聾学校に在籍する聴覚障害児の言語能力の実態は,『読字』のような機械的学習は学年相応にできるが,『読解』のような文の意味を理解したり,操作することは非常に苦手である。
『9歳の壁』といわれる具体的思考から操作的論理的思考能力への転換がきわめて不十分であり,いかに乗り越えるかが大きな課題となる。しかし,生活経験が広がるにつれて次第にのびてくる。このため,実生活での豊かな経験に裏づけられた言語の発達を促すことが必要となる。
聾学校に在籍する聴覚障害児の言語能力の実態は,以下の図のようであり,『読字』のような機械的学習は学年相応にできるが,『読解』のような文の意味を理解したり,操作することは苦手である。
図 読書力診断検査の結果(高橋,1991)
知的特性
言語と思考の関係については諸説あるが、言語は思考の道具であるという点ではほぼ一致していると考えて良い。
発達のごく初期から重度の聴覚障害があると、言語の獲得に問題が生じ、それがひいては思考に影響を与えるという考えがある。
記憶・思考・学習
記憶
聴覚障害児は数や文字の記憶が苦手であるとの報告が多い。
言語的な有意味課題での記憶は健聴児に劣るが,年齢とともにその差が小さくなる傾向にある(デーリング(Doehring,D.G.)。
思考
オレロン(Oleron,P.)は,様々な形や大きさの積み木を分類する課題を与え,聴覚障害児は健常児と比べて新しい分類方法に移るのが困難であったと報告した。その理由についてオレロンは,聴覚障害児は言語力が弱いために視知覚に依存しがちであることをあげ,概念的思考の遅れを指摘した。
知能
欧米での結果は以下の通り
・1910年頃
聴覚障害児は知能得点において10点ほど健聴児を下回り,教育的には2年から5年の遅れがあると報告されている
ビネー知能検査に用いられる言語が聴覚障害児に難しいことがある
テストが多くの生活経験を前提としていること
を考慮しなければならない。
・1930年から1960年頃
聴覚障害児の知能は健聴児に比して劣るものではない
・1960年代以降
聴覚障害児も平均的な知能をもっている
※健聴児との差は年齢とともに縮まるケースが多い
学力
多くの聾学校では生活年齢に対応した教育,すなわち小学校3年生であれば3年生の教科学習といった『学年対応』の指導をめざしている。しかし,学年を追うごとに学習内容も高度化し,個人差も大きくなるために,実際に使用する教科書は小学部では1年から2年,中学部では2年から3年遅らせて使用していることも少なくない。
パーソナリティ・社会性
パーソナリティ
以下に過去に聴覚障害児(者)に対して言われたパーソナリティの一例を示す。
・ 依存的である。困難を克服しようとしない。
・ 自己中心的である。
・ 失敗を他人のせいにすることが多い。
・ 権威には弱いが,弱者には強く出ることが多い。
・ 懐疑的であったり,八つ当たりが多い。
・ 協調性に欠け,社会的行動がとれない。
・ マナーや常識に欠ける。
むしろこれらは聴覚障害の有無にかかわらず,他の要因に起因する(二次的に形成された)ことが多いと思われる。
2 社会性
『聴覚障害児は自己中心的で社会的規範の習得が遅れがちである』という従来からの指摘がある。その意味では『物事の因果関係を論理的に把握する力』や『相手の立場に立って考える態度』の育成が望ましい。しかし,その原因などを再検討する必要がある。
うまくコミュニケーションの技量を高め,良好な交友関係を維持できれば地域・社会での経験が制約されにくくなると思われる。
支援の方向性と指導・支援法
聴覚の障害の程度が重度な場合、補聴器を装用してもすぐ言語音が聞き取れるわけではない。音に興味や関心をもたせ、音がもっている意味を探るような態度を形成することがまず必要となる。そのうえで、いろいろな音を区別すること、音を意味に結びつけることなどの訓練を通して言語音が識別できるようになる(聴能訓練)。
近年は補聴器の性能が向上したこともあり、訓練的な色彩が弱められ、自然な状況下で音を聞くことを重視する考えが出てきている(聴覚学習)。
聴覚に障害があっても、構音器官に障害がないのであれば、理論的には発音・発語は可能である。残存聴力を利用しながら、視覚的な手がかり(読話や発音サイン)や運動感覚を利用して発音を誘導する指導を行う(発音・発語指導)。
残存聴力を利用するものの、失聴の程度が重度な場合、視覚的な情報のみで音声言語を獲得することは困難である。また言語を自然に学ぶのではなく訓練的な色彩が強くなりがちになり、あるいは聴覚に障害のある子ども本人やその家族に多大の努力を求めるようになり、その弊害も指摘されている。
このような反省から、可能なあらゆる方法(読話、発語、文字、それに手話)でコミュニケーションを促進し、ことばだけでなく、全人的な発達を目標にするトータルコミュニケーションという考えが生まれた。手話の活用をさらに重視し、まず聴覚に障害のある子どもに第1言語として手話を獲得させ、第2言語として音声言語(読み書きを中心に)を指導する試みもなされている(バイリンガル・アプローチ)。
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