​殊能将之—含羞と韜晦の天才

翻訳・解説・エッセイ・コラムと、SF界のオシゴトを縦横無尽にばりばりこなす超人・大森望氏。氏の〈SFマガジン〉誌上の連載コラム「大森望の新SF観光局」がcakesに出張! 今回は『殊能将之 読書日記 2000-2009 The Reading Diary of Mercy Snow』(講談社)の刊行にあわせ、〈メフィスト〉に掲載された追悼文を再録します。枚数の都合でカットした部分を復活させたオリジナル全長版です。(初出:〈メフィスト〉2013年Vol.1)

『ハサミ男』を初めて読んだ日のことは強烈に覚えている。献辞に知人の名前を見つけて仰天し、もしやこの新人は……? と逸る気持ちを抑えてページをめくり、伊藤典夫らしき人物がテレビ番組〈知ってるつもり!?〉でティプトリーを語る楽屋落ちシーン(重要な伏線でもある)まで読んで、疑念は確信に変わった。XTCにちなんだ題名とこの内容、この完成度からして、“犯人”はあいつしかいない。

 翌日、講談社に電話して、文三の宇山日出臣部長に、
「殊能将之という新人の本名は、もしやT・Tじゃないですか?」
 と訊ねたところ、
「ふふふ。そうだよ」との答え。
 長く消息不明だったがTが元気だったことと、よりにもよってメフィスト賞を選んでデビューしてくれたことがとにかくうれしかった。

 Tは、福井のハードSF少年として高校時代からSFマガジン誌上で名を馳せていたが、3歳年長の僕がTと初めて出会ったのは、彼が大学1年生のころ。1983年秋、名古屋大学のSF研究会に入会したTはたちまち頭角を現し、機関誌の編集や執筆などで八面六臂の活躍を見せていた。音楽と映画とアニメとSFを縦横に切りまくり、映画「ビューティフル・ドリーマー」を論じた「恋のメビウス」、ハードSFを論じた「ハイウェイ惑星はいかに改造されるか?」などの評論群は、ユニークな着眼点と優れた文章センスで全国のSFマニアから高く評価されていた。

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Hayakawashobo まずは。(喜)は、『ハサミ男』の興奮と衝撃を思い出しながら今回の連載を読ませていただきました――『殊能将之 読書日記 2000-2009』(講談社)刊行記念。|​殊能将之――含羞と韜晦の天才|大森望の新SF観光局・cakes出張版| https://t.co/IVle0qD52O 約3時間前 replyretweetfavorite

hirarisa_R 『ハサミ男』初読時はほんとうに驚いた [今だけ無料]​殊能将之――含羞と韜晦の天才|大森望の新SF観光局・cakes出張版|大森望 https://t.co/FB2A6y0MOo 約7時間前 replyretweetfavorite

lotustea2009 “​殊能将之――含羞と韜晦の天才|大森望の新SF観光局・cakes出張版|大森望|cakes(ケイクス)” http://t.co/Lk2OAZetOB 約7時間前 replyretweetfavorite

isozakiai “​殊能将之――含羞と韜晦の天才|大森望の新SF観光局・cakes出張版|大森望|cakes(ケイクス)” http://t.co/vP5LKl85Pi #殊能将之 約7時間前 replyretweetfavorite

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