住んでいます。
株式投資で資産を増やした人たちが毎年2000戸以上の新築住宅を購入し街は人口の増加率が全米一といわれています。
この街に住むジョン・ミラーさんです。
大学教授だったミラーさんは退職後、およそ6000万円で家を購入。
夫婦で悠々自適の生活を送っています。
資産は1.5倍に増えおよそ1億8000万円に上っています。
さらに、一時2桁まで悪化した失業率も5.5%まで改善しました。
テネシー州にあるアメリカ最大の自動車工場です。
生産台数はこの5年で大幅に増加。
従業員を2倍以上に増やしました。
景気の拡大が続くアメリカ。
過熱の兆しも出始めています。
その一つが、ベンチャー企業への巨額の投資です。
起業して間もない会社に億単位の資金が次々と集まっているのです。
学校で使われるアプリを開発したこのベンチャー企業。
創業から3年、収益がほとんど上がっていないにもかかわらず70億円を超える投資が集まりました。
巨額の資金を集めるベンチャー企業がこれまでになく増えていることを懸念する投資家もいます。
過熱の兆しは自動車販売の現場でも出始めています。
信用が低く、返済が滞るおそれのある人向けの融資サブプライムローンが広がっているのです。
かつて、住宅向けのサブプライムローンはリーマンショックのきっかけにもなりました。
この販売店でも売り上げの6割以上がサブプライムローンによるものです。
今、車のサブプライムローンの融資額は全米で30兆円にまで拡大していると見られます。
こうした状況を前に、今FRBは、利上げを行うタイミングを探っています。
先週、FRBは、金融政策を決める会合を開きました。
イエレン議長はアメリカの景気がこのまま拡大を続ければ年内に利上げをする意向を示しました。
しかしすぐに利上げを行うことには懸念の声も上がっています。
賃金の回復の遅れが理由の一つです。
賃金の伸び率はリーマンショック前3%を超えていました。
しかし、非正規社員が増えたことなどから、現在は2%程度に低迷したままでまだ利上げに踏み切るべきではないというのです。
モーガン・ジェイムソンさん26歳。
消費者向けの金融会社に勤めていますが、月収は20万円余りにとどまっています。
学生時代の学費などのローンの返済もあり生活に余裕はありません。
預金の残高も16万円。
今後、収入が増える見通しは立っていないといいます。
年内の利上げを探るFRB。
しかし、賃金の回復などが遅れる中でいつ利上げに踏み切るのか難しい判断を迫られています。
今夜は国際金融がご専門でいらっしゃいます、倉都康行さんをお迎えしています。
日本とそして海外の金融機関にお勤めになられた経験もお持ちなんですけれども、アメリカは、株高ということで、資本を持っている、資金を持っている方々にとっては、その恩恵を受けていますけども、賃金上昇にはしっかりとつながっていない。
全体のアメリカの実体経済、どう見てらっしゃいますか?
そうですね。
今のアメリカの経済は非常にいいところと、それから少し弱いところ、この2つが併存している状態ではないかと思います。
株式市場は非常に絶好調ですし、雇用も改善していると、それから住宅市況、あるいは自動車の販売ですね、こういった数字を見ると、非常に力強いので、やはり利上げがあってもおかしくないというふうに思える一方で、雇用もやはりパートタイマーの人たちが非常に多いので、なかなかこう賃金を上げなくてもいいから、時間を増やしてくれと、働く時間を増やしてくれと。
そういう雇用状況ですので、まだまだこの、余剰力が小さくないという状況になりますし、その個人消費も、ガソリンが下がったわりには、それほど強く伸びてはいない。
もう少しマクロでいいますと、アメリカの潜在成長力自体が、少し低下しているんじゃないかと、そういう見方もあって、必ずしも一枚岩で非常に強いという状況では、必ずしもないのではないかと思います。
こうした中で、イエレン議長のひと言ひと言に、市場が注視しているということですが、マーケット全体の空気って、どんなものなんですか?今。
やはりマーケットとしては、利上げというのが、10年間経験がありませんし。
アメリカの?
アメリカのですね。
それに加えて、ゼロ金利から金利が上がると、これも未知の体験なんですね。
ですから、その過程で例えば株価がどう動くのか、長期金利はどう動くのか、それがこうなかなか読めないと、想像ができないということで、なかなかうまく対応ができていない。
非常に不安感が広がっているということですね。
過去、金融の量的緩和の中で、みんな株を買う、債券を買うという、一方通行の取り引きをしてきたので、みんな同じ状況になってきています。
ですから、そういったことで何か起こると、売りが売りを呼ぶんじゃないかと、そういう恐怖感がありますので、なんとなくリスクを取りたいような気もするんだけど、やはりリスクを回避しなきゃいけないかもしれない、ちょっとこう中途半端な状況にもなっているというのが、状態だと思います。
もしみんな同じ投資をしてきたんだとすれば、もし、そのマーケットでいったん増え始めると、大きな混乱になるおそれはあるんでしょうか?
そうですね。
ただリーマンショックのような、ああいう惨事にはたぶん至らない。
といいますのは、やはり過去の経験から世界の機関投資家が、現金の保有比率をすごく高めています。
ですから、そういった待機するお金がかなりありますので、下がったときにはまた投資をしようというお金があるということは、そんなに世界を揺るがすような事態にはならないんではないかというふうに思っています。
しかし、不安が広がっているということですね。
さあ、利上げの影響ですけども、アメリカ国内だけにとどまりません。
資金の流れが変わり、新興国にも影響が出始めています。
人口2億5000万。
東南アジア最大の市場インドネシアです。
海外から次々と企業が進出。
投資マネーを呼び込み成長を続けてきました。
ところが先月物価の伸びが、前の年に比べて7%以上となりました。
今、輸入品が相次いで値上がりしています。
消費が大きく冷え込むなど経済成長率は4.7%と2009年以来の低い水準に落ち込んでいます。
理由の一つが通貨安です。
インドネシアの通貨・ルピアはこの1年でドルに対し15%以上下落しました。
金利が高くなるアメリカのドルを買ってルピアを売る動きが加速。
ルピア安が進んだのです。
通貨安はほかの新興国にも広がっています。
ブラジルでは、1年前に比べ通貨・レアルがドルに対し30%下落。
去年の成長率は0.1%にとどまりことしはマイナス成長が予測されています。
南アフリカの通貨・ランドは14%下落。
海外からの投資が引き上げられ失業率は26%を超えました。
アメリカの利上げ観測で世界に広がる通貨安。
新興国の成長率は、4.6%からことしは4.3%に低下すると見込まれています。
インドネシアを、有望な投資先の一つとしてきた日本。
進出している企業にも大きな影響が出ています。
トヨタは、4月の新車販売台数が22%落ち込みました。
スズキは、41%落ち込むなど大きな打撃を受けています。
大手自動車メーカーとの取り引き拡大を目指しことし進出してきた中小企業です。
10月の稼働を目指し工場の建設を進めています。
しかし、自動車の販売が低迷する中で、工場が完成しても十分な収益が見込めるか分からないといいます。
世界に広がる通貨安の波紋。
IMF・国際通貨基金はアメリカの利上げのタイミングが早すぎると、世界経済に深刻な影響を及ぼすことになると懸念を示しています。
今のリポートで新興国の側から、アメリカに大人の対応を求めるという声が印象的だったんですけど、10年前、アメリカ、2年間にわたって17回利上げを、4.25%あわせて行ったとき、新興国通貨は影響を受けず、むしろ新興国通貨が上がるという状況もあったんですが、なぜこれほどアメリカの利上げに影響を受けやすくなっているんですか?
それは新興国経済の景気サイクルと大きな関係があると思うんですね。
まさに2004年当時は、新興国経済、成長率が非常に力強い上昇を示していたときです。
そういう時期には、アメリカが多少利上げをしても、新興国から資本が逃げるということはなくて、そのままどんどん新興国にお金は流れる、そういう状況だったんですが、これが2012年ぐらいから、少し様子が変わってきまして、新興国の成長率が鈍化を始めたわけですね。
それで2013年に、前のFRB議長のバーナンキさんが、量的緩和をやめるという、そういう発言をしたその瞬間に、今度は新興国通貨が売られ始めた。
それがこう現在に至っているわけで、その背景にあるのは、新興国の成長率が非常に鈍化をして、弱くなっている。
ですから、そこでマーケットが、新興国から、お金を流出させて、それでアメリカに資本を持って帰ると、そういう動きが出てきているということだと思います。
それで今、中国の力強さもなくなっている状況の中で、イエレンさんとしては、利上げをいつするのか、どんな幅でしていくのかということを考えるわけですけれども、新興国の景気が鈍化するということは当然、日本の企業もそうですけれども、新興国に投資しているアメリカ企業の影響も出てくるということですね。
イエレンさんの心模様、どういうことを天びんにかけながら判断すると思いますか?
新興国に関するかぎりは、やはりドル高が新興国経済の鈍化、これはもう間違いなくアメリカの企業にも業績悪化という、マイナス材料になりますし、ドル高はやはりまた、アメリカの企業の業績を抑えてしまう、そういうマイナス材料があるわけですね。
ただ一方で、国内を見ますと、やはり先ほどのVTRにもありましたように、いろんなベンチャー企業にお金が流れたり、株がちょっと割高な状況になったり、そういう資産バブルの懸念が出始めていると。
特にベンチャー企業の赤字企業にお金が流れるというのは、2000年ぐらいのITバブルの時代をほうふつとさせるものがあるわけですね。
そうしますと、国内的には、あまりに低金利を続けていると、また資産バブルを起こしてしまうと、そういう懸念が一つある。
それからゼロ金利というのは、あくまで異常事態への対応ですから、中央銀行としては、できるかぎり早く、金利を正常化したい。
ですから、利上げというよりも、金利の正常化を急いでいる、そういう状況があるわけですね。
それとアメリカもいつまた景気後退に向かうかもしれない。
そのときにやはり下げる余地を金利を下げる余地を、いわゆるのりしろのようなものですけれども、それを早めに作っておきたい。
そういう国内事情から考える利上げへの対応。
ですから、海外と国内、それで少し微妙に考え方が違うんですけども、その間でどうバランスを取るかということに、今、腐心されているんだと思います。
そして日本ですけれども、イエレン議長が年内の利上げを示唆しますと、一気に5円も円安が進み、大きな影響を受けた。
それに対して、日銀の黒田総裁は実質実効レートを見ると、これ以上円安が進むとは思えないと発言をしています。
黒田総裁の心の内、悩み、なんでしょうか?
そうですね。
発言自体は、必ずしも円安をけん制したものではないという見方もありますけれども、日銀として、これ以上、あんまりどんどん円安が進むというのは、あまり望んでいないというのが、やはり本音にあるんだと思うんです。
日銀のやはり最大のテーマは物価の上昇率ですから、今、足元インフレ率は少し低迷していますけども、物価が上がるだろうという期待値は残っているという、そういう判断で今、政策運営をしていると。
ただし、やはりどこかでカードを持って、追加緩和ができる、そういう手元のカードは残しておきたいという中で、あまりに円安が進んでしまいますと、円安の中で追加緩和を行いますと、ますます円安になると。
これはいわゆる悪い円安ということになってしまいかねないということなので、本音としては、あまり円安にはなってほしくない。
ただ、一方で、逆に円高に振れたりしますと、例えば今、ギリシャ問題というのが非常に話題になっています。
今もまだユーロ圏を離脱するんじゃないかと、デフォルトするんじゃないかと、そういった懸念で、円高に少し振れるようなときもありますけれどもただ時合いとしては、やっぱり少しまだ、円安の状況にいっているので、少しやっぱり警戒をしているという状況だと思います。
こうしたアメリカが量的緩和、そして利上げに向かおうとする中で、日本のこれからの経済運営、金融の運営のしかたというのは、どうあるべきでしょうか?
やはりアメリカも利上げという形で正常化をしていったと。
それは日本にとっても、一つのお手本になると思うんですね。
今、日本は量的緩和のまだ真っただ中ですけれども、いずれ出口を考えなきゃいけない。
そういう時期が来るわけですから、やはりいつまでも、金融緩和、一種のぬるま湯に、どっぷりつかっていてはいけないという、そういう姿勢を少しずつ出していく必要はあるんじゃないかなと思います。
どうもありがとうございました。
倉都康行さんと共にお伝えしてまいりました。
今夜のクローズアップ現代は、これでお別れです。
2015/06/23(火) 01:00〜01:26
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「世界通貨安 どこまで〜アメリカ“利上げ”の波紋〜」[字][再]
円をはじめ世界で進む通貨安。背景にあるのがリーマンショック後、いち早く経済が回復したアメリカの利上げ観測だ。アメリカでそして世界でいま何が起きているのか、伝える
詳細情報
番組内容
【ゲスト】国際金融評論家…倉都康行,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】国際金融評論家…倉都康行,【キャスター】国谷裕子
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ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
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