国際安全規格は、ISO(国際標準化機構)の規格と IEC(国際電気標準会議)の規格が代表的です。ISO と IEC は協力関係にあり、
電気電子分野を IEC 規格がカバーし、その他の分野を ISO 規格がカバーしています。
これらの安全規格は体系化されているのですが、ISO 規格と IEC 規格とでは、
その体系が少し異なります。
安全規格体系の話は、安全規格に深く関わる方は知っておいたほうが良いと思いますので、ここに記しておきたいと思います。
ISO/IEC国際安全規格の体系は、図1に示すように、
基本安全規格、グループ安全規格、製品安全規格の3つの階層に分かれています。

図1 安全規格体系 (ISO/IEC Guide 51 型)
基本安全規格: |
一般的な安全性に関する基本概念、原則、基本要求事項を含む規格
(原則論の規格) |
グループ安全規格: |
複数のまたは一群の製品、プロセス、またはサービスの安全性を含む規格
(広範囲に適用できる安全側面についての規格) |
製品安全規格: |
個別のまたは一群の製品、プロセス、またはサービスの安全性を含む規格
(特定の製品の安全規格) |
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基本的には、下位の規格は上位の規格に従います。
また、個別の製品安全規格が無い場合はグループ安全規格を、
グループ安全規格も無い場合は基本安全規格を適用しますので、
原則上、すべての分野・製品にもれなく適用できる体系になっています。
それぞれの規格の例としては、以下の規格があります。
基本安全規格: |
ISO 12100 「機械類の安全性 − 設計の一般原則 − リスクアセスメント及びリスク低減」
(基本的には、この規格だけです。以前は、ISO 14121 という規格も存在しましたが、ほぼ ISO 12100 に統合されました) |
グループ安全規格: |
ISO 13849 「機械類の安全性 − 制御システムの安全関連部」
ISO 13855 「機械の安全性 − 人体各部の接近速度に対応した保護装置の位置決め」
IEC 60204 「機械の安全性 − 機械の電気機器」
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製品安全規格: |
工作機械、産業用ロボット、印刷機械などの安全規格 |
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一般的には、このように説明されます。
これは、ISO/IEC ガイド 51 に基づいた安全規格体系の説明です。
安全性に関するガイドは、ISO/IEC ガイド 51 以外に、もうひとつあります。「IEC ガイド 104」です。
(正確には、他にもいくつかあるのですが、適用範囲が限られたものですので、いったん置いておきます。)
IEC の規格は、この2つのガイドに定められた原則に従うことが推奨されていますが、
多くの場合は主として IEC ガイド 104 に従って作成されているようです。
実は、ISO/IEC ガイド 51 には、
「電気及び電子工学領域の体系的なアプローチに関しては、IEC ガイド 104 を参照のこと」
と書かれていて、電気電子分野の規格である IEC 規格は、図1の安全規格体系ではなく、
IEC ガイド 104 の安全規格体系に従うことが原則のようです。
図2に、IEC ガイド 104 の附属書に描かれた安全規格体系を示します
(IEC ガイド 104 の位置を示すために少し変えてあります)。

図2 IEC 安全規格体系 (IEC Guide 104 型)
基本安全規格: |
特定の安全関連事項の規格で、多くの電気製品に適用できる。 |
グループ安全規格: |
複数の製品TCの担当範囲に含まれる特定製品群の全ての安全面をカバーしている規格。 |
製品安全規格: |
ひとつの製品TCの担当範囲に含まれるひとつ以上の製品の全ての安全面をカバーしている規格。 |
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※ TC(専門委員会)とは、規格の作成や保守などを行う委員会。
それぞれの規格の例としては、以下の規格があります。
基本安全規格: |
IEC 60529 「エンクロージャによる国際保護等級」(IPコード)
IEC 60664 「低電圧システム内の機器の絶縁協調」
IEC 61140 「電撃に対する保護 ― 設備及び機器の共通側面」 |
グループ安全規格: |
IEC 61010 「計測,制御及び試験所使用電気機器の安全要求事項」
IEC 60364-4-41 「低電圧電気設備−第4-41部:安全防護−感電に対する防護」 |
製品安全規格: |
IEC 60335 : 「家庭用及びこれに類する電気機器の安全性」(白物家電など)
IEC 60950 : 「情報技術機器 ― 安全性」(パソコンと周辺機器) |
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図2の矢印は、引用を意味していると考えて良いでしょう。
基本安全規格は、基本概念や原則を記述したものという位置づけではなく、
多くの規格が引用できる、安全性の要素のような規格になっています。
この体系は、図1のピラミッド的な体系とは異なり、「引用される → 引用する」
の関係で構築されています。
このことは、IEC のパンフレット "Basic Safety Publications(基本安全規格)"
の記述からも察することができます。
このことを規格を使用する側から見ると、評価したい製品に対応する製品安全規格を読めば、
そこに必要な参照先が書かれているので、
規格体系を意識せずにすべての必要な試験を行い安全性を評価することができるという利点があります。
では、IEC の規格では、原理原則については考えられていないのかというと、そうではなく、
「水平規格」というものがあります。
水平規格: |
多くのTCに関連する、基本的原則、概念、用語または技術的な特徴についての規格。 |
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水平規格については、また別のガイド(IEC ガイド 108)に記述されていて、まだその内容を確認していないのですが、
安全性に関する水平規格は、基本的には基本安全規格になるのではないかと思います(IEC ガイド 104 の文面からの憶測)。
ISO と IEC の安全規格体系の違いは、マネジメント重視でトップダウン的な傾向がある ISO 規格と、
試験の現場で使いやすいように試験手順書化を重視した IEC 規格の性格の差が現れているのだと思います。
また、産業用機械などのように危険性が高く多様性に富む機器については、図1の規格体系が適切で、
家電などのように既存の知見が生かせて、かつ多くの機種を素早く評価する必要がある場合は、
図2の規格体系が使いやすい、という印象を持っています。