プロフェッショナル 仕事の流儀「菓子開発/マーケター・小林正典」 2015.06.22


今や世界の大人たちを魅了する日本のお菓子。
そして国内でも今大人向けお菓子のブームが起きている。
この行列の目当てはおなじみのチョコスティックの高級版。
一箱500円のお菓子が飛ぶように売れていく。
このブームの仕掛け人は一人のサラリーマン。
市場に旋風を巻き起こすヒットを次々生み出してきた。
客の心を一瞬でつかむため妥協なくアイデアを突き詰める。
緻密な市場調査を武器に伸び悩んでいた看板商品の売り上げを一気に50億円伸ばした男。
隠れたニーズを発掘し新ジャンルを開拓し続ける。
チームを率い結果を出すヒントがここにある。

(主題歌)毎年1,000種類が生まれそのほとんどが1年以内に消える熾烈な世界。
一箱数百円の菓子開発に全身全霊をささげてきた。
初めて開発を任された30代。
役に立たないと打ちのめされた。
意気込む部下のプロジェクトが壁にぶつかった。
崖っぷちの部下を支える手は何か。
その時語った開発者の魂。
お菓子戦争最前線熱きサラリーマンに密着!朝8時小林は毎朝電車で出勤してくる。
いつもちょっとした趣味を交えて通勤路を楽しんでいる。
行き交う人の心のうちを勝手に妄想する。
小林が勤めるのは業界大手の菓子メーカーだ。
小林はチョコレート菓子を担当する開発部門の責任者。
およそ120種類の商品を日々リニューアルしながら新商品の開発も手がけている。
週頭の月曜日は全員でライバルメーカーの新商品を食べる。
話題をさらう商品が出れば売り上げは一気に食われる。
毎週熾烈な競争が続く。
この日新発売の商品について厳しい報告が上がってきた。
4年がかりで開発してきた商品。
だが発売から4か月売り上げは期待に届かない。
ラインナップで初めてビジネスマン向けに特化した商品。
仕事の合間の一服に濃厚な苦みを提案したが反応はいまいち。
担当者は自信をなくしている。
だが小林の見立ては違う。
指摘したのはキャッチコピーの曖昧さだった。
みんなでこだわった「濃厚」という言葉が客に届いていないと判断。
新たなキャッチコピーで再チャレンジすると決めた。
お菓子の開発は挫折との闘いだ。
厳しい市場の洗礼を乗り越えヒットを生み出してきた小林。
心に唱える信念がある。
小林さんは暇さえあればデパートやスーパーに向かう。
主に足を運ぶのは女性向け商品のコーナーだ。
日々店頭でアンテナを磨きながら隠れたニーズを掘り起こすのが小林さんのやり方だ。
例えば年間20億円のヒットとなったこのお菓子。
「おつまみスナック」という独特のジャンルを開拓した。
お酒のつまみといえば定番商品にはかなわないというのが業界の常識。
だが聞き取り調査の対象を30代に絞り込むとおしゃれな品がないという不満が見えてきた。
そこで小林さんたちは居酒屋を観察。
枝豆をヒントに新商品を開発した。
なぜか食べ続けるあのリズム。
サイズや塩分を徹底的に研究し3年がかりでヒットに導いた。
ヒットを求める小林さんが常に目指す事がある。
わがままなまでの消費者の心理。
それをこまやかにつかみ取る事こそ小林さんの真骨頂だ。
ワインをおしゃれに楽しみたい女性。
本格的なチーズを切るのは面倒だがチーズ風味のお菓子では物足りない。
そこにチーズたっぷりのスナックを提案し大ヒット。
そして家事で忙しい主婦。
僅か15分のコーヒーブレイクで癒やされたいというニーズに応えた一口で満足できるチョコレート菓子。
チョコレート市場がどうなっているのかというところと…。
目からうろこの商品を求めて。
アイデア会議はエンドレスに続く。
結果的にそれが新しい商品になると思う。
この日一人の部下から開発中の新商品について報告を受けた。
入社2年目の妹川だ。
妹川はある食材を「半生」の状態で挟んだお菓子を提案中だ。
既に試作もしたがまだ魅力が明確ではない。
店頭で客の目に入るのは一瞬。
魅力をどこまで研ぎ澄ませられるか。
2秒で届く売りにはなっていない。
小林は独特のやり方で議論を進め始めた。
妹川の説明の細部にわたり意味を問いただしていく。
ようやく質問がやんだのは1時間後の事だった。
だがここからが小林のミーティングの本番だ。
ヒントになるデータを基に更に徹底的に商品の狙いを洗い出していく。
小林も正解など持ち合わせてはいない。
客の心に響く何かを見つけ出すまでひたすら議論が続く。
1か月が過ぎた。
妹川がもう一度商品のコンセプトをまとめてきた。
半生食材の売りを「素材感」という言葉に込めた。
更に競合する製品との比較も報告した。
ぜいたく感みたいのを楽しめるっていうところがこの商品のベネフィットになると考えています。
うぅぅ…。
(小林)この市場に割って入るわけだよ妹ちゃんは。
そうだろ。
この市場で世の中が成り立ってるところに新しい新参者として割って入るわけだよ。
割って入って「私の方がいいですよ」って言うわけだ。
「私の方がいいですよ」っていうのは「どういいですよ」の「どう」の部分をこれで説明しなきゃいけない。
「噛むと中からドロ〜っとジャムが出てくるチョコスナックです」とか何とかって言うと「何か違うものが出たな」と思うかもしれない。
広い言葉で言えば言うほど認識の変化は絶対起こせない。
そうですね。
小林が粘るのは妹川がこの提案を生んだ直感の中にまだ説明できない何かがあると感じているからだ。
それが見えるまで何度でも突き詰めていく。
妹っ!妹っ!もう1回妹!
(笑い声)ああダメだ…ああ…。
あぁ〜しんどい。
無駄な動きが多すぎる。
スターの小林さんに拍手。
(拍手)この日小林さんは新入社員の研修で挨拶に立った。
部下と共に斬新なヒットを生み出してきた小林さん。
その働き方はどう形づくられたのか。
小林さんはもともと営業部の出身。
個人で店舗を回り売り込みをかける担当だった。
負けん気の強い性格。
売り込みが不調に終わる度自社製品の弱さを口にした。
(小林)営業として…入社10年目突然商品開発の部署への異動を命じられた。
売り場を見てきた自負はある。
俺がヒットを生んでやろうと意気込んだ。
調査を重ね狙いを定めたのはお酒のつまみ市場。
一人アイデア出しに没頭した。
しかし出てくるアイデアはごくごく平凡なものばかり。
毎日100以上企画を書き出したが会議では箸にも棒にもかからない。
結局上司の助けを借り3年かかってようやく1つ売れ筋を送り出した。
だがその時込み上げてきたのは底知れぬ不安だった。
いくらやっても売れるコツはさっぱりつかめない。
このまま俺はやっていけるのか。
そんな時社内である試作品を見かけた。
チーズを焦がした棒状のお菓子。
見た目が悪く失敗作だとけなされていたが不思議な味わいに引かれた。
作ったのは研究部の細川さん。
入社以来15年ヒットに恵まれない中たった一人で開発したという。
話しかけるとお互い30代半ば。
実績が出せず焦る気持ちは同じだった。
以来連日2人で商品化のアイデアをぶつけ合う仲になった。
当時市場ではチーズ風味は売れないと言われていた。
だが競合商品がない分壁を越えれば当たる可能性がある。
考えて考えてこれこそ求めるイメージだと思い立ったのは人気アニメに出てくるチーズ。
形も味わいもあれを追求したいとむちゃを承知で細川さんに突きつけた。
細川さんはならば見てろとでんぷんを使う特別な配合を考案。
小林さんに突きつけ返した。
最初は誰も振り向かなかった失敗作のチーズ棒。
だが1年がたった頃2人の熱意で少しずつ周囲の目が変わり始めた。
製造をテストしたいがチーズの匂いがうつるため工場にラインの組み替えを頼まねばならない。
方々に嫌がられる中九州の工場長がやる気を認めてくれた。
土日に既存のラインを止め休み返上で製造を引き受けてくれた。
営業広告物流。
少しずつ仲間は増えた。
そして1年後ついに発売。
すると予想をはるかに超えるヒットになった。
不安と焦りの中で夢中でもがき続けた小林さん。
一つの思いが込み上げていた。
イエーイ!
(小林)イエーイ!開発は挫折と失敗の繰り返し。
だがみんなに熱を伝え続ければ何かができる。
小林さんは今心からそう確信している。
(拍手)
(小林)ありがとうございました。
この日小林は重要な案件に臨もうとしていた。
来冬に売り出す新製品の開発だ。
ブランドの方向性は大筋で合意済み。
だがお菓子の具体的な姿はまだ見えていない。
競合他社も力を入れてくる時期だけに失敗は許されない。
今回担当に抜てきしたのは…アメリカに本社を置く外資系メーカーで長く働き転職してきた33歳。
今回が初めての新商品開発となる。
福田の力を引き出し新たなヒットを生み出す事ができるか。
この日福田のアイデアで5種類の試作が出来上がっていた。
(小林)ねっ。
さすが。
この試作をたたき台に目指す商品の姿を話し合う。
福田は味よりも先にある事を話しだした。
製造コストの問題だった。
改良案が出たがコストダウンにつながらないと興味を示さない。
福田の進め方に異論が噴き出した。
この日の議論はひとまず終了となった。
(小林)自分で言ってるとおり葛藤してるやん。

(取材者)ほんとですか。
そうですね。
5日後福田は新たなコンセプトを考え直していた。
外資系のメーカーで6年販売戦略を担当してきた福田。
転職を決めたのは自分の手でゼロから商品を生み出す醍醐味を味わってみたいと考えたからだ。
この日主婦をターゲットに昼用と夜用のお菓子を作るという方針を打ち出した。
福田は研究部の細川に急ぎで試作を頼み込んだ。
主婦が昼に楽しむタイプとして2種類のチョコをマーブル状に混ぜたもの。
一方寝る前にホッとできるタイプとしてブランデー入りのチョコレート。
だが細川はこの依頼には明らかな欠点がある事に気付いていた。
2種類のチョコをマーブル状に混ぜても味の変化は感じられない。
福田のもとにも試作が届いた。
(取材者)というのはどういう事ですか?福田も自分の失敗に気付いた。
転職してから3年新しいお菓子の可能性を福田は考え続けてきた。
何とか客に届く商品を開発したいと得意の市場分析も人一倍精力的に進めてきた。
翌日。
福田は候補を絞り込んでいた。
小林に開発の方向性を提案する。
福田はブランデーを特別な形で加えたチョコレートを夜用に提案したいと語り始めた。
「寝る前に一人でゆっくり楽しむチョコレート」というコンセプト。
客の心が動くまではいっていない。
だが方向性はいいと更に進めるよう指示した。
その日の夜小林は細川を誘った。
話し始めたのは福田の事だった。
そうそうそう。
残念ながら。
(取材者)どんなところですか?かつて不器用に走り回っていた自分たちに似ているという。
こういう感じですよ。
ところが3週間後製造部から思わぬ情報が入った。
ブランデーを加える製造ラインは予算上作るのが難しいという。
福田はプランの変更を考え始めた。
本物のブランデーは諦め香料でしのぐ案を提示した。
この日小林は何も言わなかった。
販売時期に何とか間に合わせようと必死な福田。
だが開発を手がける者としてゆるがせにしてはいけない事もある。
翌日小林は福田を呼び出した。
そして一つの事を伝えた。
福田が企画したブランデー入りのチョコレート。
狙いを諦めずむしろ投資する価値があると確信できるまで掘り下げようと小林は語った。
(福田)はい分かりました。
「狙った時期に間に合わなくても責任は取る。
難しい方へ行け」。
それが小林のメッセージだった。

(主題歌)8日後。
更に張り切る福田の姿があった。
更に別のタイプの新商品も是非開発してみたいという。
小林は容赦なく突き返す。
客の心に響く何かにたどりつくまでぶつかり合いは続く。
上下関係とか立場というものを越えて共感によって人を動かせる事ができる人。
その共感を得るためには成功へのビジョンを抜群の解像度で指し示す。
それができる人。
そう思います。
2015/06/22(月) 22:00〜22:50
NHK総合1・神戸
プロフェッショナル 仕事の流儀「菓子開発/マーケター・小林正典」[解][字]

大手菓子メーカーでマーケティング部門を率いる小林正典。年に千種が生まれ、生き残るのは数種類と言われるしれつな世界で、チーム力でヒットを量産する熱きリーダーに密着

詳細情報
番組内容
大手菓子メーカーでマーケティング部門を率いる、小林正典(44)。徹底した市場調査で隠れたニーズを掘り起こし、「ビールに合う枝豆のようなおつまみ菓子」など新ジャンルを次々開拓、ヒットを生んできた。年に千種が生まれ、生き残るのは数種類と言われるしれつな世界を生き抜く。部下が提案するアイデアの芽を妥協なくつきつめ、チーム力でヒットを量産する熱きサラリーマンリーダー!!部下の力を引き出す流儀に迫る。
出演者
【出演】マーケティング部長…小林正典,【語り】橋本さとし,貫地谷しほり

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化

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音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
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日本語(解説)
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