エンジニア向けのビジネスチャットツールSlackの
アクティブユーザーが100万人を突破したというニュースがありました。
Slackの時価総額(上場前)は約3500億円、資金調達額は約400億円と
シリコンバレーでもあちこちでSlackの名前が飛び交っています。
そこで同じビジネスチャット市場で戦っているChatWorkのCEOである
私から現在の状況をブログ記事にまとめてみたいと思います。
■競合のビジネスチャットツールはほぼ全滅
2012年頃からビジネスチャットツールの市場が盛り上がり始め
毎月世界中から雨後の筍のように競合サービスがが生まれていました。
ChatWorkとして日本市場において競合視しているサービスはありませんが、
世界市場を見てみると100を優に超える競合だらけでした。
海外から次々に出てくる競合は、数人しかいないスタートアップにも
かかわらず、UIは良いし、機能も充実、メディアにも取り上げられて
どんどん成長していくという、競合が出る度に焦る日々でした。
しかし、状況は一変しました。
2014年にリリースされたSlackが全部根こそぎ持っていったのです。
Slackの台頭以降どうなったか。結果として、競合が現れる頻度が激減しました。
検索エンジンでGoogleに戦いを挑む会社がいないのと似た状況だと思います。
既存の競合は瀕死状態でほぼ全滅。もう一度言います、見事にほぼ全滅です。笑
自分のいる業界で、かつ今自分が働いているシリコンバレーで身近に
起きているので、IT企業の社長をやって15年ですが、まさかこんなことが
自分の身の回りで起きるとはという感じです。
■Slack台頭でChatWorkに起きた変化
Slackのようなサービスが出てきて、ChatWorkを心配してくれる方も
いるのですが、実はいろんな追い風が吹いています。
--市場があることが証明された
Slack以前はLINEなどの個人のチャット市場は認識されていましたが
ビジネスチャットはなかなか認識されず、認知を広げていくのが
大変でした。しかし、Slackの異常とも言える時価総額と資金調達額によって
VCをはじめ、ありとあらゆる業界に認知が一気に広がり、
ビジネスチャットに大きな市場があることが証明されました。
--競合視していた会社が買収された
SlackはターゲットがChatWorkと異なっているため私達は参考には
するけれども、競合ではなく逆に新規・既存の競合を弱らせてくれる
ありがたい存在という認識です。笑
実はChatWorkが強く競合視していた会社が3社ほどありました。
それはそれは嫌な存在でした。ChatWorkより後発にも関わらず
UIは洗練され、機能豊富で、マーケティングがうまく、資金も豊富で、
コンセプトもターゲットも全く同じという・・・
しかし、その競合はすべて買収された・・・
各社のブログや案内メールには、それぞれもっと成長させるために
買収されてこれからも頑張っていきます!と書いてありますが
それは全部表向きの言葉です。もう無理だとあきらめて売却したのです。
その辺りはシリコンバレーっぽいなーと感じますね。サッサとあきらめて
売却して資金を得て、2年後くらいに買収された会社を辞めて
次のスタートアップを立ち上げようという切り替えの早さ。
2000年から創業して2011年にChatWork一本に絞って社運をかけて
シリコンバレーにチャレンジしてるChatWork社にはありえない
意思決定。笑
ChatWork社はこれからもしぶとくしつこく戦い続けます。
--ChatWorkの味方が増えた
ここ半年で一番大きな変化が、ChatWorkの味方、応援者が増えました。
どういうことかというと、ビジネスチャットの市場が認知されるまでは
新しいツールを作って提供してるんだね、頑張ってねくらいでしたが
市場が一気に認知され、とてつもなく強い会社が出てきて
一強の独占になりそうだったら反対側を応援したくなるのが人間の心情なのか、
もしくは流行のものに乗っかりたいというのもあるのかわかりませんが、
シリコンバレーでChatWorkを応援してくれる会社、人が急激に増えました。
まず、ビジネスチャットの競合がChatWorkの味方になりました。
その会社はビジネスチャットではもう勝てないから
ピボット(サービスの方針転換)して、ビジネスチャットをまとめる
サービスに着手し始めました。
Facebook、Twitter、Instagramなどソーシャルが複数出てきたら
一元管理して投稿できるHootsuiteみたいなサービスが出てくるように
ビジネスチャットをまとめようというアイデアだそうです。
彼らからChatWorkもまとめの一つに入れたいから会いたいと言われて
会ったところ、「君たちには本当に頑張ってもらいたい。僕達が
Slackと戦ってる時に得た知識やアイデアは何でも教えるから
頑張ってくれ。なぜかというと、Slackが独占してしまうとまとめツールの
僕達の存在の意味がなくなるのでまた死んでしまうからだ。」という理由。笑
次にデザイン会社。Slackのデザインをしたデザイン会社がシリコンバレーで
とても有名になり、ChatWorkもデザインの相談をしようと思って
いろんなデザイン会社を回っていたら、CEOがいきなり出てきて
「俺達に通常の半額でいいからデザインやらせてくれないか。CEOとして
普段はプロジェクトには直接関わらないけど、ChatWorkだけは特別だ。
アジア最大のChatWorkを世界に普及させて俺達の名を上げたいんだ」
次にアメリカ人マーケッターの採用においても、普通は日本の
スタートアップには同じくらいの条件だったらアメリカ人は入りたがらない
のですが、うちで想定していたスキル以上を持ち合わせたマーケッターが
「つい2、3週間前にSlackの記事を読んだところなの。そしたら
エージェンシーからちょうどChatWorkのマーケティングというポジションを
オファーされて、もうこれしかないと思ったわ!私は過去にアメリカ以外の
会社のプロダクトをアメリカはじめ世界に普及させた経験があるから
再び同じようにChatWorkを世界に普及させたいの。」
今年に入ってからこんな出来事が次々に起きていて、ChatWork社が入っている
シリコンバレーのインキュベーション施設「Plug and Play」においても
350社の中からHottest companyに選ばれたりなど、
同じように活動しているにも関わらず非常に追い風を感じてます。
--アジアのユーザーが急激に増えている
Slackは英語のみでUIが特徴的ということもあって、エンジニア以外の層に
合わなかったり、2バイトコードのアジア市場において感覚的なものも
あるのか、ChatWorkの日本のユーザーはリリース以来、継続的に毎月
成長しているのと同時に、アジアのユーザーが急激に増え始めています。
ChatWorkは日本市場はもちろん、今年はアジアでの展開を強化
することを意思決定し、アジア各国で採用活動を始めています。
それぞれの国のスタートアップと情報交換すると、彼らも
Slackのことは知っていますが、ChatWorkを知ると乗り換えてくれたり
ブログ記事で比較記事としてChatWorkを紹介してくれています。
■ChatWorkの今後の戦略
アメリカ人から見るとアジアの市場は大きいが、未知というかミステリー。
どうやって入って行ったらいいか理解できない。日本からアメリカを
攻めると逆もまたしかりで、入り込むのが非常にタフではありますが
欧米系のビジネスチャットがほぼ全滅した今、ChatWorkは日本と
アジア市場を確実に押さえて、CEOである私が常にシリコンバレーの
中から欧米市場を虎視眈々と狙い続けるという戦略です。
中国で力を蓄えてアメリカで上場して、アマゾンに戦いを挑んでいく
アリババのようなイメージでしょうか。
シリコンバレーに来て約3年。ようやくこちらの戦い方や流儀が
見えてきましたし、ビジネスチャットの市場も熟してきました。そして
Slackが競合を一掃してくれたので、もともと社運をかけるつもりでしたが
過去に資金調達、銀行借入を一切せずやってきたところを
ここ以外の勝負時はないだろうということで、GMO VPから3億円の
資金調達をして、一気にブーストさせようという意思決定をしました。
資金調達前は日本のマーケティング部は2名でしたが、ここ3ヶ月で
8名採用し、10名体制で一気に日本市場に広げていきます。
アジアも各国で採用活動をスタートし始めました。
シリコンバレーも強力なVPが参戦し、有力なマーケッターが入社します。
今までやりたくてもやれてなかったことを、資金調達したことによって
実現させていきたいと思っています。
「日本発のITサービスを世界のプラットフォームに」を目指して。
■ChatWork誕生からSlackの台頭、そして未来のChatWorkについて
ChatWorkは2011年3月というLINEが生まれる前、チャットで仕事を
するなんてほとんど誰も想像すらしていない時期にリリースしました。
※2011年6月(LINEが公開された月)にシリコンバレーでプレゼンしたら
聞いていた350人のアメリカ人はポカーンとしていました。笑
市場がまだ存在していないような環境を見越してアグレッシブな
「メールの時代は終わりました」というキャッチコピーで
アーリーアダプターに訴えかける形で公開しました。
中小ベンチャー企業が市場を一から作っていくというのは本当に
大変だなぁと苦戦しつつも、LINEがその後一気に広がったことで
ビジネスで使えるLINEのようなチャットという言い方で
利用イメージは簡単に伝わるようになりました。
ただ、それでもLINEはわかるけど、ビジネスでチャット???
というイメージはなかなか拭いきれていませんでしたが
LINE、WeChat、WhatsAppという個人向けチャットが
世界中で普及したため、次はビジネスチャットだと参入する
スタートアップが続々と。
最初は競合が生まれる度にドキドキしていましたが
競合が増えれば増えるほど新しい市場が拡大していくのを
肌で感じることができ、競合も市場を作る上でありがたい
存在だと認識でき、社内ももっともっとプロダクトを磨かなきゃ
というモチベーションにつながり、ユーザーにも
利便性という意味で還元されて良いことだなと思うようになりました。
そこにSlack登場です。2013年くらいにリリースされる前の
ベータ版の状態から存在は知っていましたが、リリースされるやいなや
一部のTech界隈で話題になり始め、エンジニアなどの
アーリーアダプターからどんどん広がりはじめました。
ChatWorkとSlackの一番の違いはメインターゲットが
エンジニア向けか非エンジニア向けかです。
ChatWorkは兄弟で運営していてCEOで兄の私はITが苦手な
マーケティングサイドの人間、CTOの弟は小学生の頃から
ゲームを作っていた超ギークな人間のコンビなので
サービスは最初から非エンジニア向け。
他のスタートアップはCEOもエンジニア出身であることが多いため
どうしても自分が欲しいと思うツールになりがちで、
つまりエンジニア向けになるため、ほとんどのビジネスチャットの競合は
エンジニア向けです。
エンジニアは常に良いツールを探しているし、広がるのも早いです。
それと同時に今よりもいいものが出ればすぐに乗り換えます。
Slackの台頭の大きな要因の一つに、他の競合ビジネスチャット
サービスが作って広げてきたユーザーを根こそぎ
持っていったからであることは間違いありません。
Slack台頭の背景として、そこを見落としている方は多いのではないか
と思います。一方でChatWorkが狙っている市場は非エンジニア層です。
そもそも効率化のためのツールを探している方も少ないし、
メール以外のツールを使う方は稀な層です。
その層に対してChatWorkのような新しい概念のツールを広げ、
使ってもらうことは非常にタフで時間がかかります。
しかし、一方で一度使い始めたらファンになって使い続けてくれることもわかっています。
Slackの時価総額から見てもわかるようにVCから見たら確実に
長期的に成長していることより、Slackのようなホッケーカーブを描く
サービスの方が魅力に感じることでしょう。
ただ、世の中の90%以上の人が非エンジニアです。
ChatWorkは2011年というチャットで仕事するということを
ほとんど誰もが想像していない時に、広げるのは大変だが、
その大きな市場を最初から狙っていたのです。
2010年のChatWorkを開発し始める段階で、次出すサービスは
世界を狙えるサービスにすることを決めていました。
代表である私が日本にいた方がChatWorkの日本の売上が
伸びることは間違いありませんでしたが、
日本発のITサービスが世界で普及しているものがないという
IT企業の社長として看過できない問題を何とかしたいという思いで、
リリースした翌年の2012年には代表の私自らが
シリコンバレーに移住してグローバル展開を開始しました。
現在までのChatWorkの周辺環境をまとめると
2010年にChatWork参入を決めた時は競合ビジネスチャットツールは皆無、GoogleはGoogle Waveというチャットサービスから撤退して再参入は
当分先になる、Facebookは個人向けSNS、Microsoftはクラウドサービスに
弱いため、今がチャンスと参入を決意
2011年はチャットで仕事をするという市場はほぼない状態
2012年はLINEによって個人のチャット市場が認識され始める
2013年に競合乱立によってビジネスチャット市場が広がり始める
2014年、Slackによって世界中の人が一気にビジネスチャットに注目
現在シリコンバレーでも最も注目されているジャンルの一つである
ビジネスコミュニケーションにおいて、最初から現在まで
そのど真ん中でプレイヤーの一つとしてチャレンジできている
今の状態はエキサイティングという言葉では言い表せないほど
エキサイティングな毎日です。
エンジニア向けのSlackが一般向けにフィットさせてくるのが先か、
最初から非エンジニア向けのChatWorkが世界市場を先に
押さえるのが先か。敵が強ければ強いほど燃えてしまう
私の性格にはたまらないシチュエーションです。
そして、実はChatWorkと同等のビジネスツールのアイデアが
あと2つあります。本当はChatWorkの開発と同時に進めたかった
のですが、エンジニアのリソースが限られているため
ChatWorkだけでも手一杯でしたが、2015年の後半から
当時のビジネスチャットのようにまだほぼ誰も気づいていない
ツールの開発に着手します。
2000年の創業時からリモートで働いてきたEC studio(旧社名)時代
からの働き方をツール化して提供する。市場が盛り上がってきたから
参入するのではなく、時代の先を見越して市場を作っていく。
これが創業当時からの私達のやり方なので、周りの状況に
振り回されることなく、これからも虎視眈々と世界を狙い続けます。
振り回されることなく、これからも虎視眈々と世界を狙い続けます。